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40 仕事の評価

 お菓子を手に農場へ。

 ノインはラッピングまでしてくれた。おしゃれなリボンも付いている。


 きっとミィも喜んでくれるだろう。

 そう思っていたのだが……。


「甘っっっ! これ、甘っっっ!」


 白目を剥くミィ。よほど甘かったんだろうな。


「口にあわなかったか?」

「ううん……これは甘すぎて食べられないよぉ。

 残りは返すね。他の子にあげて」


 折角のお土産を突き返されてしまう。

 何気にショックがでかい。


 ミィの口にはあわなかったようだ。

 気に入ってもらえると思ったんだけどな。

 ぐすん。


「もしかして、甘いのって苦手?」

「ううん……しょっぱいお菓子とかの方が好きかも」

「具体的には?」

「ポテトチップとかが好きかな」


 ポテチな。ジャンクなのが好みなのね。


「分かった、今度作ってやる」

「本当に⁉ うれしい! ユージ大好き!」


 そう言って俺に抱き着くミィ。


 こんなに喜ぶとは……よほどポテチが好きなんだな。

 今度ノインに頼んで作ってもらおう。


「今日の仕事はどうだった?

 上手くいったのか?」

「ううん……」


 険しい顔になるミィ。あまり芳しくない様子。


「なにがダメだった?」

「仕事は上手くいったの。

 でも……ベルって子に嫌われちゃって」

「え? 嫌われた?」


 ベルは感情を表に出すタイプではないと思ったので、彼女がそう言う印象を抱くのは意外だった。


「なにがあったんだい?」

「私のやることなすこと、

 なんでもかんでも否定するんだよ。

 それはいけないとか、やらなくていいとか」


 ううん? どうも変だな。


 ただ単に注意しているだけのような気もするのだが、ミィは否定されたと感じるらしい。


 他にも仕事で苦労したことについて、彼女は延々と話し続けた。昨日は全く愚痴なんて言わなかったので、ちょっと不思議に思う。


 やはり教育係が変わったのがダメなのか?

 ベルとの相性が良くないのかもしれない。


「そうか、大変だったな」

「うん……早くユージの部屋に帰りたいよ」


 つっても工事が終わるまでは帰れんぞ。


 ミィの話を聞くだけでは、何があったのか正確には分からない。

 ベルからも話を聞く必要があるな。


「それじゃぁ、そろそろお休み。

 俺はこれで帰るよ」

「え? もう行っちゃうの?」

「ああ、このあと用事があるからな」

「そうなんだ……」


 眉毛を垂らして寂しそうにしょげるミィ。

 ちょっと可愛そうになった。


「明日もまた来るから……」

「本当に?」

「ああ、本当だとも」

「嘘じゃない?」

「嘘じゃないとも、本当だとも」


 このやり取り何回目? そろそろ飽きたぞ。


 俺はミィに別れを告げ、マムニールの元へ向かう。

 ベルから詳しい話を聞くためだ。






「……と言うことで。

 ベルさんから詳しく話を聞きたいのです」

「ベルに“さん”なんてつけなくても結構よぉ」


 マムニールはそう言うが、どうしても奴隷って感じがしないんだよな。


「それで、今日もミィちゃんのことが気になって、

 話を聞きに来たのね?」

「ええ、そうなんです。

 よろしいですか?」

「もちろんよぉ。ベル、話して頂戴」

「かしこまりました、奥様」


 ベルは淡々と今日の出来事について教えてくれた。


 彼女はメイドの仕事を一から丁寧に教えた。

 ミィは一度聞いたことは絶対に忘れず、一回手本を見せるだけで完璧に仕事を覚えた。マムニール様の専属のメイドとして働かせても申し分ないレベル。

 かなり高く評価しているので、何も問題が無いように思えたのだが……ベルはミィの性格についても言及。そこから問題の本質が見えてきた。


 ミィの抱える問題点は対人関係。

 言われたことは正確にこなすのだが、他の奴隷たちと一切かかわろうとせず、すれ違っても挨拶すらしない。


 そのことを注意すると嫌そうな顔をされた。根気強く挨拶することの大切さを説いたのだが、話を半分も聞いていないようだった。

 むしろ、仕事をしっかりとこなしているのに、なにが問題なのかと文句すら言われた。


 彼女との付き合い方で悩んでいると、正直に告白してくれたのだった。


「すまないな、うちのミィが迷惑をかけて」

「これもマムニールさまの命令です。

 明日も私が教育係として付き添いますので、

 どうぞご心配なく」


 そうは言うが、やはり心配だ。


 ミィは妙なところで頭が固いな。仕事はできても人間関係がてんでダメ。

 このままではマズイ気がする。


 俺にできることは何もない。

 ただ様子を見守るだけで精いっぱい。


 なんとか馴染んで欲しいものだが、ミィにはハードルが高そうだ。


「一つ提案なんだが……。

 ミィに割り振る仕事をマニュアル化してはどうだ?

 ルーティンワークなら問題なくこなせるだろう?」

「それは受け入れがたい提案ですね。

 マムニールさまに仕えるメイド長として、

 それだけは断じて受け入れられません」


 俺の提案を一蹴するベル。


「ユージさんになんて口の利き方をするの。

 謝りなさい、ベル」

「申し訳ありません、奥様。ですが……」

「口答えしないの。立場をわきまえなさい。

 アナタは奴隷で、ユージさんはゼノの幹部。

 対等に意見できる相手ではないのよ」

「たっ、確かにそうですが……」


 ベルは決意のこもった目をマムニールへ向ける。


「やはり、同意しかねます。

 私たちの仕事はパターン化できません。

 日々、刻々と変わる状況に、

 柔軟に対応しなければなりません。

 人の気持ちが分からない者に、

 この仕事は決して務まらない。

 私はそう考えますが……」

「全く、奴隷のくせに生意気を言うのね。

 ユージさんごめんなさいね。

 うちの奴隷が失礼なことを……」


 マムニールは謝罪するのだが、俺としては逆に恐縮してしまう。


「いや、謝らないで下さい、ご婦人。

 ベルの言っていることは間違っていません。

 むしろ悪いのは無理を言った俺の方。

 彼女は何も悪くない」

「けど……」

「いいんです、本当に。

 ミィの面倒をよく見てくれるとは思いますが、

 不満なんて何もありません」

「そう言ってくれるのならいいのだけど……」


 マムニールはホッとした様子で胸を撫で下ろす。

 ミィのせいでいらん気遣いをさせてしまい、申し訳ない気分だ。


「今日はこれで失礼します。

 毎度、苦労をかけて申し訳ない」

「いいのよ、ユージさん。

 気兼ねなくいつでもいらして」

「ありがたいお言葉、感謝します。

 それではおやすみなさい」

「おやすみなさい」


 マムニールに挨拶を済ませて、居室を後にする。


 今日もベルが付いて来てくれた。

 丁度いい。彼女からもっと詳しく話を聞こう。


 二人っきりでしかできない話もあるだろうから……。

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