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368 裏切者と勇者

「は? 今なんて……」


 思わず聞き返してしまった。


「アナタの仲間の中に、裏切りものが二人いる。

 そのうちの一人は反乱の件に関与している」

「いや……何を言っているんだお前は……」

「信じられないかもしれない。

 けれども知っておいて欲しい。

 ユージの恐れている事態は妄想ではない。

 現実に起こりうること」

「それを今なんで……」


 何故、シロは黙っていたのか。

 もっと早く教えてくれればよかったのに。


 この子は俺を試しているのか?


「ユージ、落ち着いて」


 ミィが俺の手に、そっと手を重ねる。


「この子を素直に信じることはできないけど、全くの嘘ではないと思うんだよ。

 もうちょっと話を聞いてみよう」

「ああ……そうだな」


 俺の仲間に裏切り者がいる。

 それも二人。


 そんなことを聞かされて冷静でいられるはずがない。


 彼らは苦楽を共にした大切な仲間たちだ。

 あいつらが俺を裏切るはずが――


「なぁ、シロ。教えてくれ。

 その裏切り者って……いったい誰なんだ?」

「それは言えない」

「なんでだよ!」


 俺が声を荒げるとミィがそっと肩に手を置いていさめた。


 分かっているが、冷静でいられない。

 俺は明らかに動揺している。


「その理由についても言うことができない」

「どうして⁉」

「言ってしまったら……壊れる」

「何が?」

「私たちの関係が」


 言ったら俺たちの関係が壊れる?

 どういうことなんだ……。


「ねぇ、それってどういう意味なの?」

「今は言えない」

「言えない、言えないって……さっきからそればっかりじゃない。

 むやみに私たちの不安を煽るのはやめてよ」

「…………」


 ミィに言われてシロは黙る。


 いったいどうして彼女はこんなことを?

 いや……事実なのだろうが。


 だとしても裏切り者の名前を言えないのは何か理由があるのか?

 どんな理由があると?


 冷静に考えてみよう。

 シロが裏切り者の名前を言えない理由。

 俺たちの関係が壊れる?

 信頼が損なわれると思っているのか?


 あるいは……受け入れられない事実だから?

 シロが名前を告げたところで俺がその答えを否定し、彼女を疎外するようになると?


「シロ、お前は恐れているのか?

 俺たちがお前を嘘つき呼ばわりするのを」

「肯定する」

「ううむ……」


 彼女は俺たちを信じていないのか。

 あるいは、良く知っているからこそ言うことができないのか。


 ……分からない。


「ねぇ、ユージ。

 もうやめにしようよ。

 このままこの子の話を聞いても、無駄に混乱するだけだと思う」

「……確かに」

「シロも、私達を不安にさせるのは止めて。

 裏切り者がいるなんて聞いたら不安になるし、その正体を言えないってのも変。

 本当のことを言っているの?」

「嘘はついていない」


 シロはきっぱりと断言する。


 この子はむやみやたらに嘘をついて、人を騙したりするような子じゃない。


 けれども、この子の考えを読み取れるほど俺はシロをよく知らない。

 まだ出会って数か月しかたっていないからな。


 それはミィも同様だ。

 俺たちはまだ、互いを信じ切れるほど強固な関係が築けているとは言えないのだ。


 それは……他の仲間たちも一緒だな。


 シロが言う通り、俺の仲間には裏切り者が潜んでいるのだろう。

 今までそんな風には思ったことがなかったし、心の底から信頼できると感じていた。


 だが……俺は彼らのすべてを知っているわけじゃない。

 俺の知らない顔を、彼らは持っているのだ。


 皆とは今まで以上により強い関係を築く必要がある。

 そうすれば――


 そうすれば?


 裏切り者は俺たちの方に付く?

 勇者と手を切り全ての計画を放棄して、本当の仲間になってくれるのか?


 そんなに簡単な話ではない。


 その誰かは、俺を騙し、仲間たちを欺き、にこやかにほほ笑むその顔の裏で虎視眈々(こしたんたん)と反逆する機会をうかがっていたのだ。

 そんな奴がまた一緒に働いて、俺に力を貸してくれるというのか?


 もし、裏切り者が誰か分かったら……!


「ユージ、早まらないで」


 シロが言った。


「もしかしたら、その人物はユージの仲間として、新しい関係をスタートするかもしれない。

 私は未来までは読めないので、これからどう関係が変化していくのか、そこまでは分からない。

 だから……」

「そいつを排除するのは待てと?」

「そう」


 ううむ……。


 シロはどこまで先を読んでいるのか。

 俺には分からん。


 しかし、彼女はこのまま直ぐに問題を解決するよりも、時間を置いた方が良いと考えているようだ。


「分かった……今はまだ、それが誰なのかは聞かない。

 だが、これだけは教えてくれ。

 シロは裏切り者から、奴らの計画の概要を引き出すことができたはずだ」

「私はまだ断面的にしか読み取れていない。

 一人は、ほとんど何も知らされていない。

 もう一人も部分的に協力しているだけ」

「ふむ……では、連中と接点を持っている者。

 その者が誰なのかを教えてくれ」


 裏切り者が計画の概要を知らなかったとしても、彼らをつなぎとめている連絡係がいるはずだ。


 そいつを押さえればこの問題は片付く。


「彼らを裏で操っているのは、

 ステファノと言う勇者」

「ステファノ?」


 聞かない名前だな。


 勇者にはあまり詳しくないので、知らなくても当然なのだが。


「どういう人物なんだ?」

「歳をとった男」

「……それだけ?」

「詳しくは分からない。

 裏切り者の二人は、名前しか知らない。

 けれど……」

「なんだ?」

「ステファノは強い憎しみを抱いている。

 獣人と、獣人が支配するこの国。

 そしてレオンハルトに」

「ううむ……」


 獣人を恨んでいるってことは、前回の戦争で身内を殺されたとか、そんな感じの過去があるのか?


「ねぇ、シロ。

 そのステファノって男は、この国にいるのかな?」

「分からない。

 他の勇者と同様に身を隠して、この国へ侵入を繰り返している。

 読み取れる情報はほんのわずか。

 私の中にある情報だけでは、その勇者の全容を知ることはできない」


 ミィは俺の方を見る。


「ユージ、先ずはその勇者の情報を集めようよ。

 ステファノがどういう人物で、どういう力を持っているのか。

 敵を知ることができれば攻略法も分かると思う」

「……そうだな」


 ミィの言う通りだ。


 ステファノについての情報が集まれば、色々と打つ手が見つかるかもしれない。


 しかし、どうやって探せばいいんだ?


 シロの話を聞く限り、そのステファノって男はかなり用心深い性格のはずだ。


 裏切り者の二人も詳しくは知らないようだったし……自分の情報を漏らさぬよう、最新の注意を払っているのかもしれない。


「どうやって情報を集める?

 手がかりなんて何もないぞ」

「ユージの仲間に二人も裏切り者がいるなら、他にももっと協力者がいると思う。

 手当たり次第に探りを入れれば、なにか分かるんじゃないかな?」

「そうだな……だが、どこを当たる?」

「予定通りオークの集まる酒場へ行ってみたら?

 何か分かるかもしれないし……反乱分子を探すこともできるから一石二鳥だよ」


 やっぱりそれしかねぇか。


 どこの誰が協力者か分からない以上、とにかく数を当たるしかない。

 オークが集まる酒場へ行けば何かしら情報が手に入るかもな。


「分かった、予定通り酒場へ行こう。

 一緒について来てくれるよな?」

「うん!」

「私にできることあがあれば、なんでもする。

 私はユージのパートナーだから」


 シロが言うと、ミィは即座に反応する。


「ねぇ、パートナーってどういう意味なのかな?」

「そのままの意味。かけがえのない関係」

「だったら、私もユージのパートナーだからね?

 それを忘れないでね?」

「パートナーはいつも一人。

 ユージのパートナーは私だけ」

「やっぱりこの子、嫌い!」


 さっそく喧嘩を始める二人。

 そろそろ勘弁してくれないかな。

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