表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

355/369

355 幹部はつらいよ

「ああ……大丈夫だ」


 俺はシロの頭を撫でる。


「クロコドさま。

 そのターマスという男について。

 もっと詳しく聞かせてもらってもよろしいですか?」

「ああ……別に構わんが。

 知り合ってまだ日も浅いからなぁ。

 奴の父親とは懇意にしていたのだが……。

 今まで顔を合わせたことはなかったのだ」

「彼の印象は?」

「ううむ……」


 クロコドの顔が険しくなる。

 こんなに悩まし気な彼は初めて見た気がする。


「正直に言うとな……最悪だ。

 何を言っても直ぐに反発する。

 大言をうそぶいて弱者を見下す。

 だからと言って何か取り柄があるわけでもなく、力で相手をねじ伏せることしか頭にない」


 典型的なクソってことか。

 こりゃぁ、矯正に手間がかかりそうだぞ。


 俺が書いたクソ小説みたいに面倒な奴はさっさと殺せたらいいのだが、現実だとそうもいかない。

 そりが合わない相手でも付き合っていかないと……幹部候補ならなおさらだ。


「他にもだな……。

 金しか頭にない者。

 公然とこの国の政治を批判する者。

 色ごとばかり夢中になって仕事を放棄する者。

 本当に手のかかる奴ばかりでな。

 そいつらが残りの3席をめぐって、互いに争っているのが現状だ」

「それは……苦労されているのですね」

「もとはと言えば、貴様がなぁ……」


 俺の方を見やるクロコド。

 文句を言いたいが、言えない。


 そんな悩ましい顔つきをしている。


「私が何か?」

「幹部を2人指名する権利を得ただろう。

 そのせいで、わしの指名権が3席になってしまい幹部の席が足らんのだ」

「私のせいだと?」

「そう言うわけではないが……」


 俺のせいだって言ってるようなもんじゃん。

 まぁ、別に良いけどさぁ。


「では、私が本来貰えるはずだった領地を分け与えては?」

「それは……そのぅ」


 口ごもるクロコド。

 どうやらその気はないようだ。


「手放せない理由があると?」

「別にそう言うわけでは……。

 いや、だが……ないわけでも……」

「その理由をお聞かせ願いたいのですが……」

「今はまだ、話せん。

 別にやましいことがあるわけではない。

 だが何というか……その……」


 どうやら理由があるらしい。


 別に彼の口から聞く必要はない。

 後でシロに聞けば直ぐに分かる。


「いっそのこと幹部の席を増やして、残りの領地を皆で仲良く分割してはどうですか?

 そっちの方が丸く収まると思いますが」

「それも……そうだな」

「ダメだ!」


 突然、マルストが怒鳴る。


 ずっと黙っていた彼が大声を発したので、クロコドは彼を見て目を丸くする。


「どっ……どうしたのだ、急に。

 大声などだして……」

「あの土地は……あそこは僕の領地なんだ!

 バラバラにするなんて、そんな……」

「しかしだな、マルストよ。

 他に解決の手段がないのだ。

 その案を飲まぬのであれば他の幹部候補と決闘になるぞ。

 もしお前が負けるようなことがあれば……」

「ぐうううううううう!」


 今度は泣き出すマルスト。

 怒ったり、泣いたり、極端だな。


 この人は能力云々よりも、先ずは人との関わり方を覚える方が先。

 今のまま幹部になったところで役に立つとは思えない。


「クロコドさま……」

「ううむ、今は何も言うな」


 俺が目を向けると、いたたまれずに顔を背けるクロコド。

 彼も彼で苦労しているようだ。


 ……悩ましいなぁ。


 領地の経営については詳しく知らんが、マルストにその能力があるかと聞かれたら、ハッキリ無いと答えられる。


 領民をたしなめて税を徴収し、何か問題事があれば真っ先に出向いて解決して、上司である魔王との連携を密にとりつつ、魔王城での仕事もこなさないといけない。


 牛と蛙の幹部の二人は魔王城で働きながら自分の領地も管理している。

 あの二人もそれなりに有能なのかもしれん。


 魔王軍の幹部って、割に合わない仕事だよなぁ。

 面倒な雑務と領地の運営。

 両方を同時にこなさなければならない。


 俺の領地をクロコドが管理してくれたのは、ある意味で幸運と言ってもいいだろう。

 おかげで俺は自分の仕事に集中できた。


 感謝こそすれ、恨むなんてとんでもない。


「ふむ……ではマルスト殿にお聞きします。

 領地を手放したくない理由とはなんでしょうか?」

「うぐっ、ひくっ……それは……」

「住みなれた土地を離れたくない?」

「うっ……うん」


 コクコクと頷くマルスト。

 肯定しているようだ。


「だとしたら、幹部になるのはおススメできません。

 この城で仕事をすることになりますので……。

 生まれ故郷を離れることになります」

「でっ……でもぉ……。

 そうしないとママが……」

「住んでいる土地を追い出されると?」

「そうだよぉ!」


 彼が役割を継ごうとするのは家族のためかぁ。


 それはそれで立派だと思うのだが……ママって。

 おいおい。


「なぁ、ユージよ。

 マルストだけでも良いのだ。

 なんとかならんか?」

「あの……なんとかとは?」

「幹部にふさわしい人材として育て上げて欲しい」


 まさかの無茶ぶり。


 なんとかなるかって……ならんでしょ。

 どないせぇっちゅーねん。


「まぁ……難しいでしょうねぇ。

 と言うか、彼も戦場へ連れていくつもりなのでしょう?

 生きて帰れる保証はありませんが」

「勿論、わしが守るつもりだ」


 いや、アンタが守るって……自分で戦わなきゃ意味ないでしょうが。


「それで……彼が生きて帰ったとして、なんの意味があるのでしょうか?

 自分で戦ってこその戦士です。

 領地を継ぐ、幹部になる。

 目的を持つことは結構な事ですが、実力が伴わなければ無意味です。

 何かを成そうとするなら、目的に見合った実力を身に着けなければ」

「分かっている! わしだって! それくらい!」


 クロコドはもう言わないでくれと耳を塞ぐ。

 彼の耳は目の後ろにあるので両手で頭を抱える形になった。


 人間のような体形なのに、人間とは違う仕草。

 獣人って面白いな。


「はぁ……分かりました。

 クロコドさまにはお世話になっているので、微力ながらお力添えさせて頂く所存です」

「おおっ! そうか! よかった!

 断られるかと思っていたが……ホッとしたぞ!」


 本当に安心した様子のクロコド。

 この人もこの人で苦労が絶えんな。


「そう言えば……クロコドさま。

 ヴァルゴはどちらに?」

「うん? ああ……アイツか。

 確か近衛兵の宿舎にいたはずだ。

 あいつに何か用か?」

「いえ……」


 面倒ごとを押し付けられたら別の奴に押し付けるに限る。


 素直に自分で処理する必要なんてねぇんだよなぁ。


「そう言えば、クロコドさま。

 ヴァルゴはお役に立てていますか?」

「まぁ……あいつは馬鹿だが、頭がいいからな。

 面倒な事務仕事などは問題なく任せられる」


 問題なくぅ?

 あいつ、ケアレスミス多そうだけどな。

 それが理由で追放されたわけだし。


 クロコドは細かくチェックしていないのだろう。

 とんでもないミスをやらかしているかもしれんぞ。


「では、マルストのことを頼むぞ。

 お前からもきちんとお願いするのだ!」

「おっ……お願いします」


 そう言って頭を下げるマルスト。

 上目遣いで俺を見ている。


 その瞳はとても鋭く、シベリアンハスキーらしい目つき。

 見た目だけはカッコいい。


 獣人って見た目の印象が強い分、中身とのギャップが激しい。

 マルストも見た目で苦労してたりするのかね。


「うう……」


 彼をじっと見つめていたら、目を背けてしまった。

 大丈夫か……本当に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ