350 色んな機能
「ユージさまが喧嘩だなんて、珍しいですね」
俺の身体を修理しながらゲブゲブが言う。
「別に喧嘩をするつもりは無かったんだ。
襲われていたオークを見捨てられなくてな」
「へぇ、オークが。相手は獣人ですか?」
「ああ……複数で一人のオークをな。
とても捨て置けなかったよ」
「そうですか……」
物語の中で弱い者いじめをする描写はよくある。
しかし、異種族を集団で暴行するシーンは、あまりないような気がする。
いや……人間が弱い者いじめしてる描写はよくあるな。
勇者とか言う奴が雑魚モンスターを狩りまくるのも、弱い者いじめなのかもしれない。
自分よりも弱い奴を痛めつける時。一種の快感を伴うと、何かで聞いた気がする。
さらに正義というエッセンスが加わると、その快楽は何倍にも増すのだ。
人間が魔族を痛めつける。
あるいは、魔族が人間を痛めつける。
それで快楽を感じるのは、正直言って理解できないわけではない。
俺もテレビゲームやスマホゲーで雑魚を狩りまくったからな。
しかし……だ。
同じ魔族の側に立つ種族であるの獣人が、自分より弱い立場のオークをいじめるのはどうなんだ?
そもそもオークって、いじめられるよりも、いじめる側の種族だからな。
一般的には。
女騎士とか、女エルフを捕まえて、オークが集団でいやらしいことをするのは使い古された陳腐すぎるお約束だ。
そう言う種族であるオークが獣人たちから迫害されている現実。
なんとも受け入れがたい。
実際に目にして思うが、ファンタジーって思ったほど、ファンタジーしてない。
生々しくて、嫌らしいまでにリアル。
これなら元居た世界の方が良かったな。
「ユージさまはお優しいんですね」
「別に優しくなんてない。
俺は当たり前のことをしただけだ」
「またまたぁ、格好つけちゃって!
いよ! この色男!」
俺をからかうゲブゲブ。
身体が骨の色男なんて見たことねぇよ。
「さぁ、出来ましたよ。
試しに動かしてみて下さい」
「おお……良い感じだ。
流石、ゲブゲブ。良い腕だな」
「誉めたって何も出やしませんよ?」
「ふんっ、別にお世辞なんて言ってないぞ」
ゲブゲブは本当にいい仕事をする。
こんな夜遅くに仕事を頼んだにも関わらず、嫌な顔一つせずに引き受けてくれた。
毎度のことながら、彼には本当に助けられる。
「それはそうと、新しいのを作ったんですよ」
「また何か変な機能を付け加えたのか?」
「変な機能だなんて聞き捨てなりませんね。
今回は実用性抜群のスペシャル仕様!
必ずご期待に沿えると思いますぜ」
ご期待って……期待なんかしてねぇよ。
いらねぇ機能なんか付けなくてもいいから。
まともに動かせるかだけを考えてくれ。
「ささ、こちらです」
「……うわぁ」
ゲブゲブが案内してくれた部屋には、数体の骸骨がポージングして並べられていた。
それぞれ、武器を構えてカッコいいポーズをとっている。
「こちらがですね……大砲君一号」
「大砲君?」
「見てください。
ここにハンドキャノンが付いてるんですよ」
ゲブゲブが指示した骸骨の両腕には鉄砲のようなものが付いていた。
砲身は短いが、銃口はミカンくらいのサイズで割と大きめ。
「え? こんなにデカい球が撃てるのか?」
「いやぁ、これは苦労しましたよ。
なにせ、一発撃つと反動で腕が吹っ飛びますからね。
そうならないように改良を重ね、数発までなら耐えられるようにしました」
「ううむ……」
結局、身体が持たないことに変わりないのか。
使えるかどうか微妙だな。
というか、俺が注目したのは大砲そのもの。
どうやって作ったんだよ?
「この大砲、どこで仕入れた?」
「自作しました」
「……え?」
「自作しました」
作ったー⁉
それが本当ならすっごーい‼
「ねぇねぇ、どうやって作ったの⁉」
「えらく食いつきますね……。
マスケット銃をちょっと改造したんですよ。
つっても鉄の玉は撃ち出せませんから、サナトさまの作った魔法弾を発射するんです」
「へぇ、いつの間に?」
「この前、試作品を持って行ったら、余った球を集めてくれたんですよ」
「ふぅん……」
サナトはそんなこと、一言も言ってなかったけどな。
「サナトはこれを見て、なんて?」
「へぇ、すごいわね……って」
「それだけ?」
「ええ、他には何も言いませんでした」
もしかして、あの子。
ゲブゲブの才能に嫉妬したのか?
いや……むしろ逆で、同じ技術者として尊敬しているのかもな。
彼女の人柄を考えれば、そっちの方が可能性は大きい。
「他のも見せてくれるか?」
「ええ、勿論。こっちは……」
ゲブゲブは一体ずつ、どういう機能が備わっているのか説明してくれた。
ぶっ飛んで突撃するやつ。
攻撃すると毒針をばらまくやつ。
火炎放射器が備え付けてあるやつ。
爆発するやつ。
電流が流れるやつ。
腕が伸びるやつ。
などなど。
実に多彩なヴァリエーションを取り揃えていた。
いやぁ、ゲブゲブ。
お前は大した奴だよ!
こんなにも色んな機能が備わっていたら、俺は最強の存在になれるだろう。
だがな……。
「これって、全部……使い捨てなんだよなぁ」
「ですね」
「いちいち身体を乗り換えないと、継続して戦えないってことだよな?」
「そうなりますね」
ゲブゲブが用意してくれた多彩な機能の骸骨たち。
しかし、これらをすべて戦場へと輸送して戦うたびにセッティングしていたら、アホみたいにコストがかかる。
メンテナンスだって必要だろうし、実際に役に立つことはないだろう。
「あのな……ゲブゲブ。
俺がなんでお前を雇っているか分かるか?」
「代わりの身体を用意できるからでしょ?」
「ああ、そうだ。
しかし、死体を見つけるくらいなら俺にだってできる。
お前のことで一番気に入っているのは、どんな死体でも短時間で白骨化させられる所だ」
「……へぇ」
ゲブゲブは俺が何を言いたいのか、理解していないようだ。
「だからな、ゲブゲブ。
こんなオプションのついた代わりの身体よりも、お前一人の方がずっと大切なんだよ」
「それは分かります。
でも、何が言いたいんですか?」
「この骸骨を戦場へ持って行くことはできない。
だが、お前を戦場へ連れて行くことはできる」
「……あっ」
ようやく気付いたようだ。
「お前も一緒に行くんだよ! アルタニルへ!」
「いっ……嫌だああああああ!」
悲鳴を上げるゲブゲブ。
「戦争なんて嫌だぁ! 絶対に行きたくない!」
「うるさい! お前がいないと困るんだよ!
絶対に連れて行くからな! 絶対にだ!
俺たちはいつまでも一緒だ!」
「美少女ならともかく、死んでも復活するゾンビ野郎と一緒だなんて、絶対に嫌ですね!」
あっ、お前……!
言ってはいけない言葉を言ったな⁉
俺に向かって、言ってはならないことを……!
「俺はゾンビじゃねぇ!
腐った死体と一緒にするな!」
「何が違うんですかぁ!」
俺はゲブゲブのこめかみにグリグリ攻撃をする。
骨でやられると効くんだよね、これが。
ゲブゲブは戦場に行きたくないというが絶対に連れていく。
これは決定事項なのだ。
 




