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338 私は帰らない

 んで、次。

 俺はサナトの所へ向かう。


「おおい、サナトぉ!」

「はいはい、今行きますよー」


 鉄製の扉を叩くと、小さいのぞき窓が開いてサナトが顔を出す。


「遅くなって悪かったな。

 入っても大丈夫か?」

「はい、勿論!」


 サナトはそう言って首を引っ込める。


 しばらくして鉄製の大きな扉が開いた。

 開けたのは彼女ではなく、見張りのオークだった。


「……ご苦労」

「はっ!」


 びしっと敬礼するオーク。

 ゴブリンの真似をしたのか城内で流行り出している。


「例のものはできているか?」

「ユージさま、こちらです!」


 サナトの案内で部屋の奥へ。


 ここには彼女が制作した大量の魔道具が保管されている。

 倉庫と言うより工房のような場所だ。


「どうぞ、ご覧ください」

「ううむ……凄いな。

 流石としか言いようがない」


 サナトが見せてくれたのは小型の大砲。


 この前の祭りでサナトには花火を担当してもらったが、その時に使った打ち上げ用の道具を改造して攻撃用の魔道具を作らせた。

 試作品が結構いい感じだったので、10門ほど増産してくれと頼んだところ、この短期間で見事に仕上げてくれたわけである。


 魔法の玉を打ち出せる大砲が10門。

 これだけの数が揃えば実戦でも役に立つだろう。


「ちょっと重いな」

「でも、獣人やオークなら担いで歩くこともできます。

 人間が使うものと比べたら、かなり軽いかと」

「うむ」


 火薬で砲弾を打ち出す大砲とは違い、砲身が短くコンパクト。

 獣人やオークならば担いで歩ける大きさだ。


「で……これをあといくつ用意すればいいんですか?」

「そうだな……200くらいあれば申し分ない」

「200ですかぁ。流石に私一人では無理ですね」

「ああ、だから……」


 そこへ一人の魔女が顔を出す。


「ヴァジュへ発注したい……と言うことですぅ?」


 サナトの友達のマミィだ。


「ええ、出来れば早めにお願いできますか?

 金はいくらかかっても構いません」

「そんなにこの大砲が欲しいですかぁ?

 普通に魔法を使えばいいのにぃ」

「わが国には必要な道具です。

 魔法使いがほとんどいないので」

「住んでいるのは獣人ばかりですからねぇ」


 マミィはそう言ってため息をつく。


「この国は獣人ばっかりでむさくるしいですぅ。

 もっと明るくておしゃれになれば、住みやすくなると思いますぅ」


 明るくて住みやすいってなんだよ。

 おしゃれにしたら住みやすくなるのか?

 獣臭いのは変わらんぞ。


 もし香水みたいな匂をばらまくつもりなら絶対にやめてくれ。

 別の匂いで誤魔化そうとすれば、それこそ地獄をみる羽目になる。


「それで、発注はマミィさんにお願いできまうすか?」

「任せて下さい。ゼノまでしっかり送り届けますぅ」

「じゃぁ、お願いします。

 必要な資金は経費で落とせますので……」

「ありがとうございますぅ!」


 マミィはペコリとお辞儀をする。


 彼女が顔を上げると乳が揺れた。

 おっぱいがスンげーでかいんだわ。


 ジャンプとかさせたいなぁ。

 めっちゃ揺れるだろうなぁ。


「あの……ユージさま?」

「なんだサナト」

「マミィの胸ばかり見てません?」

「見てないぞ」


 たまたま視界に入っただけだぞ。

 凝視なんてしてないぞ。


「はぁ……男の人って!

 バカは死ななきゃ治らないっていいますけど。

 スケベも治らないんですね!」

「まぁ、そう言うなって。

 スケベが悪いんじゃない。

 この世界をスケベに作った神が悪いんだ」

「ちょっとは反省して下さい!」


 怒るサナト。

 そんな彼女も可愛い、可愛い。

 頭を撫でてやろう。


「何するんですか⁉」

「いやぁ、ついナデナデしたくなって……」

「つい、じゃないでしょ! このお馬鹿!

 私のことを子供だと思って……!

 300歳なんですよ、300歳!

 ユージさまよりもずっと年上なんですからね!」


 いくら彼女が年上でも、見た目はロリっ子。

 熟女って感じが全くしねぇんだわ。


 おまけに、この子は性格が幼い。

 あんまり年寄りっぽくないんだよなぁ。


 サナトが300歳なのか疑わしくなってきた。

 本当は13歳とかじゃねーの?


「マミィさん、実はサナトの年齢って……」

「うふふ、サナトは私よりもずっと年上ですよぉ。

 私がヴァジュで魔女になった時にはすでに、サナトは王宮に務めていました。

 新人の私に優しく魔法の使い方を教えてくれたので、感謝してるんですよぉ」


 へぇ、そうなのか。

 見た目はずっとマミィの方が上だが、実年齢はサナトが上で間違いないんだな。


 てゆーか師弟関係の割には、サナトとの接し方がフランクだなぁ。

 ヴァジュでは上下関係があんまり厳しくないのだろうか?


「良かったな、サナト。

 君がマミィさんよりも年上だと証明されたぞ」

「あんまり嬉しくないですね……もぅ!」


 そう言って頬を膨らませるサナト。

 やっぱり可愛い。


「ねぇサナトぉ。

 ヴァジュへ戻って来る気はなぃ?

 いい機会だから一緒にいかなぃ?」

「……えっ⁉」


 マミィが急にそんなことを尋ねるものだから、サナトは驚いて目を丸くする。


 彼女は魔女王から追放処分を下され、各地を渡り歩いてゼノへ流れついた。

 現役の魔女から誘われたってことはつまり、もう許されたと見てもいいのかもしれない。


 サナトはどう答えるのかな?

 俺が黙って見守っていると彼女は――


「いい、私は帰らない。ここにいるから」


 帽子で顔を隠しながら俯いたまま答えるサナト。

 正直、彼女がそう答えてくれてホッとしている。


「そうか……帰るつもりはないのか」

「はい、まだ心の整理がついてなくて……」


 サナトはまだ過去を引きずっている。


 彼女はずっとアミナとの関係で悩んでいた。

 今更になって帰って来いと言われても、素直に帰れるはずがねぇんだよなぁ。


「それに私は……今の生活に満足しています。

 寂しいともあんまり思わなくて。

 この街が発展すればもっと楽しくなるはずだし、

 ゼノを離れたいとは思えないんですよねぇ」

「君が楽しく暮らせるように、俺も頑張るよ。

 何かして欲しいことがあったら言ってくれ」

「え? じゃぁ結婚して下さい」


 どさくさに紛れて何を言っているんだコイツ。


「俺は骨だからなぁ。

 結婚したって何も楽しくないだろ」

「骨でも一緒にいたいって思うんです!

 私が相手じゃ嫌ですか⁉」

「悪いが、俺には抱えているものが多すぎるんだ」

「ううむ……!」


 サナトは涙目になる。

 ううん……やっぱり子供みたい。


「冗談はこれくらいにしておいて。

 大砲の件、よろしくお願いしますね」

「今回の戦争、激しくなりそうですねぇ」


 マミィが真剣な顔で言う。


「ええ……苛烈を極めるでしょう。

 大勢の犠牲者も出ます。

 できるだけ早く決着をつけるのが俺の役目です」

「サナトから聞いていましたけど聡明な人ですねぇ。

 是非とも皆と生きて帰ってきてください」


 皆と生きて帰る。

 まぁ……俺だけはすでに死んでいるわけだが。

 仲間たちは誰一人として死なせたくない。


 もしかしたら何人か今回の戦いで命を落とすかもしれない。

 できるだけ犠牲は減らしたいと思っているのだが。


「ユージさまぁ!」

「わっ! 何だ⁉」


 いきなりサナトが抱き着いて来た。


「必ず……皆と一緒に帰ってきてくださいね!

 お別れなんて、絶対に嫌ですから!」

「ああ、分かってる。

 必ず君の元へ帰って来るよ、サナト」


 俺はそう言って彼女の頭を撫でる。

 小学生くらいの身長しかない彼女の頭は、俺のろっ骨のあたりにあって撫でやすい。


 子供をあやすのってこんな感じなのだろうか?

 なんとなくそんなことを考えていた。

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