33 ミィちゃん大暴走
夜になった。ミィの所へ様子を見に行くかな。
嬰児はあった場所に戻しておく。保管施設ができるのはまだ先のことだ。問題は山積みだしやることも沢山あるが、彼女との約束は果たさなければならん。
俺はマムニールの農場へ向かった。
「すみませーん。ミィはいますかぁ?」
「ユージぃ!」
挨拶して寄宿舎へと入るやいなや、ミィが俺の胸に飛び込んで来た。
「うわぁ! どうした⁉」
「寂しかったよぅ!」
「そうか、そうか。よしよし」
「えへへ」
俺が頭を撫でてやるとミィは嬉しそうに笑う。
「お仕事、頑張ったか?」
「うん、とっても頑張ったよ!」
「偉いなぁ」
「もっと褒めて!」
「よしよし」
自分でやっといてなんだが、なんだこれ。
これじゃ親子みたいじゃないか。俺としてはもっと別の関係になりたい。
つっても、俺は骨なので彼女と恋人にはなれないだろう。
この思いは墓場まで持って行くことにするかな。
「そういえば……友達はできたか?」
「えっ? ああっ……うん。まぁ、その……ねっ」
気まずそうに目をそらすミィ。
この調子だとまだなんだろうな。
「ねぇ、ユージ。今日は何をしてたの?」
「魔王軍の仕事を色々と」
「もっと具体的に話してよ」
「そうだな……」
例の嬰児について相談してみよう。
勇者である彼女ならば敵の内情を知っているかもしれん。
と言うことでひと気のない所へ移動。
寄宿舎から外へ出て家畜小屋の裏へ。
あたりに誰もいないことを確かめ、話を切り出す。
「実は……」
俺は今日の一件について話した。
「え? 赤ちゃん?」
「そうなんだ、何か知らないか?」
「ううん……」
悩ましい表情を浮かべるミィ。
この様子だと何も知らなそうだ。
「ごめん、心当たりはないよ。
私が知る限り、そんな計画はなかったと思う。
その赤ちゃんの正体がなんなのかも分からない。
ごめんね、力になれなくて」
申し訳なさそうに言うミィ。
「いや、話を聞いてくれてありがとう」
「もしもの時は私を呼んで。
ユージの代わりに戦うから」
「うーん……」
確かにこの子は強い。
俺なんかよりもはるかに高い戦闘力を誇る。
だからと言って、頼りっきりになるのはどうなのか。
俺は弱い。
ハッキリ言ってゴミ以下だ。
素直にミィを頼るのは決して悪い選択ではない。
だが……。
「大丈夫だ、ミィ。
この件は俺がなんとかする。
だから安心してくれ。
それに……君を危ない目にあわせたくない」
出来るだけ格好つけてクールに言った……つもり。
「あっ、うん。ありがとう」
微妙な反応だった。うーん、この。
白骨死体の俺がどんなに頑張っても、彼女は異性として意識してくれない。イケメンに生まれ変わってから頑張ろう。来世に期待だ。
「その気持ちだけで十分だよ。
私はユージの力になりたいんだ。
あなたを守って、認められたい」
「俺に?」
「うん、ユージの相棒として」
ああ……そう言う。
最強の勇者様が味方になってくれれば、どんな敵も瞬く間に殲滅してくれるだろう。頼りになる相棒であることに違いはない。
「君はもう、俺の立派な相棒だよ」
「私が相棒かぁ……えへへ」
「そろそろ寝る時間だろ?
ベッドへ行かなくて大丈夫か?」
「あっ、うん。そうだね。
明日も早いからもう寝るね。
おやすみー」
「ああ、お休み」
軽く挨拶してミィと別れる。
今日は一緒に寝て欲しいとせがまれなかった。
昨日よりも落ち着いた証拠だな。
「ユージさぁん」
「ふぁっ⁉」
突然、背後から声がして振り返る。
「え? 誰⁉」
「私ですぅ……シャミですぅ」
そこにいたのはシャミだった。
顔をげっそりとさせて今にも倒れそう。
「え? どうしたの?」
「ユージさんに話しておくことがあってぇ」
「大丈夫か? どこかに座って話そう」
「はいぃ……じゃぁ、ここで」
地面にへたり込むシャミ。これは重傷だな。
俺は彼女に肩を貸して休めそうな場所を探す。
ちょうど近くに木箱が置いてあったので、その上に座らせた。
「大丈夫か? 疲れてるの?」
「はい……ちょっと」
「何があったか話してくれるか?」
「実は……」
シャミはポツリ、ポツリと話始める。
彼女は教育係として、掃除、洗濯、シーツ交換の仕事を一生懸命に教えた。
どれも重労働で骨の折れる仕事だが、ミィの仕事覚えの速さは尋常ではなく、二日目で全てマスター。それどころかシャミの分も手伝い、一人で三人分の働きをしたと言う。
「すごいじゃないか、ミィは」
「ええ、本当にすごいんです。でも……」
シャミの表情は一層暗くなる。
仕事を覚えたミィは余った時間で別の仕事にも手を出し始める。
奴隷たちの生活は微妙な人間関係の上に成り立っている。
それぞれ受け持っている仕事があり、それぞれにテリトリーが決まっていて、それぞれに上下関係が存在する。
ミィがひっかきまわしたらバランスが崩れ、みんなは大いに混乱するはず。そう思ったシャミは全力で彼女を止めた。
しかし、ミィは止まらなかった。
仕事を完璧にこなして皆に認めてもらおうとしたのかもしれない。
結果は全くの逆。
仕事を奪われるのではないかと、奴隷たちはミィを警戒するようになった。
そのしわ寄せは全てシャミへいく。あちこちから暴走するミィの報告が入り、教育係として責任を追及されたのだ。
と言っても、ミィがなにか粗相をしたわけではない。失敗と言った失敗はなく、完璧に仕事をこなしている。
だもんで、叱るに叱れない。
どうしようかと困っているところへ、追い打ちをかけるように別の問題が発生。
ミィは他の誰とも関係を築くことができず、シャミとだけ話すようになった。
シャミがどこへ行く時も一緒。食事の時も、休憩の時も、トイレの時も。
元々、シャミには他の奴隷の友達がいたが、ミィが馴染めないので一緒にお喋りもできない。次第に周囲から距離を置かれるようになった……気がする。
まだ二日目なので気がするレベルで済んでいるが、このままではどうなるか分からない。ミィはあと数日でいなくなるので、一人ぼっちになってしまうと彼女は涙ながらに訴える。
俺はどう答えればいいか、分からなくなってしまった。
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