表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

325/369

325 フェルの恋は実らない33

 どちらの方角へ逃げるのかを話し合ったあと、団員たちはそれぞれ自分たちが導く群れの所へ向かうことになった。


 秘密の通路は里から離れた比較的安全な場所へ繋がっており、避難した者たちは脱出場所の近くに穴を掘ってキャンプをしているそうだ。

 彼らは長老たちから次の指示が下るのを待っている。


 長老たちは全員が人間によって囚われてしまった。

 もう群れに指示を出す者がいない。

 新しい“長”を決めなければならない。


「みんな……達者でなぁ!」


 団長が手を振りながら別れの挨拶をする。

 その隣でフェルは(やけに古臭い挨拶だなぁ)と思いながら、彼と同じように手を振って仲間たちを見送る。


 朝日がさすなか、仲間たちは何もない青い草原を歩いて行く。

 手を振って別れを惜しんでいた彼らだが、少し進むと勢いよく走り出し、それぞれ仲間が待っている場所へと散って行った。


 彼らはそれぞれの群れの新しい“長”となる。


 フェルは団員たちに『決して人間と争わぬこと』『もしもの時はすぐに逃げること』『白兎族の血を絶やさないこと』を新しい群れのルールとするように伝えた。

 この三つさえ守れば、あとはどうとでもなる。


 白兎族はもともと争いを好まぬ性格で、仲間同士でいざこざを起こすことは少ない。

 争いになったとしてもすぐに仲直りできるので、群れはとても穏やか。


 食べ物はみんなで分け合う。

 お金が必要なら必要な分だけ働いて、あとはゆっくり過ごす。

 相性のよい土さえ見つかれば簡単にお家を掘れるし、美味しい野菜を育てるのも得意。


 戦う力はないけれど、のんびり暮らすにはばっちりの能力を沢山持っている。

 気候が身体に合う土地であればどこでも暮らせるのだ。


 どこへだって移住して行ける。

 一つの土地にこだわる必要もない。


「みんな大丈夫かなぁ……」


 仲間たちの門出を不安そうに見守る団長。

 これから自分も同じように群れを率いる立場になると言うのに、何を弱気になっているのか。


「大丈夫ですよ、きっと。

 だって僕たちはどこへだって行けますから。

 豊かな土さえあれば飢えることもない。

 人間と違ってね」

「そうだなぁ……」


 人間は土地に縛られている。


 彼らは自分の土地を持たず、他人が所有する土地で暮らし、税として作物を支配者に収めているそうだ。

 旅人から聞いた話だと、自由に移住することもできず、同じ土地で一生を終える人も多いらしい。


 フェルたちが住んでいた里も、豊かではあったけれど多くの仲間が土地に縛り付けられていた。

 もしあのまま同じ場所に住み続けていたら、人間たちのように移住するのが苦手な生き物になっていたかもしれない。


 そう思うとちょっとだけ怖い。

 ちょっとだけ。


「じゃぁ、俺も行くよ」

「お気をつけて」

「なぁ……フェル」

「なんですか?」


 団長がやけに真剣な顔をしているので、ツガイにならないかとか言い出すのではと不安になる。


 正直、彼のことは好みじゃないし、誘われたところで返答に困るだけだ。

 それぞれ別の群れを率いる立場だと言うのに……本当に困る。


 しかし、その不安は杞憂に終わった。


「お前……本当にあの国へ行くのか?」

「ええ、一番安全だと思いますし」

「そっか。まぁ、頑張れよ」


 団長はフェルの肩に手を置いて、深くため息をついた。


 そして、何かを決意したかのように表情を引き締め、きびすを返して歩き出す。

 彼は一度も振り返らずに歩き続け、やがてその背中は草原の彼方へと消えていく。


 フェルは彼の姿が見えなくなるまでずっと見守っていた。


 一人ぼっちになったフェルはカインと過ごした時のことを思い出す。


 懐かしい訓練の日々。

 戦いに備えて武器の扱いを練習したけど、役には立たなかった。


 でも……楽しかったな。


 カインと一緒に団員を鍛えるのはとても楽しかった。

 二人っきりで過ごした時間はフェルにとって特別な思い出。

 きっと忘れることはないだろう。


「さようなら……カイン」


 愛する人に別れを告げる。

 彼と顔を合わせることはもうないだろう。


 今のフェルには彼の無事を祈るくらいしかできない。


 囚われたカインを救うには、あまりに力が足りなさすぎる。

 だから――


「だから僕はゼノへ行くよ」


 フェルは仲間を連れて獣人の国へ向かうことにした。


 人間の国と獣人の国の間には、両国を隔てる巨大な壁が存在する。

 その壁を乗り越えた先には川があり、そこを超えてようやくゼノへ入国できる。


 困難な道のりになるが、あえてフェルはその道を選択した。


 獣人の力を借りてこの地を解放すれば、白兎族の仲間を救えるかもしれない。

 もともとは彼らが支配していた土地。

 だから――もしかしたら手を貸してくれるかも。


 そんな淡い期待を胸に、フェルは獣人の国、ゼノを目指す。

 どんな運命が待っているかも知らずに。



 ◇



「フェル! どこ行ったのぉ!」


 サナトの声が聞こえる。


「はーい!」

「そこにいたの⁉

 ちょっと用事があるから手伝って頂戴!

 大急ぎで!」


 サナトは今日もフェルを顎で使う。

 本当に人使いの荒い人だ。


 なんやかんやあって獣人の国へたどり着いたフェルは、仲間たちと共に魔王城で働いている。


 上司のユージは元人間のアンデッド。

 気遣いの出来る優秀な人だけど、夢中になると周りが見えなくなるのが玉に瑕。


 サナトは魔法を教えてくれた師匠のような人。

 でもフェルをめっちゃこき使う。


 いろんな人たちに囲まれて、今日も楽しく働いている。

 毎日が幸せだ。


 だって――


「よぉ、フェル。今日も頑張ってるな!

 後でうまいもの食べさせてやるからな!」

「はい!」


 厨房へ行くと、大好きなノインが声をかけてくれた。

 彼の笑顔を見ているだけで心が弾む。


 どういうわけか、フェルはオークのノインを好きになってしまった。

 カインとは全然タイプが違うし、それどころか身長も体重も体系も肌の色も、何もかもが違う。

 それでも彼を好きになってしまった。


 多分だけど、この恋は実らない。

 フェルは薄々気づいている。


 それでもいい。


 恋に基準などない。

 誰かを好きになることに、理由なんて必要ない。


 たとえ実らないと分かっていても。

 好きの気持ちを大切に、今日も一日生きるのだ。

いつもお読みくださりありがとうございます。


皆様のPVが執筆の励みになっています。

ブクマ、ポイント評価での応援とても嬉しいです。


ここ半月ほど一日4話更新を続けていましたが、明日からは一話にペースを落としたいと思います。

ご了承ください。


次回から3章が始まります。

少し重い話になりますが、暗くなりすぎないように気を付けたいと思います。


引き続きお付き合いいただけましたら幸いです。


たらこ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ