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308 フェルの恋は実らない16

「えっと……そうだな……」


 その問いにどう答えればいいのだろうか?

 自分の考えを述べるだけで十分か?


 人間たちが魔法を厳格に管理する理由。


 フェルは人間の社会についてほとんど知らないので、その理由について考察してもこれと言った結論を導き出せない。


 けれど……いまのカインの話の流れから、何かしら答えを出せそうな気がした。


「人間が魔法を管理するのはきっと……。

 他の種族に魔法を習得されたら困るから、かな?」

「そうだぜ。

 自分たちよりも魔法を扱うのが得意な奴らに強力な魔法を習得されたら、やつらの支配体制は簡単に覆されてしまうからな。

 あいつら魔法を使うのが苦手なんだ。

 俺たちなんかよりもずっと」

「え? そうなの?!」


 思わぬ言葉に驚愕するフェル。

 カインは真剣な面持ちで話を続ける。


「前にも話しただろ。

 魔法の習得を井戸に例えて」

「僕たち白兎族は人間よりも大きな桶を持ってるって、

 そういう話だったよね?」

「ああ、俺たちは人間よりも魔力が強い。

 だから……魔法を習得して扱えるようになれば、

 人間たちを逆に支配することだって可能なんだ」

「ええっ……」


 争いを好まぬ白兎族が人間を支配する。

 天と地がひっくり返るような話だ。


 けれども、今までカインがしてくれた話を振り返ると、決して絵空事ではないと思える。


 人間は自分たちよりもはるかに強いオーク族を支配していた。

 だったら……人間よりも魔法の扱いに長けた白兎族が強力な魔法を使えるようになれば、人間を支配して奴隷にすることだって不可能ではない。


「魔法ってそんなに強力なの?」

「実際に使ってみれば分かるぞ」

「え? じゃぁ……カインは……」

「ああ、すでにいくつか習得してる。

 誰にも話したこと無かったけどな。

 皆には秘密だぞ」


 カインはじーっとフェルを見つめながら言う。

 その顔に表情はない。


 真顔で見つめる彼をとても怖く感じて、フェルは思わず顔を背けてしまった。


「うん……分かったよ。

 でも本当なの?」

「まぁ、実際に目にしてみないと、

 俺が本当に魔法を使えるのか分からないよな。

 丁度いい機会だから見せてやるよ」

「……え?」


 おもむろに立ち上がったカインは、家の扉の所まで行って手招きをする。


 本当に彼は魔法を使えるのだろうか?

 どうして今まで秘密にしていたのだろうか?

 ついて行ったら何を見せられるのだろうか?


 急に不安になったフェルはなかなか立ち上がれずにいた。

 ぼんやりとカインの姿を見つめたまま、固まって椅子に座っている。


「どうした? 来ないのかよ?」

「えっ、あっ……うーん」


 フェルは迷った。


 目の前にいるカインは、フェルが知っているカインではない。

 自分の正体を現そうとする化け物のように見える。


 彼は今までいろんな土地を渡り歩いて経験を積んだ。

 その体験の中には、耐えがたい苦痛を伴うものもあったのだろう。


 今まで彼は裏の顔を隠していた。

 外の世界で得られた経験や記憶は、争いを好まぬ仲間たちを怖がらせるだけで役に立たない。

 だから仮面をかぶって過ごしていたのだ。


 カインはその仮面を外そうとしている。


 魔法を使うということは、人間と対等に渡り合い、対峙することを意味する。

 その覚悟が彼にはあるのだ。


 フェルはどうだろうか?

 魔法を習得して人間と戦う覚悟があるか?


 自分自身に問わねばなるまい。


 カインと同じ道を行くか、否か。

 答えはすでに出ている。


「分かった、行くよ」


 フェルは意を決して立ち上がる。

 カインはにやりと口端を釣り上げた。



 ◇



 二人はフェルの家を出て草原を歩いて行く。


 里から離れた場所まで来たが、もっと遠くへ行かないとならないのか、カインは無言で進み続けていいた。


 日はとっくに沈んで夜になり、頭の上では見事な満月が輝いている。

 こんなよく晴れた夜は呑気にお茶でも飲みながら空を眺めて過ごしたいものだ。


 しかし……今のフェルにはカインの背中しか見えていない。


 夜の草原のなかで彼の姿だけがくっきりと浮かんで見える。

 どんなに暗くなっても彼の背中だけは見失わずに済みそうだ。


「あそこだ」


 カインは遠く離れた森を指さして言う。


 木々が密集してできた地形。

 フェルは森を初めて目にした。


「うわっ……すごいね。

 あれが森?」

「見るのは初めて?」

「うん、話には聞いてたけど、見てみるとスゴイや」


 フェルは今まで、森をせいぜい木が沢山生えている場所としか思っていなかった。


 目にした森は隙間なく木で埋め尽くされている。

 とても頭の中のイメージとは違う。

 もっと控えめな物を想像していた。


「あそこで魔法の練習をするの?」

「練習って言うか、お前に見せるためだな。

 俺はもう魔法の使い方を十分に分かってるから」


 カインはそう言ってまた歩き出した。

 黙ってついて行く。


 目にしたことのない魔法。

 初めて見たらどんな感動を覚えるのか。


 胸の高鳴りが抑えられない。

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