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280 ベルは今日も忙しい12

 急いでイミテの店へ向かう。

 しかし、地図を見返しても何処どこにあるのかさっぱり分からない。


「ううん……。

 この地図だとちょっと分かりにくいですね」


 地図を広げて悩まし気に眉を寄せるムゥリエンナ。


 彼女の言う通り、この地図はちょっと分かりにくい。

 シャミは適当に書いたようなので、どこに何があるのか明確に記載されていない。

 目印になる物がなにもないので、見当のつけようがないのだ。


 彼女はこの程度の書き方でもちゃんと分かるのだろうが、ベルやムゥリエンナがこの地図を頼りに初見でイミテの店を見つけるのは相当苦労するはず。

 日が落ちるまでに見つかればいいが……。


「ムゥリエンナさんはイミテさんのお店が何処にあるのかご存知ないのですか?」

「ええっと……私、あんまり彼女と仲良くなくて。

 というかその。

 私と仲良くしてくれるのって、ユージさんくらいで。

 他の人とはあんまり交流がないと言うか」

「そうだったんですか……」


 確かに、以前の会議では誰かと一緒にいると言うよりは、とりあえずそこにいると言う感じだった。

 他のメンバーとも仲がよさそうな感じもしなかったし。


「だからベルさんが友達になってくれて。

 とっても嬉しかったんですよー!

 あっ、今度お茶でも一緒に行きますか?」

「それよりも今はお店を……」

「そうですよね! ごめんなさい!

 急いで探さないとダメですよね!」


 ペコペコと頭を下げるムゥリエンナ。


 何度も謝罪したかと思うと、急に地図を広げて這い出していく。


「ああ~! もしかしたらこっちかもしれませんよ~!」


 地図を広げながら目星もつけず話も聞かず、ムゥリエンナは裏路地の奥へどんどん這っていく。ベルは文句を言わずに彼女の後へ続いて歩いた。

 彼女について行ってもきっとお店は見つからないだろう。なんとなくそんな予感がしている。

 行き止まりにたどり着いて「すみませーん」と謝る彼女の姿が目に浮かんだ。


 ムゥリエンナは空気を読むのが苦手なようだ。おまけに人の話を聞かないし、協調性もあまりない。一人で突っ走って大失敗をやらかすタイプ。


 彼女が農場にいたら仕事が大変になるだろうな。


 ムゥリエンナがマムニールの農場で働いている姿を想像すると、背筋に冷たいものが走った。きっと収拾がつかなくなるだろう。ミィなんて彼女と比べたらカワイイものだ。


「そう言えば、私も一人で街で買い物をしている時に帰り道が分からなくなって、迷子になったことがあるんですよ~」


 ムゥリエンナはまた自分の話を始める。適度にこちらで会話の調子を調整しないと、延々と自分のペースでしゃべり続けるのだ。お喋りをしているうちに、何を探しているのか、目的すら見失ってしまう可能性もある。

 適当なところで話題を戻して、お店探しをしていることを思い出してもらおう。


 ユージもきっと、彼女と仕事をしている時は、こんな風に気を使っているのかな。

 少しだけ彼の苦労が分かった気がする。


 ムゥリエンナは変わり者だ。

 変な人と言っていいかもしれない。


 マイペースの一言では片づけられないくらい暴走気味。


 でも……悪い人じゃないんだよね。

 きっと。


 そして個性的でもあると思う。

 なにか卓越した才能も持っているのだろう。


 ベルは少しずつムゥリエンナの個性を受け入れつつあった。

 そして、彼女を友達として認めつつあった。


 誰かに振り回されているのに、なぜか少しだけ楽しいと感じている自分がいる。


 ユージの周りにはこんなにキャラクター性の強い人たちばかりが集まっているのだろうか?

 彼らをまとめ上げて一つのチームに仕立てるのは、並大抵の苦労では叶わないはずだ。


 実際に彼が誘拐されてリーダーが不在になったら、チームは崩壊寸前の状況にまで陥っていた。

 彼がいなくなったら途端にまとまりが無くなってバラバラになってしまう。


 みんなが協力しあって、力を尽くして仕事ができるのも、ひとえにユージの力かもしれない。


 私も彼のように、チームのリーダとして、皆をちゃんとまとめることができるだろうか?

 今は無理かもしれないけど……いつかきっと。


 彼のように立派なリーダーになりたい。


「あっ! アレですよきっと!」


 ムゥリエンナが看板を指さして言う。

 どうやら本当にイミテの店を見つけてしまったらしい。


「すごいですね、ムゥリエンナさん」

「いえいえ、これくらいお安い御用ですよぉ。

 まぁ……適当に進んでたら、

 偶然見つけただけなんですけどね」

「だと思いましたよ」


 自然と彼女との会話を楽しんでいる自分がいる。


 気づけばムゥリエンナと一緒になってから、視線を気にしなくなっていた。

 獣人たちがどんなふうに自分のことを見ているかなんて、どうでもいい。


 気が強くなっていたのか、それとも一人じゃないからか。


 いまはただ彼女に感謝しよう。

 ここまでの道のりがとっても楽しかった。


「ありがとうございます、助かりました」

「えへへ……褒められちゃいました!」


 そう言って舌を出して照れくさく笑うムゥリエンナのことを、たまらなく愛おしく思う。

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