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274 ベルは今日も忙しい6

 今の地位を奪われてしまうのではないか。

 そんな妄想を振り切って午後の仕事に励むベルだったが――


 その後もベルは不自然に仕事を奪われ続けた。


 奴隷たちはベルが口を挟むまでもなく、滞りなく仕事をしている。

 シャミはいつもよりもずっと忙しそうに動き回り、他の奴隷たちも彼女をサポートする形でタスクをこなしていく。


 あのミィでさえ、他の奴隷たちと協力して薪割りの仕事をしていた。


「はい!」

 さっ!

「はい!」

 さっ!


 ミィの掛け声に合わせて仲間の一人が薪を切り株の上に乗せ、ミィが斧で薪を真っ二つに割ると別の奴隷が拾って一か所に集める。

 そしてまた他の者が薪を背負って保管場所へ運ぶ。

 実にスムーズな流れができあがっていた。


 効率よく仕事をこなし、大量の薪が山積みにされている。

 当分は薪割りをしなくてもよさそうだ。


 懸念だったミィは放っておいてもよさそう。

 シャミもリーダーシップを発揮して、いつも以上に働いている。


 せめて自分が受け持つチームくらいはしっかり面倒を見ようと思って農場を見て回るが、ベルが指示を出すまでもなく仲間たちは問題なく仕事をこなしていた。


 いけない。

 このままでは本当に仕事がなくなってしまう。


 午後になってから、これと言って何もしていない。

 肝心のマムニールの世話も、シャミと他のメイドたちがほとんどやってしまった。


 何か一つくらい仕事を見つけないと……ヤバい!


「マムニールさま!」


 ベルはさっそく、主人であるマムニールの元へと向かう。

 勢いよく扉を開いて彼女の名を呼んだ。


「え? ベルっ⁉ どうしたのかしら?」

「なにか用事があれば私に申し付けてください!

 他の誰でもないこの私に!」

「どうしたの? ちょっと変よ?

 すごく焦っているけど、なにかあったの?」


 マムニールは怪訝そうな顔でベルを見やる。


 ハッとして我に返った。

 今の自分はかなり興奮している。


 冷静にならないと。


「いえ……なにもありません。

 ただ仕事はないかな、と」

「アナタね、ちょっと働きすぎなのよ。

 もしかして変なことでも考えてない?

 疲れてる証拠だと思うわぁ」

「それは……その……」


 変なことというか、妄想と言うか。

 仕事を取られそうで不安になっているだけで。


 変なことを考えているのは、確かにその通りで。

 でもそれは――


「私はただ……マムニールさまのためになりたくて……」

「アナタはいつも私の力になってくれているわ。

 だからそう気を張りすぎないで。

 たまには息抜きが必要よ。

 あっ、そうだ」


 マムニールは両手の肉球を合わせる。

 何かいいことでも思いついたようだ。


「アナタ、イミテさんのお店へ行ってきなさい。

 ちょうど注文した品ができ上る頃なのよ。

 それを取りに行って来て頂戴」

「かしこまりました」

「あとついでに皆にお菓子でも買ってくるといいわ。

 アナタが好きな物でいいから、適当に見繕ってきて」

「え? はぁ……承知しました」

「あとね」


 マムニールはにっこりと笑みを浮かべる。

 なんだか圧を感じて少し怖い。


「お菓子選びはゆっくり時間をかけること。

 なんなら夜まで時間がかかってもいいわ」

「え? 夜ですか?」


 ベルが言うと、マムニールはうんうんと頷く。


「ええ。でも夜道を一人で歩くのは危険だから。

 遅くなるようだったらユージさんにお願いして、

 誰か護衛を付けてもらうといいわ。

 もちろん、ユージさんに来てもらってもいいけど」

「……はい」

「返事はちゃんとする!」

「あっ、はい!」


 どうしても夜遅くなるまで戻って来てほしくないようだ。

 私がいなくても仕事は回ると言いたいのだろうか?


 マムニールにとって私はもういらない子なのだろうか?


 今まであんなに尽くしてきたのに?

 彼女の為を思って一生けんめい働いてきたのに?

 所詮はただの奴隷だったのだろうか?


 妄想だと自分に言い聞かせてきたが、少しずつ不安が現実味を帯びてくる。


 私の仕事が奪われてしまう。

 ミィがグタグタしていたのも、シャミがテキパキしているのも、みんながベルに仕事を回さないのも、誰かが裏で糸を引いているからだ。


 いったい誰が?

 なんのために?


 ベルはマムニールから代金を受け取って、とぼとぼと街を目指して歩いて行く。

 こんな調子でお使いをこなせるのか。


 自分ですら疑問に思う。

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