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269 ベルは今日も忙しい1

 マムニールの農場。

 日がまだ上らないうちにベルの仕事が始まる。


 彼女は誰よりも早く目を覚まし、着替えを済ませ、点呼を取る準備をする。

 早朝の空気はとても冷たく、着替えるだけで肌が震える。

 これから水仕事もしなくてはならないので、今から気を引きしめておく。


 後から起きて来た調理係と家畜の世話を担当する奴隷たちが広間に集合していく。

 一人、一人と集まっていく仲間たちを眺めながら、ろうそくの明かりを頼りに顔色を確認して体調不良者がいないかを確かめる。


 仲間たちが整列したところで点呼を開始。

 必要な人員が揃っているか確認する。


「番号!」

「いち!」

「にぃ!」

「さん!」

「よん――


 ベルが呼びかけると一人一人前から番号を言っていく。

 必要人員に達していると分かれば次のグループの点呼を開始。


「番号!」

「いち!」

「にぃ!」

「さん!」

「よん――

 

 両方のグループとも遅刻者、欠勤者はなし。

 最後に体調を確認したら点呼は終了だ。


「全員いるようね。

 体調がすぐれない人はいるかしら?」

「いえ、大丈夫です」

「こちらも問題ありません」


 それぞれのチームのリーダーが返事をする。

 ベルは小さく頷いてから仲間たちに向かって言う。


「それじゃぁ、仕事を始めて。

 今日も忙しくなるからね」

「「「はいっ!」」」


 一同は揃っていい返事をする。

 ミィもこれくらい普段からやる気を出してくれればいいのに。


 ベルはすぐに別のグループの集合場所へ向かう。


 そこにいるのはメイド仲間。

 マムニールの世話をするために今日の役割分担をみなに伝える。


「じゃぁ、仕事の割り振りを始めるからね」

「あのぅ……」


 メイド仲間の一人が困った顔で手を挙げる。


「どうしたの?」

「ミィがまだ来てません」

「はぁ……あの子ったら」


 ベルは頭を抱えた。


 ミィは些細なことで仕事を休む。

 遅刻しても謝りもしない。

 本当に困った子で、ベルは手を焼いていた。


 そのくせ咎めると逆切れすることもあるので、メイド仲間たちからは腫れ物を触るような扱いを受けている。

 当然のことだと思うのだが……ミィはどうやらそれが不満なようだ。


「分かった。彼女のことは何とかするから。

 みんなは予定通り仕事を始めてね」

「「「はーい」」」


 メイド仲間は返事をして仕事に取り掛かり始めた。


 これからミィのベッドまで行って、彼女を起こさないといけない。文句を言われるかもしれないし、愚痴に付き合わされるかもしれない。無駄な時間でしかないのだが、こちらが嫌がっているのが分かってしまうと余計に不機嫌になる。

 本当に面倒くさい子なのだ、ミィは。


 ベルは一人、ミィの元へ。

 するとメイド仲間がひそひそ声が後ろから聞こえてきた。


「あの子ってさ、ベルの言うことだけは聞くんだよね」

「ほんとにね」

「ベルはあの子だけ贔屓して特別扱いするよね」

「ねー」


 こちらの苦労も知らないで、面倒な噂ばかりする同僚たち。


 彼女たちをまとめているのは一体誰なのか。

 こちらの苦労も少しは分かって欲しい。


 まぁ……無理な相談だとは思うけど。


 ミィが眠るベッドまで行くと、布団がこんもりと盛り上がっていた。

 この中でまだぐっすりと眠っているのだろう。


「ミィ、起きて。仕事の時間よ」


 ベルが呼びかけると、ミィは布団から顔だけ出す。


「ごっ……ごめん。

 もうちょっとしたら行くから。

 先に仕事を始めてて」


 ミィは眉間にしわを寄せて険しい顔をしている。


「どうしたの? 体調でも悪いの?」

「そうじゃないんだけどさ……」

「だったらすぐに起きて。

 早くしないと遅刻よ」

「だからもうちょっと待ってって」


 素直にはいと言わないミィ。

 彼女がこんな風に言うのはいつものことだ。


 ベルは諦めて肩を下ろす。


「そう……分かったから。

 早く着替えて来てね。

 もう他の子は仕事を始めてるから」

「うっ……うん。すぐに行くから」


 そう言いながらもミィは布団から出てこようとしない。


 この子はいつもそうだ。

 こっちの苦労なんて全く分かってくれない。


 いつも自分のことばかり。

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