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268 シロの日常20

「ふにゃあああああああああああああ!」


 シロが猫じゃらしをフリフリすると、レオンハルトはとても楽しそうにじゃれつく。

 先端に猫パンチしまくり、ゴロゴロと転がってはニチャァっと笑うのだ。


 猫じゃらしを右にふりふり。

 左にふりふり。


「にゃぁぁぁぁぁあああ! にゃぁ!」

「ふふふ」


 自由自在にレオンハルトを操って、シロはご満悦。

 こんなに楽しい遊びが他にあるだろうか。


「はぁはぁ……シロちゃん、もうおしまいにしない?

 そろそろ疲れてきたよ」

「まだ続ける」

「え? そう? いいけど……」

「失礼しまっ……あ」


 ユージが魔王の間へ入ってきた。


「シロ……そこで何をしている。

 勝手に部屋から出て来たのか?」

「違うぞ、ユージ。

 俺が遊びに誘ったのだ」


 床に寝転びながらレオンハルトが答える。

 まったくもってしまらない。


「左様ですか……閣下」

「だからシロちゃんを怒っちゃだめだぞ」

「かしこまりました」


 深々と頭を下げるユージ。


「それで、なんの用だ?」

「かくかくしかじかでして」

「そんなのいつも通り、いい感じにちゃちゃっとやっといてよ」

「ではこちらの書類に……」

「また書類か……はぁ」


 ユージが差し出した書類にサインをするレオンハルト。

 いつも通りの光景だ。


 シロは二人を見つめる。


 淡々としたやり取り。

 レオンハルトは面倒くさそう。遊んでいる所を邪魔されて機嫌が悪くなったのかもしれない。

 ユージは特になんとも思っていないのか、いつも通り。


 別に笑っていない。

 当たり前だが、他人とやり取りするときに常に笑う必要はないのだ。


「これでいい? んもぅ」

「はい、ありがとうございます。

 ではこちらも……」

「ええ?! またぁ⁉」

「申し訳ありません。必要なことなので」

「んもぅ……んもぅ」


 またサインをするレオンハルト。

 こんなやり取りでも、傍で見守っていると意外と楽しい。



 ◇



「シロ……やはり一人だと寂しかったのか?」


 ユージに連れられて廊下を歩く。

 部屋に戻るのではなく、どこか別の場所へ連れて行くつもりのようだ。


「寂しいわけじゃない。

 退屈だった」

「まぁ……似たようなものだな。

 悪かった。

 お前の気持ちを考えてやれなくて」


 ユージは申し訳なさそうにしている。


 もちろん彼の顔は変わらない。

 頭蓋骨の表情が変わるはずがないのだ。


 それでもシロはユージの気持ちが分かる。


 シロは世界で唯一ユージの表情を読み取ることができる。

 彼が何を考え、どう思っているのか分かるから。

 表情が変わらなくても心の動きで想像できる。


 もし彼が楽しいと思えば、シロは彼が笑顔になっていると認識するのだ。

 いまユージは申し訳なさそうに眉を寄せている……はず。


「大丈夫、へいき」

「無理しなくていい。

 さみしいと思えば、さみしいと言えばいい。

 構ってほしかったら、構って欲しいと言えばいい。

 思ったことを素直に言ってくれ。

 じゃないとお前が何を考えているのか分からん」

「そう……」

「ところで……シロは綺麗なものが好きか?」

「きれいなもの?」


 シロはユージが何を見せようとしているのか分からない。

 きれいなものとは、いったいなんだろう?


 ユージはシロを魔王城のバルコニーへ連れて行った。

 城下町が一望できる場所。


 すでに日が落ちかけており、夕刻を迎えている。

 赤く染まった街並みがとてもきれいだ。


「どうだ、シロ。キレイだろ」


 ユージはシロを欄干の端に座らせて言う。


 街を見下ろすと人々が通りを行き交っている姿が見えた。

 誰もがせっせと働いている。

 これから夜になれば、町はまた違った美しさを見せるのだろう。


「うん。きれい」

「ここは俺のお気に入りの場所でな。

 疲れた時はこうして街を眺めて気を晴らすんだ。

 どうだ?」

「すてき」

「そうか……よかったな」


 ユージは嬉しそうに笑う。

 シロにはスケルトンの彼が笑ったように見えた。


「じゃぁ、帰るか」

「うん」


 欄干から降りるシロ。

 手をつないでほしくてユージに手を伸ばす。


「今日はあちこち一人で見て回ったんだろう?

 楽しかったか?」

「うん、楽しかった」

「そうか……よかっ……うん?」


 ユージはシロの顔をじーっと見つめる。


「どうしたの?」

「いや……その。

 お前も笑うことがあるんだなって。

 ちょっと驚いてな」

「笑う? 私が?」

「ああ、確かに笑ったぞ。いま」


 ユージに言われて、シロは自分の顔に手を振れる。


 笑ったのだろうか?

 上手に、自然に、笑顔になれたのだろうか?


 今どんな形の表情をしていたのだろう?

 また上手く笑えるだろうか?


 私はまた笑顔になれるだろうか?


「どうしたシロ。自分の顔なんか触って」

「笑顔の作り方が分からない」

「いや、今普通に笑ってただろ。

 楽しいと思ったら自然に笑えるもんだ」

「……そう」


 ユージはシロの頭を優しく撫でる。


「もっともっと楽しいと思えることをしよう。

 そうすりゃいくらだって笑顔になれる。

 明日からは自由に城を歩いていいぞ」

「本当に?」

「ただし、魔王城の外に出るのはダメだからな」

「うん、分かった」


 二人で手をつなぎながら歩いて帰る。

 こうしてユージと一緒にいる時間が、一番楽しくて幸せ。


 もしミィとも仲良くなれたら、もっともっと、笑顔になれるのかな。

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