表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

261/369

261 シロの日常13

 シロにとって目下のところ、目標となるのは『どうやったら自然に笑えるか』だ。

 もし違和感なく笑うことができれば、きっとみんなと仲良くできるだろう。


 もしかしたら自分のことを嫌っているミィとも、和解できるかもしれない。


「サナト」

「何かしら?」


 サナトは身をかがめてシロに視線を合わせる。


「どうやったら普通に笑えるの」

「……え?」


 シロは自分の疑問をぶつけることにした。


 サナトをがっかりさせないように、一生懸命に笑った。

 けれどもシロの作った笑顔は不自然なもので、サナトをがっかりさせてしまった。

 どうすればごくごく普通の笑顔ができるのか。


 どうすればもっと上手く笑えるのか。


 その問いに、サナトは難しそうに眉を寄せ、考えあぐねている。


「そうね……ううん……。

 簡単に答えられる問題じゃないわ」


 サナトはそう前置きして続ける。


「あのね、シロ。

 笑顔って作る物じゃないのよ。

 自然と浮かんでくるものなの。

 どうしたら自然に笑えるのか分からないのよね。

 でもね、意識しちゃってる時点で、

 それはもうなんかちょっと違うのよ」

「違う……?」


 サナトは真っすぐにシロを見据えて小さく頷く。


「そう、違うの。

 人は笑おうと思って笑わないの。

 気づいたら笑っているのよ。

 嬉しい時、楽しい時、面白かった時。

 甘いお菓子を食べて幸せな気持ちになったとき。

 人は自然と笑顔になるの」


 プラスの感情を得ると、人は自然と笑顔になるらしい。

 しかし、それはなぜなのか。


 シロには理由が分からない。


「どうして人は笑うの?」

「そうね……きっと気持ちを共有する為ね。

 嬉しい時に笑うのと一緒で、

 悲しい時は泣くし、怒った時は目を吊り上げて、

 自分の気持ちを自然と顔で表現しているわ。

 それは――」


 サナトは人が感情を顔で表現する理由を分かりやすく説明しようとしている。

 思い当たる言葉がないのか、しばらく視線を上向かせながら考え込んでいた。


「そうね……きっと。

 気持ちを共有することで人は仲間意識を覚えるのよ」

「同志であることを確認する?」


 シロが尋ねるとサナトは困ったように眉を寄せる。


「同志って言うほどのものではないと思うけどね。

 でもまぁ……そんなところね。

 同じ気持ちを共有できるのは仲間。

 悲しい気持ち、嬉しい気持ち、楽しい気持ち、苦しい気持ち。

 そんな気持ちを共有して、人と人とは繋がっていくの。

 顔で感情を表現するのはそのためね」


 感情の共有。

 それはすなわち仲間の証。


 人は顔で感情を表現し、気持ちを共有することで、強固な繫がりを得ることができる。

 これは生存戦略としてかなり優秀な能力ではないだろうか。


 感情の共有。

 気持ちの共有。

 つまりは共感。


 共感は人が他の野生動物を圧倒するべく群れを成すために必要な能力。

 つまり笑顔は群れの一員になるのに必須なスキル!


 これは必ず習得せねばなるまいと、シロは誓うのであった。


「サナト……私は笑顔を習得する。

 その手伝いをして欲しい」

「笑顔の習得……かぁ。

 あのね、同じことの繰り返しになるんだけど。

 笑顔って作るものじゃなくて……」

「おーーーーっほっほっほ!」


 サナトと話していたら、誰かが高笑いする声が聞こえてきた。

 廊下を一人のヴァンパイアの女性が歩いて来る。


 ハーデッドではない。

 確か彼女は――


「エイネリ! なんでアンタがここにいるのよ!」

「生意気なメスガキのサナトさん。

 アナタをからかって遊んであげようと思って、

 わざわざここまで来てあげたですの!」

「アンタ……もしかしてまたさぼりに来たの?」


 ユージから聞いていたが、エイネリはさぼりの常習犯。

 何かと理由をつけて生徒たちを放り出し、一人で自由気ままに過ごしている。


 これでクビにならないから不思議だ。


 エイネリはニヤニヤとした笑みを浮かべて、つかつかとハイヒールの音を鳴らしながら歩いて来る。

 それはもう楽しそうにニヤニヤニヤニヤ。


 そうか……あれが笑顔!


「教えて!」


 シロはエイネリに飛びついた。


「え? なんですの?」

「笑顔の作り方、私に教えて!」

「……え?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ