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26 奴隷兵

「え? 奴隷を兵士にするの?」


 ミィが驚いたように言った。


「その通り。

 奴隷たちは訓練を受けて傭兵として戦い、

 その賃金を奴隷の所有者に還元するんだ。

 金を受け取った所有者は自由を与える。

 早い話、自分で自分の自由を買うってわけさ」

「ふぅん……」


 釈然としない面持ちのミィ。今の説明では納得がいかないのだろう。


「所有者は奴隷を失うわけでしょ?

 そうしたら損じゃない?」

「確かにそうだな。

 奴隷がそのまま所有者の手を離れたらな」

「……え?」


 ミィの顔が固まる。


「それって結局、

 この農場で働かなくちゃいけないってこと?」

「奴隷のままここで働くわけではなく、

 賃金が支払われる普通の労働者になるんだよ。

 7日のうち二日、休みも貰えるようになる」

「ううん……それってなお更、

 所有者にメリットが無くない?」


 ミィの疑問にマムニールが微笑みながら答える。


「クスクス。まっとうな疑問だわね。

 確かに奴隷のまま雇っていた方が、

 コストは少なくて済む。

 けれども報酬があった方が、

 忠誠心は上がるものなのよ」

「え? どうして?」

「明確な理由は分からないけど、

 私の経験則からそう言えるの」

「経験則……ですか?」


 マムニールは小さく頷く。


「ええ、ユージの言う通りにしたら、

 以前よりもずっと経営しやすくなった。

 だから、彼の主張を受け入れて、

 奴隷を解放することにしたの。

 もちろん見返りが無いわけじゃない」

「え? 見返り?」


 ミィが怪訝な顔をすると、マムニールはクスクスと笑う。


「そう、見返りがあるの。

 私にとって最も欲しいものが手に入る」

「それって……なんですか?」

「武力よ」


 その答えに、ミィは眉をひそめた。


「武力?」

「私には目的があるの。

 そのためには力がいる。

 私に忠誠を誓った私の為に戦う兵士。

 それが私の欲しい物」

「兵士が? どうしてですか?」

「それはね……クスクス。

 口を滑らせてはダメね。

 アナタには教えてあげられないわ」

「……?」


 ニヤリと笑うマムニール。

 それ以上、何も言わない。


 俺は知っている。彼女は復讐がしたいのだ。


 マムニールの夫は先代の魔王に仕えていた幹部で、先の戦争にも従軍していた。生き残った彼はレオンハルトの元でも働いていたが、ある男の謀略にハマって殺害されてしまう。


 その犯人は……なんとあのクロコドだったのだ。


 馬車に乗っていた夫と息子の二人をクロコドの配下が襲撃して命を奪った。犯行の動機はよくわからないが、おそらくは権力闘争のためとみられる。


 クロコドは何人もの獣人を従える有力者。彼女一人では太刀打ちできず、復讐は叶わない。どうすれば良いか悩んでいたところに俺が現れた。


 マムニールと信頼関係を築いた俺は、奴隷たちに戦闘訓練を受けさせることを提案。武力を欲していた彼女にとって、その提案は渡りに船だったというわけだ。


「それで……奴隷たちにはどんな訓練を?」


 ミィが尋ねると、マムニールはゆったりと歩き出す。


「ついてらっしゃい、見せてあげるわ」


 振り返って手まねきをする彼女の仕草は不思議ななまめかしさをはらんでいた。


 彼女に付いて行くと大きな広場に出る。

 そこには離れた場所に的が設置してあり、奴隷のケモミミ少女たちが弓で狙いをつけている。


「ここは弓の訓練場。

 的に当てるのって結構難しくて訓練が必要なのよね。

 きちんと弓を扱えなければ、

 兵士として使い物にならない。

 だから皆、ここで一生懸命、訓練に励んでいる。

 というわけねぇ」


 何人ものケモミミ少女たちが一列に並び、遠くの的を狙っている。


 弓も、矢も、的も、全てマムニールが自費でそろえた。

 復讐へかける本気度がうかがえる。


「あの、どうして女の子ばかりなんですか?」

「元々、女の子ばかり買い集めていたからね。

 男の子は少ないのよ。

 まぁ、少しはいたんだけど……」


 マムニールは意味ありげに俺の方を見やる。ここからは俺が説明すべきかな。


「少年たちは既に訓練を終え、実戦に出ている。

 と言っても諜報だがな」

「諜報?」

「スパイってことだよ」

「ああ、なるほど」


 ケモミミハーフのオスたちは人間界へ潜入させているのだ。


 人間に近い容姿をしている彼らは、獣人やオークと比べて比較的容易に潜入できる。つっても、人間界でも普通に差別されるので、何から何まで自由にというわけにはいかない。


 彼らに収集させている情報は多岐にわたる。

 敵地の地形や城の位置。街の人口や有力者の情報。その他、諸々。敵地に侵攻した時のために、とにかく沢山の情報を集めている。


 それに加え、コネクションづくりも実施。地方で有名な盗賊団や、少数民族、反社会的勢力など、味方にできそうな連中と片っ端から関係を築き、もしもの時には協力を仰ぐ。

 何事も準備が肝心。万全を期した状態で戦いに臨みたい。


「ユージは戦争を始めるつもりなの?」


 ミィが言った。


「これは俺が望んだ闘いじゃない。

 魔王が望み、民衆が望んだ闘いだ。

 彼らを満足させるには戦うしかない。

 俺の役割は早期に戦いを終わらせ、

 できる限り犠牲を減らすことだ」

「そっか……戦いは避けられないんだね」


 納得してくれたかどうかは分からんが……俺が進む道は決まっている。


 平和を実現するには力がいる。力を得るには戦いに勝利するしかない。武力の放棄が平和につながるとは限らないのだ。


「それじゃぁ、そろそろアレを見てもらおうかしら。

 ユージにずっと黙っていたのだけど、

 ちょっとしたサプライズがあるのよ」

「へぇ……サプライズですか」


 いったいなんだろう?

 俺が疑問に思っていると、マムニールは奴隷に物を取りに行かせる。


 彼女が俺に見せたい物とは?

 果たしていったいなんなのか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] マムニール、魅力的です。 夫と子供の敵討ちを胸に秘め、艶やかに強かにしなやかにふるまう。 かっこいいです。 最高に好きなキャラクターです! レオンハルトの、この物語における可愛さナンバー…
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