257 シロの日常9
サナトについて行くと、そこは物置部屋だった。
彼女が保管していた魔道具が置いてあると言う。
「ちょーっと危険物の処理を頼みたいのよね。
あなたなら体内に取り込んで無力化できるでしょ?」
「ものによる」
シロは体内にあらゆる物体を保存することが出来る。
ただし、自分の体積を越える物体を取り込むことは出来ない。
強力な魔力を発揮するアイテムであっても、その効果を全て無力化して取り込むことが可能。
これはサナトがシロの身体を調べているときに判明した能力である!
シロ自信はこの能力について自覚はしているものの、どれほどの力なら抑え込むことができるのか、損の詳細についてまでは把握していない!
自分の能力を超えて無効化する事は不可能だと分かっているが、どのレベルを超えるとキャパオーバーになってしまうのか分かっていないのだ!
そんな状態なのによく無茶ぶりをするなと、シロは心の中でサナトを憎々しく思った。
「じゃぁ、試しにこれを食べてみて」
そう言ってサナトが差し出したのは、小さな小箱に詰まった色とりどりの宝石。
これは魔力を封じ込めた魔石と呼ばれるアイテム。
見た目こそ綺麗なものの、なんかすごくヤバい感じがする。
「とっても危険」
「ええ、危険すぎて持て余していたのよ。
どうにかしないといけないって思ってたんだけど……。
フェルたちに穴でも掘らせて埋めちゃおうかなって思って。
で、お願いしにいたらアナタがいたってわけ」
さらりと酷いことを言うサナト。
幼女の面を被った悪魔のような女である。
こんな鬼畜クソロリのために、フェルたちは無駄な仕事をさせられる羽目になるところだった。
偶然とはいえ、彼らの助けになれてよかったとシロは思う。
「うん? 何か文句でもあるの?」
「パワハラ、ダメ、絶対」
「え? パワハラ?
確かにこんな危険なもの食べさせようとしてるんだから、
パワハラになるかもしれないわね……」
「ちがう」
「え? 何が違うの?」
ダメだコイツ。
早く何とかしないと。
彼女は無自覚に周りに迷惑をかけている。
普段はユージが調整役になって彼女を暴走させないようにしているが、放っておくと手が付けられなくなる。
事実、サナトはフェルたちを都合よく危険物処理の道具として扱おうとしていた。
正に鬼畜の所業。
こんな輩を放っては置けぬ。
シロは激怒した。
「サナトはもっとフェルに優しくしてあげるべき」
「え? フェル?
ああ……アイツね。
ちょっと雑に扱うくらいでちょうどいいのよ。
可愛がってもあんまり意味ないし。
それに白兎族って男でも女でも無いじゃない?
だから――」
だから……なんだろう?
そのあとのに続く言葉が何か、シロは固唾をのんで見守る。
「だから――少しでも気を抜いたら。
ユージさまを取られちゃうかもって……。
そう思っちゃうのよね」
それはない。
絶対にありえない。
フェルの好みはユージと対極にある。
彼は筋肉ゴリゴリのマッチョ体形を好む。
ヒョロガリの頂点にいるスケルトンのユージとは間反対の性癖。
フェルがユージに性的な魅力を感じるなんて絶対にありえない。
絶対に。
そのことをサナトは分かっていない。
というか、ユージに近づく女は全て敵と思っているのかもしれない。
この様子だと……ムゥリエンナやエイネリに対しては、もっと強いライバル心を抱いているはずだ。
彼女が暴走したらどうなるのだろう。
シロは彼女の恋の行く末を憂いた。
きっと破滅的な未来が待っているに違いない。
「あのさ……恋愛相談とか……乗ってくれたりする?」
用事そっちのけで妙なことを言い出すサナト。
急にどうしたのだろうか?
サナトの恋愛相談に乗るなど、血の沼に足を踏み入れるようなものだ。
シロは断固拒否の構えを崩さない。
「むり」
「やっぱり……だめ?」
「だめ」
「そっかぁ……」
がっくりと肩を落とすサナト。
そんなに残念がるのであれば、フェルの扱いを改善して良好な関係を築き、相談に乗って貰えばいいのだ。
きっと彼なら良い理解者になるだろう。
……多分。




