256 シロの日常8
「じゃぁ、付いてきて頂戴」
「サナト、おんぶ」
シロはおんぶを要求する。
「無理に決まってるでしょ。
私のこの貧弱な身体で、
あなたを背負うことなんて出来ないわ」
そう言ってサナトは肩をすくめる。
確かにサナトの身体は貧弱だ。
幼い少女のような容姿で肉もそれほどついていない。
胸はぺったんぺったん。
「ねぇ……今何か失礼なこと思わなかったかしら?」
「別に」
「私のこと貧弱つるぺったんのメスガキって。
そんな風に思ったでしょう?」
「そこまで思ってない」
「多少は思ったってことでしょうが!」
シロの両頬を指で引っ張るサナト。
痛みなどは普通に感じるので勘弁してほしい。
「やめて」
「じゃぁ、あなたも変なこと考えるのやめなさい。
まったく……誰に似たんだか!」
プンプンと怒るサナトだが、やっぱりどこか子供っぽい。
見た目だけの問題ではないような気がする。
「きっとユージさまの性格がうつったんだね。
まるで親子みたいだなぁって前から思ってたけど」
「ふぅん……フェルはこの子のことを、
そう言う風に見てたのね。
つまりユージさまはこの子のパパってわけね」
「まぁ……そう言う風に思ってたよ」
パパという言葉をやけに強調するサナト。
「じゃぁ、私はさしずめママってところね」
「ううん……そうなるのかなぁ」
腕組みをしながら眉を寄せるフェル。
あんまり納得していないようである。
「確かに生みの親……と言ってもいいかもしれないけど。
ユージさんがパパで、サナトがママって言うのは……」
「なによ、変だって言いたいの?」
「そう言うわけじゃなくてさ……」
「じゃぁ決まりね! 私がこの子のママ。
ユージさまはパパって事で。
そう言う認識でいて頂戴」
「ううん……」
困ったような表情で首をかしげるフェル。
やはり二人のことをパパ、ママと呼ぶことに抵抗があるようだ。
「ねぇシロ。
あなたも私のことをママって呼んでくれるわよね?」
「普通に嫌」
「ちょ!? 待って、え⁉ なんで!?」
「嫌なものは嫌」
シロはサナトをママとすることを断固として拒否する。
ユージをパパと位置付けるのも同じだ。
「どうして!? なんで!?」
「理由は特にない」
嘘だ。
理由ならある。
シロにとってユージは父親も同然の存在だ。
今の身体を作ってくれた(偶然とはいえ)サナトもまた、母親のような存在と言えよう。
しかしなら、二人をパパ、ママとして認めることは即ち、二人が夫婦であるかのような認識を植え付けてしまう。
それだけはなんとしても拒否したい。
シロにとってユージは父親でありながら、彼の愛を独占したい相手でもある。
子供としてかわいがってもらうだけでは不満なのだ。
だから、ライバルに塩を送ってやる余裕などない。
サナトは母でありながらライバルである。
複雑な関係なのだ。
「ほんとにもぉ……!
誰がアンタの面倒を見てあげたと思ってるわけ?!
今の身体になったのはだれのおかげ?!」
「全部サナトのおかげ」
「じゃぁ、ちょっとくらいこの私に感謝して、
肩を持つくらいしなさいよ!」
「それは断る」
断固、拒否の構えを取るシロ。
絶対にサナトをママと呼んだりはしない。
「サナト、そろそろ行こう。
こうしているあいだにも、フェルの淫夢が私を蝕む」
「え? 何言ってるのこの子?」
怪訝そうな表情を浮かべるサナト。
シロがフェルの方を見やると、彼は怖がっているような、それでいて恥ずかしがっているような、実に複雑な表情を浮かべていた。
「ねぇ……フェル。どういうこと?」
「さぁ、僕には全く分からないよ」
そう言いながら、脳内の淫乱な妄想を消去するフェル。
このやり取りのさなかでも、彼はずっとエッチな妄想を続けていた。
「まぁ、いいわ。
さっさと行って、さっさと用事を済ませましょう。
お駄賃に何かご褒美をあげるわ」
「わーい」
両手を上げて喜ぶシロ。
でも顔は無表情。
まだ彼女は笑うと言うことがよく分かっていない。




