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254 シロの日常6

「ここが僕の仕事場だよ」

「ここが?」


 フェルはシロを連れて職場へと向かう。

 そこは魔王城の中庭にある小さな木造の小屋。


 比較的新しいもので、最近建てたばかりなのだと分かる。


 小屋の中では何人もの白兎族の者たちが働いている。

 書類に何かを書き込んだり、数字を眺めたり、他の仲間に指示を出したり。


 彼らは白兎族の者たちが城内で円滑に働けるよう、人員の管理を行っている。

 必要物品を管理するのも彼らの仕事。


 白兎族たちは魔王城で選択や清掃などの雑務に従事している。

 庭の手入れも彼らの仕事だ。


 日々あちこちに出向いて回って、魔王城の中を清潔に保つのだ。


「いそがしそう」

「うん、とっても忙しいんだ。

 邪魔にならないように端っこに座っててね」

「わかった」


 シロは白兎族用の小さな椅子にちょこんと腰かけ、彼らの仕事ぶりを見守ることにした。


 白兎族の容姿は人間の少年に近い。

 彼らの仕事ぶりは、幼い男の子たちが一生懸命になって勉強しているかのよう。


 カリカリと鉛筆が用紙をなぞる音が聞こえる。

 私語を慎み、誰もが真面目に仕事に取り組んでいた。


 時折、何かを思い出したかのように小屋を飛び出していく。

 事務仕事と現場の仕事を兼務しているらしい。


 ユージは本当にこれだけの人材を良く育てたと思う。

 シロは一人で感心していた。


 彼らはここへ来る前、このような仕事はしていなかったはずだ。

 白兎族の心の中からは故郷を思う気持ちが伝わってくる。

 彼らの居場所は本来ここではないはずなのだ。


 心の中にある故郷の風景。

 長閑な丘陵地に掘られた穴倉の家。

 幸せに身を寄せ合って暮らす白兎族の家族。


 ここにいる誰もが、そんな故郷の風景を心の片隅で思い描きながら仕事をしている。

 頑張ればいつか必ず報われる日が来る。

 奪われた故郷を取り戻すことが出来る。


 そう信じて一心不乱に働いているのだ。


 彼らを動かしているのは、ひとえに望郷の思い。

 奪われてしまった大切なものを取り戻すため、真剣に目の前の課題に取り組んでいる。


 彼らにとって、仕事は戦いと同じなのかもしれない。


 誰もがそんな思いを抱いているなか、ただ一人、フェルだけは違った。

 彼だけは仕事のことだけを考えている。


 どうすれば今日の業務を円滑にこなせるか。

 誰にどの仕事を、どの配分で割り振ればいいか。

 雑念に囚われず真剣に考えている。


 彼は目の前の書類を眺めながら、人員配置について熟考していた。

 余計なことなど考える暇が――


『よぉ』


 フェルの脳内にノインが現れた。

 本当に唐突に、なんの脈絡もなく。


『のっ……ノインさん!?』


 脳内で茶番を始めるフェル。

 いったい急にどうしたと言うのか。


『あんまり仕事を頑張ってるもんだからよ。

 ちょっと息抜きにって思って遊びに来たぜ』

『そんなぁ……僕のために? 嬉しいなぁ!』


 脳内でイチャイチャし始めるフェル。

 彼は真顔で仕事を続けている。


『おいおい、なんで赤くなってんだ?

 俺が来たのがそんなに嬉しかったのかよ?』

『あっ、だめ! 皆が見てるよぉ!』


 やれやれ。

 これはひどい。


 フェルは仕事をしながら、脳内でほしいままに淫乱な妄想を繰り広げる。

 誰も心の中なんて覗いていないと思っているのだろう。


 ずいぶんと器用なもので、彼は書類の記入を行いながら脳内での行為に及んでいる。

 エッチな妄想をしていても仕事を止めるわけにはいかない。

 でも妄想も止められない。


 暴走するフェルの脳内イメージは次第にエスカレートしていき、ついには他人にその詳細を語るのもはばかられるよう内容になっていった。

 あまりに過激すぎる。


 シチュエーションも仕事場。しかも同僚の前で、というとんでもない状況。

 これで興奮できるのだからすごい。

 ただただ、すごい。


「ふぅ……」


 フェルはため息をついて背伸びをする。

 リラックスしているようで、実はそうではない。

 脳内で一通り満足するまで妄想したので、気持ちを切り替えているのだ。


「さて、続きもやっておかないと」


 独り言ちて次の仕事に取り組むフェル。

 そして脳内の映像も別のシーンに切り替わり、ノインとまた二人で大人な遊びを始めるのだった。

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