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253 シロの日常5

 しばらく食堂で過ごしていたシロだったが、だんだん退屈になって来た。

 ノインの観察に飽きたのだ。


「うずうず」

「うん? もしかして退屈してるのか?」

「そう」

「ううむ……もうすぐ昼食の時間だ。

 俺はここから離れられないからなぁ。

 あっ、丁度いいところに……」


 ノインはおーいと声を出して手招きをする。

 誰かを見つけたようだ。


「ノインさん? どうかしたんですか?」


 やって来たのはフェル。

 ユージの部下の一人だ。


「フェル、悪いが一つ頼まれてくれねぇか。

 ユージが飼ってるシロが一人で部屋から出てきちまったんだ」

「え? シロが? あー、ほんとだ」


 フェルはシロを見るなり、顔をしかめる。


「妙な魔力の気配がすると思ったら、

 君が原因だったんだね」

「フェル、抱っこ」


 両手を広げて抱っこを要求するシロ。

 自分で歩くよりも彼に運んでもらった方が楽ちんである。


「いや……急になんで?

 どうして抱っこ?」

「どこか連れていって」

「僕も仕事があるんだけどなぁ」


 困った表情を浮かべるフェルだが、押せばいけると踏んだ。


「お願い。抱っこ」

「ううん……分かったよ」


 フェルはシロを抱きかかえようとするが、身体を話して少し考えてから、おんぶをしようと背を向ける。

 そちらの方が楽にシロを運べると考えたようだ。


「ほら、僕の背中に乗って」

「分かった」


 フェルの背中につかまって彼の華奢な身体を抱きしめる。


 頭に顔をうずめてスンスンと鼻を嗅ぐと、とてもいい匂いがした。

 お日様の匂いだ。


「悪いなぁ、俺は手が離せなくてなぁ」

「あっ、大丈夫です。

 シロちゃんの面倒を見るのは初めてじゃないので。

 僕に任せて下さい」

「助かるよ、ありがとな」

「へへへ」


 ノインに礼を言われ、フェルは嬉しそうにほほ笑む。


 シロは彼の表情を見ることが出来ないが、彼が今どんな感情を抱いているのかは分かった。

 純粋に喜んでいるようだ。


 好きな人の力になれて、それが嬉しい。

 表情も自然とほころんで笑顔になる。


 さっきのノインが浮かべた笑顔とは、また性質が異なっているようだ。


「どこへ行くの?」

「僕の仕事場だよ」


 シロを背負ったフェルは自分の職場へと向かう。

 小柄な彼が小さな子供を背負うのは結構たいへんなようで、ゆっくりとしか進めない。


「大丈夫?」

「うん、平気。

 てゆーか自分で歩けるよね?」

「うん」

「じゃぁ、歩いてもらってもいいかな?」

「……わかった」


 結局、自分で歩くことになった。

 フェルの背中から降りたシロは彼に手を引かれて並んで歩いていく。


 すれ違う獣人やオークは、シロを物珍しそうに見ていた。

 いつもユージと一緒だったので、他の人と歩いているのは意外なようだ。


 彼らの心の中を読むと、どうやらシロは得体のしれない存在として認知されているよう。

 建前上はユージが作り出したことになっており、正体不明の人工生物として警戒されている。


 管理者であるユージが傍にいないと、暴走するかもしれない。

 すれ違う者たちからそんな不安が伝わってきた。


「じーっ」

「うん? どうしたの?」


 シロはまっすぐにフェルを見つめる。

 視線に気づいた彼はシロを見下ろしながら首を傾げた。


 彼は他の獣人やオークと違って、シロを警戒していない。

 ただの小さな子供と思っている。


「なぜフェルは私を恐れない?」

「え? どうして?」

「だって私は……」


 そこまで言いかけて、やめにした。

 この問いかけにあまり意味はない。


 シロは他人の心の中を読むことができる。

 他人が自分にどんな感情を抱いているのか、聞くまでもないのだ。


 フェルがシロを恐れないのは、ユージを信頼しているから。

 彼がシロを大切にしているから、フェルも同じように大切に接してくれているのだ。


 ただそれだけのこと。


「ううん、なんでもない」

「そっか」


 フェルはシロの手を引いて歩き出す。


 彼の心は平穏。

 どこをどう探しても、シロを怖がる気持ちは見つからない。

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