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250 シロの日常2

 外の廊下には誰もいなかった。


 石づくりの床がずーっと続いていて、人影は見えない。

 シロは右と左を交互に見渡し、どちらへ進むか思案する。


 こういう場合、直感に頼るべきだと、さして長くもない人生経験からそう判断する。


「……みぎ」


 シロは右を向いてまっすぐに走り出す。


 幼い少女の肉体では、あまり早く進めない。

 とてとても廊下を走る彼女は人間の子供そのもの。

 なにかの拍子で転んでしまうのではないかと、見守る者がいたら不安になってしまうだろう。


 しばらく進んで行くと、広い場所に出た。

 そこは警備兵の詰め所のようで、何人ものオークがテーブルを囲んでカードゲームに興じている。

 どうやら賭け事をしているようで、テーブルの上には何枚ものカードと硬貨が散らばっていた。


 シロは少し離れた場所にある棚によじ登り、そこに腰かけて彼らを観察することにした。


 オークたちは基本的に大人しい。

 喧嘩や言い争いを同族同士ですることはまれ。

 少なくとも、ユージと一緒に外へ出た時に、彼らが同族で争っている所を見たことがなかった。


 しばらくそうしていると、何人かのオークの集団がやってきて、彼らに声をかけた。

 すると遊んでいたオークたちは清算を始め、散らばっていた硬貨を集めて財布にしまう。


 片付けが終わると、近くに置いてあった槍を手に取り、鉄の兜をかぶって詰所から出て行った。

 あとから来たオークたちは椅子に腰かけ、カードを切り、ゲームを始める。


「…………」


 シロは彼らの様子をじーっと見ている。


 オークたちがゲームをしている様子を眺めるのは楽しい。

 誰が勝って、誰が負けるのか。

 よくよく観察していると、強いものと弱いものがいると分かる。


 ユージは賭け事をあまり好まないようで、ゲームをしている所を見たことがない。

 部屋にいる時はいつもシロとお喋りをしている。


 ただ……シロは口数が少ないので、ユージの話を聞いていることがほとんどだ。


 彼曰く、賭け事はよくないと。

 『ぱちんこ』や『すろっと』なんてしても、『どうもと』が勝つだけ。

 『こうえいぎゃんぶる』も多少おいしい思いをしても、調子に乗って直ぐに負ける。


 ユージは自分には賭け事の才能がなかったと言っていた。


 君子危うきに近寄らず。

 結局は堅実に生きることが一番の得になる。


 ぼやく様にそんな風なことを言っていた。


 シロはふと、自分に賭け事の才能があるのか試したくなった。

 棚から飛び降りてオークたちの元へ歩いていく。


「私もまぜて」

「え? 誰だよこの子?」


 オークたちは困惑した。


 突然、人間の容姿をした謎の子供がゲームに混ぜろと言って来る。

 戸惑わないはずがないのだ。

 そもそも人間の子がなんでここにいるのか。


 テーブルに手と顔を乗せて、不思議そうにこちらを見ているオークたちの顔を一瞥して、シロは再びゲームへの参加を要求する。


「私もまぜて」

「「「…………」」」


 困惑して固まるオークたちをよそに、シロは許可を得るまでもなく、空いている椅子に腰かけた。


「さぁ、始めよう」

「あっ……はい」


 シロが当然のようにカードを要求する。


 いったいこの子は何者なのかと不審がる一同だったが、結局は彼女の参加を認めてしまった。

 それほどまでに堂々としているのである。


「ねぇ、このカード強い?」

「え? いや……その前にルール分かってる?」

「分からない、教えて」

「「「…………」」」

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