表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/369

25 農場のオーナー

「シャミ、早速ですまないが……。

 君の主人を連れて来てもらえないか?」

「はい! 分かりましたぁ!」


 快諾して飛んでいくシャミ。彼女が少し離れてからミィが口を開いた。


「ねぇ……ここで生活するの?」

「ああ、一週間の辛抱だ。

 と言っても、ここの奴隷は丁重に扱われている。

 俺の部屋で暮らすよりもずっと快適だぞ」

「ううん、共同生活とか心配だなぁ。

 他に沢山奴隷の子がいるんでしょ?」

「ああ、確か100人近くいたはずだ」

「うわぁ……」


 げんなりするミィ。集団行動がよほど嫌らしい。


 彼女の気持ちも分からなくもない。一人ってのは気楽でいいからな。

 それに奴隷として生活しろだなんて、いきなり言われても不安になるだろう。俺は彼女の不安を払拭するべく、ここの奴隷がいかに丁重に扱われているか説明。


 先ず、労働について。

 一日8時間を厳守。それ以上は絶対にダメ。


 朝は6時に起床。朝食を取ってから4時間ほどの肉体労働ののちに昼食。一時間の休憩を経てから午後の労働。4時間働いたら夕食。自由時間の後、直ぐに就寝。


 とまぁ、奴隷にしてはかなりホワイト。

 一切給料が支払われず、休日が存在しない以外は、なんら問題のない平均的な待遇といえるだろう。


 この国で奴隷は家畜として飼われており、毎日フル回転で限界まで働かされていた。食事も一日一回だけ。そんな待遇なものだから次々に死んだ。

 これはなんとかしないといかんと思い、俺は農場の持ち主の所へ行って直談判。奴隷の生活環境を改善するよう訴える。


 初めは誰も聞く耳を持たなかったが、熱心に説得して回っている内に話を聞いてくれる人が現れた。

 それがこの農場のオーナーだ。


 勤務時間を短くして休憩を取り入れ、十分な食事を与えた方が効率は良くなると、俺は時間をかけてオーナーに説明。人権なんてクソ喰らえなこの世界で、その主張は眉唾ものだっただろう。

 ところが、オーナーは面白半分で俺の主張を聞き入れ、労働環境の改善に同意。


 環境改善後、生産性ははるかに向上。奴隷が死亡することも少なくなり、領内で一番の生産力を誇るようになった。


 この農場が成功したのを見て、他のオーナーも労働環境を改善。そんな過去があるので、ケモミミハーフ奴隷は俺を信頼してくれている。


「というわけだ、ミィ。

 そんなに大変な生活じゃないから安心しろ」

「まぁ……それくらいなら……」


 微妙な表情だが、安心はしたようだ。少なくとも地獄ってほどではない。


「呼んできましたよー!」


 シャミが戻ってきた。後ろにオーナーの姿が見える。


「あの人……が?」

「ああ、オーナーのマムニールだ」


 マムニール・ライネット。この農場を取り仕切る猫型獣人の女性。


「お久しぶりねぇ、ユージさぁん」


 なまめかしい手つきで手まねきをして、腰を微妙にくねらせるマムニール。


 全身が赤い体毛でおおわれている彼女は、衣服を身に着けていない。見た目は二足歩行する猫なので、別に裸でも恥ずかしい気持ちにはならん。

 乳房は人間と同じ形をしていて、非常に大きいが乳首は毛で隠れている。

 唯一露出しているのはへそくらいだろうか。腹部は毛が薄くなっているが、他はほぼ全部もっさりと毛が生えている。


 顔もほとんど猫。完全にケモナー向けのキャラクター。ブリティッシュ・ショートヘアーな感じの見た目で、どこぞのニヤついた猫をほうふつとさせる。


 獣人って基本的に服を着ないんだよな。魔王は黒いコートを身に着けているが……しっかりと着こんでいる人の方が少ない。


「ご機嫌うるわしゅう、マムニール婦人。

 調子はいかがですか?」

「上々ってところねぇん。

 今日はなんの用で来たのかしら?」


 早速、本題に入る。


「実は……訳あって奴隷を手にしまして。

 その処遇をどうするか困っているのです。

 一週間ほど預かってもらえないでしょうか?」

「奴隷を? どうしてまた」

「これには深ぁいわけが……」


 深いわけなどない。部屋の前に勇者が転がっていただけだ。

 口が裂けても本当のことなど言えないけど。


「あなたには借りが沢山あるから、

 それくらいのお願い、

 聞かないわけじゃないのだけど……。

 ただってわけにはねぇ」

「勿論、見返りも用意してあります」

「見返り?」

「こちらです」


 俺は持っていた紙袋からある物を取り出す。


「そっ……それはぁ」

「最上級のマタタビにございます」

「いいわぁ、いいわいいわ!

 アナタって本当に素敵な骨ね!

 いいわ、なんでも言うこと聞いちゃう!

 なんでもよ!」


 チョロいなこの人。


 このマタタビはイミテの商店で貰ったものだ。

 魔王がネコ科なので、こういう物を直ぐに手に入れられるよう、イミテにこっそりと仕入れさせている。レオンハルトが素直に言うことを聞くのは、俺がこういった品を用意できるからでもある。


 マムニールは受け取ったマタタビに頬をすりすり。

 ウットリした表情を浮かべている。


「それでは、この奴隷をお預かり頂けますね?」

「ええ、勿論よ!」


 二つ返事でミィの保護を受け入れてくれた。

 ありがたいことだ。


「ねぇ……ユージぃ」


 ミィが小声で話しかけて来た。


「なんだ?」

「本当にここで生活するの?」

「不満か?」

「そう言うわけじゃ……」


 やはりまだ抵抗感があるか。無理もない。


 奴隷として生活しろと言われたら誰だって嫌だ。ここで奴隷がどんな生活をしているのか、実際に見せて安心させてやろう。


「マムニール婦人、農場を見て回っても構いませんか?」

「ええ、結構よ。

 ユージさんには見てもらいたい物があるの。

 丁度いいから見学して行って頂戴」

「はぁ……」


 見て欲しい物? なんだろうなぁ?

 心当たりがない。


 とりあえずミィを案内しよう。この農場の勝手は大体分かっている。


「まずここが奴隷たちの宿舎だ。

 一人一人にベッドがあてがわれていて、

 私物の所有も許可されている」

「ふぅん……」


 俺が最初に案内したのは奴隷の宿泊施設。


 綺麗でフカフカな布団。枕もあるぞ。

 ベッドは二段。大きな広間にたくさん並べられている。


 今は皆、働きに出ているので誰もいない。


「うわぁ……」


 それを見てミィ、ドン引き。


「この生活環境ではダメか?」

「個室じゃないと落ち着かない……かな」

「個室はなぁ。流石に無理だろう」

「そっかぁ……」


 ミィは集団生活が生理的に受け付けないらしい。今から心配になってきた。


「大丈夫だよ、ミィちゃん。

 ここの生活も悪いもんじゃないよ」


 ミィの不安を拭い去ろうと、シャミは優しく語りかける。


「ううん……シャミさんは嫌じゃないの?

 奴隷として扱われるのって」

「え? なんで?」

「なんでって……奴隷って普通に嫌でしょ」

「確かに嫌かもね。

 でも私は生まれた時からずっと奴隷だったから、

 自由ってよく分からないんだ」

「……そうなんだ」


 獣人と人間との間に生まれた彼女たちは、基本的に自由が認められていない。


 シャミも生まれながらに奴隷だったので、自由がなんなのか理解できないのだ。

 それでも……。


「でも、自由って憧れる!

 お出かけして、好きなものを買って、

 男の人と恋人になりたい!」


 目を輝かせて自由の夢を語るシャミ。その思いは実に切実だ。


「あなたの頑張り次第で自由も手に入るわぁ。

 ねぇ、ユージさん……」


 マムニールはにこやかに笑って言う。


 ケモミミハーフ奴隷を自由にする為、俺はマムニールとある協定を結んだ。

 それは……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ