247 祭りはまだ終わっていない
それから、俺はゲブゲブの家へ。
新しい身体を手に入れて皆の所へと向かう。
街の広場には休憩所的なテントが設営されており、そこに仲間たちが集まっていた。
みんな俺の生還を喜んでくれた。
今後は不用意に一人で出歩かないようにしたい。
「ユージ……お帰りなさい」
「ああ、ただいま」
シロが俺の帰還を迎え入れる。
彼女がフェルに助けを求めてくれたので、俺の仲間たちは早急に対応できた。
首の皮一枚で繋がったのはこの子のお陰と言っても良い。
「いやぁ、お前がさらわれたって聞いてビビったぞ。
帰ってこれて良かったなぁ」
ノインがしみじみと言う。
彼は屋台の食べ物を沢山持ってきてくれた。
「本当に良かったですぅ!
もしユージさまがいなくなったら、私ぃ……」
ウルウルと目に涙を浮かべるムゥリエンナ。
彼女も心配していたらしい。
「いやぁ、良かったッスねぇ!
ユージさまが帰ってこれたのも、
自分が敵を足止めしたからッスね!
感謝してくれてもいいッスよ?」
調子にのるヴァルゴ。
まぁ……今回ばかりは感謝すべきだろう。
彼はパレードに参加できず、やることが無くて街をウロウロしていた。
異変を察知した彼は敵が逃げるなら下水道だろうと考え、一人で勇者たちを追っていたらしい。
敵との闘いで瓦礫の下敷きになった彼だが、自力で這い出して地上まで脱出したそうだ。
何気に生命力が強い。
「良かったですねー。戻って来れてー」
イミテがのほほんと言う。
彼女は今回の事件に一切絡まなかった。
戦力になるような存在ではないので、仕方がないと言えば、仕方がない。
けど、もうちょっと俺の帰還を喜んだらどうだ?
演技でもいいからさぁ。
「もぅ、ユージさんったら……。
この前の件といい、今回のことといい。
アナタと付き合ってると心臓に悪いわ」
マムニールが言う。
彼女が異変に気付いたのはついさっき。
俺が敵に連れ去られたとの噂が広まり、直ぐに救出に向かおうとしたのだが……その前に俺が戻ってきてしまった。
「申し訳ありませんでした。
何度も、何度も、ご心労をおかけして……」
「いいのよぉ、気にしなくて。
それよりも聞いてぇ。
お店の宣伝、大成功だったみたいなのぉ!
お金を出してくれたスポンサーの方たちから、
またやってくれって大盛況よ!」
「それはなにより」
「シャミとベルもお祭りに参加できて、
とても喜んでいたわ。
それもこれも、アナタのお陰ね」
そう言ってウィンクするマムニール。
「そう言えば、二人はどこに?」
「黒騎士さまを迎えに行ってるわ。
あの人、ずっと魔王様の護衛をしていたから、
この騒ぎにも気づかなかったみたい」
「左様でしたか……」
ミィがこの件に気づいていたら、速攻で動いていたことだろう。
そうしなかったのは……単に彼女の耳に情報が入らなかったからかな。
結果的に俺は無事に帰還。
パレードも成功した。
これで良かったのかもしれない。
「ううん……プゥリも戦いたかったのだ!
置いてきぼりは寂しかったのだ!」
文句を言うプゥリ。
コイツがいても何もできなかったと思う。
「そうであります!
私も戦いに参加したかったであります!」
トゥナも文句を言う。
彼女は異変を察知して、すぐさまトゥナに報告。
フェルやサナト、エイネリとも連絡してくれた。
仲間たちが連携を取って戦えたのも彼女の存在が大きい。
トゥナはひたすら町中を飛び回り、協力者を集めてくれていたのだという。
「いや、お前は十分に戦ってくれたぞ。
そのおかげでゲブゲブが助けに来てくれたからな」
「あの人、大丈夫でありますか?」
「今は自分の家で休んでるよ」
ゲブゲブは戦いで受けた傷が酷く、立っているのもままならない状態。
割と心配していたのだが……治療用に開発したスライムがいるので、心配しなくても大丈夫だと言われた。
なんでも、身体を丸々飲み込ませて、スライムに傷を回復させるそうだ。
そんな便利なものまで作ってたのか、あいつ。
フェルからゲブゲブのことを聞いたトゥナは、彼の所へ飛んで行って協力を求めた。
すると、彼は下水に潜って敵の足止めをしつつ、敵を郊外の林まで誘導すると提案。
トゥエはその作戦をすぐさまフェルとトゥナに伝え、ハーデッドにも協力を求めた。
ちなみに、フェルを林まで運んだのはトゥエだった。
ハーデッドの移動も手伝ったという。
今回一番活躍したのは彼女かもしれん。
ゲブゲブも土壇場で作戦を立案して、その通りに勇者たちを誘導してくれた。
彼がいなければ下水道を簡単に突破され、敵を取り逃がしていたかもしれない。
今回は皆が良い感じに協力してくれたのが幸いした。
普段から色んな人に協力をお願いしていたので、それが功を奏したかたちだ。
「それにしてもフェル殿は大活躍でしたねぇ!
この働きは勲章ものですよ!」
「いやぁ、そんな……」
アナロワの言葉に、照れるフェル。
フェルは勇者たちから俺を取り戻し、一瞬の隙に俺と花火玉をすり替えて敵を欺いた。
実はあの玉はそれほど重くなく、手に持ってもそれほど重量を感じないという。
まぁ……普通に気づきそうではあるのだが……マティスは勘違いしてしまった。
戦って俺を取り戻そうとしても、マティスたちの猛攻をしのぎ切るのは至難の業。
フェルは知恵で対抗することで見事に目的を達成。
彼には当分、足を向けて眠れない。
「そう言うお前らも良く頑張ったぞ。
ゴブリンがいなかったら、
祭りは成功しなかっただろうなぁ」
「へへへ、どうも」
ヌルが言うと、アナロワは嬉しそうに鼻の下をこする。
パレードはなんのトラブルもなく、全ての部隊が街の外まで安全に行進できた。
ゴブリンたちがきちんと彼らを先導し、混乱が起きないように整備してくれたからだ。
今回の企画は、彼らがいなければ成り立たなかったはず。
魔王もきっと、感謝していることだろう。
「そう言えば……ハーデッドさまは何処だ?」
「ああ、彼女ならあそこに……」
サナトは広場の中央を指さす。
「……げっ。何してんのあの人」
「さぁ、演奏でも始めるんじゃないですか?
好きにさせてあげても良いんじゃないでしょうか」
ハーデッドはギターを手に広場の噴水に腰かけ、音の調子を確かめている。
あの楽器は翼人族のものだろう。
トゥエに言って持って来させたのかな。
彼女の隣には天使の勇者、セレンがいる。
どういう理由か分からないがレオタードを着せられていた。
「なぁ……なんであんな格好を?」
「ハーデッドさまの趣味ですの。
わたくしが持っていたものをお貸ししたですの」
エイネリが言う。
「あれ、お前にはサイズ合わないだろう」
「子供用のものも用意しておいたですの。
いつか使うと思いまして……」
いつか使うって、いつ使うつもりだったんだ?
レオタードを着たセレンは恥ずかしそうにあたりを見渡している。
背中に白い羽をはやした少年があんな格好をしていたら目を引く。
しかし、獣人たちは全く気にせず関心を寄せていない。
あちこちで人だかりを作っては、興奮冷めやらぬ様子で酒を飲み交わしている。パレードを見て盛り上がった彼らは一晩中飲み明かすつもりのようだ。
セレンの首には奴隷用の首輪がまかれ鎖でつながれている。
ハーデッドは死刑にすると言っていたが、デコピンを一発入れるだけで彼を許した。
んで、奴隷にすると宣言。
勿論、セレンは断ったが強制的に奴隷へと身分を落とされ、今は大人しく従っている。
まぁ……魔王には勝てねぇわな。
「ユージよ、これから何を始めるつもりだ?」
「あっ、クロコド様……お疲れ様です」
クロコドが様子を見に来た。
俺の誘拐騒ぎについても知っている様子。
「ハーデッドさまが演奏でも始めるようで……」
「ふむ、面白い試みをなさるお方だな。
しかし歌など聞かせて何になると言うのだ?
住人たちは誰も関心を示しておらんぞ」
「確かに……」
ハーデッドの周りには誰も人が集まって来ていない。
傍にいるのはセレンただ一人。
「みんな、聞いてくれ!
余はこの街に来て、多くのものを見た!
今回はその感動を歌にして、
皆に聞いてもらいたいと思う!
よろしく頼むぞ! ゼノの民よ!」
そう言って演奏を始めるハーデッド。
一方的に宣言しても、誰も注目しない。
しかし、彼女が歌い始めると……不思議と心地よい気持ちになる。
前の世界でよく聞いていた、バラード的な曲調の歌だ。
割と演奏の腕もうまいと思う。
一人、二人と立ち止まって演奏を聴く者が現れ、瞬く間に人だかりができる。
ハーデッドの歌声は広場一杯に響き渡り、住人たちがどんどん集まって来た。
気づけば、広場は人でいっぱいになり、誰もが黙って彼女の演奏を聞いていた。
すげぇじゃねぇか、ハーデッド。
魔王なんて辞めて、こっちで食ったらどうだ?
「これで、足りないモノが揃いましたね。
お祭りにはこういう楽しみがなくちゃ」
ヌルが小声で言う。
確かに、ハーデッドのお陰で良い感じにしめられたと思う。
獣人たちは静かに耳を傾けている。
演奏は夜が明けて朝が来るまで続くだろう。
祭りはまだ、終わっていない。




