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246 死刑にしよう

 ユージがさらわれてしまった。


 呆然と立ち尽くすハーデッド。

 何も言えずにうずくまるエイネリと彼女を慰める配下の獣人たち。


 上空を飛んでいたサナトも異変を察知して降りてきた。


「そんな……ユージさまが……」


 勇者たちの逃亡阻止を知ったサナトは突きつけられた現実に言葉を失う。


 自分の役割を果たし、敵の逃走経路を遮断したと確信していた彼女は勝利を確信していた。


 しかし、地上へと降りてみると、このお通夜状態である。

 あまりの落差に愕然として何も言えなくなってしまう。


「ちっ……力が及ばなかったね。

 申し訳ないよ……本当に」


 なんとか立ち上がったトゥナが言う。

 彼女は柄にもなく落ち込んだ様子である。


「ユージさまぁ!

 これからあっしはどうすればいいんです?

 お願いだから帰ってきてくだせぇ!」


 泣きわめくゲブゲブ。

 誰も彼を慰めない。


 これから皆にどう報告しよう。

 このことを知ればきっと悲しむだろう。

 サナトはユージ奪還失敗の知らせを聞き、落ち込む一同の顔を想像してやるせなくなった。


「…………」

「あっ、フェル。アンタもいたの」


 隣にフェルが立っていた。

 彼もユージを取り戻そうと戦っていたのだ。


「ユージさま、連れていかれちゃったわ。

 私たち……これからどうすればいいの?」

「…………」


 フェルは答えない。

 無言で彼女の傍にたたずんでいる。


 どうも様子がおかしい。

 彼は落ち込んでいるわけでもなく、ただ無表情のまま前を向いている。

 感情を押し殺しているようには見えない。


「…………」

「え? どこへ行くのよ?」


 ふぁるは無言のまま歩き出した。

 先ほど、勇者たちが身を潜めていた林へと向かい中へと入っていく。


 いったい彼は何をしようとしているのか。


 疑問に思っていると何やら白い物体を手に持って林から出て来た。

 それは――


「え? ユージさま?」


 目を疑うサナト。

 フェルが手に持っていたのは人間の頭蓋骨。


 もしそれが口を利いたのなら――


「すっ……すみません、皆さん。

 ご苦労をおかけしました」


 そう言って謝罪をするユージ。

 彼はずっと林の中にいたのだ。


「「ユージさまぁ!」」


 駆け出すサナトとエイネリ。

 彼女たちはユージの元へと駆け寄ると頭蓋骨だけになった彼を抱きしめた。


「よかったぁ! でもどうして? いつの間に?」


 サナトが尋ねると、フェルが答える。


「袋をあいつらから奪った時に、

 こっそりと中身を入れ替えたんです。

 サナトさんの作った花火の玉が、

 ユージさまの首と同じ大きさだったので」


 自信たっぷりに言うフェルにほほを膨らませて抗議するエイネリ。


「それならそうと、もっと早く教えて欲しいですの!

 心配して損したですの!」

「ごめんなさい……エイネリさん。

 でもあいつらが何処かへ行くまでは、

 黙っていないと……と思いまして……」

「途中でばらしたら意味ないものね。

 良くやったわ、フェル! 大金星よ!」


 サナトはフェルに抱き着く。


「ユージさまぁ! 本当に良かったですねぇ!」


 涙を流したゲブゲブが言う。


 彼は自分で歩くことができず、手下のスライムの上に寝そべって移動していた。


「ゲブゲブ……お前もよく戦ってくれた。

 それにしても大した演技力だ。

 すっかり騙されてしまったぞ」

「いえ、勇者たちは全く信じていませんでしたよ。

 ずっとあっしを疑っていました。

 騙されたのはユージさま一人だけでしたね」

「ぐぬぬ……」


 正直にものをいうゲブゲブ。

 ユージは何も言い返せない。


「良かったね、助かって。

 正直言ってほっとしたよ」

「トゥナ殿も……ご助力、痛み入ります」


 トゥナはマティスの必殺技をくらい、かなりのダメージを負った。

 それでも立って歩けるくらいの体力は残っている。


「それにしても……意外でしたね。

 まさか、ドンドルズ様のご子息とは。

 しかし……トゥエから聞いていた話だと、

 あなた方の一族は彼と敵対していたのでは?」

「うん、まぁ、それを話すと長くなるんだが……」


 と言いつつ、トゥナは自分の血筋について説明する。


「あたしが生まれてからしばらくして親父殿が反乱を起こしてね。

 その時の族長だった祖母が先代に味方すると言って、

 戦わざるをえなかったんだよ。

 先代はあたしらの一族に良くしてくれたから、

 恩義を返そうとしたらしい」

「それは……また、難儀な」


 あまりに過酷な運命にユージは言葉を失う。


「ああ、母も大変だったと思う。

 なにせ愛する男が敵になっちまったんだからね」

「それで……お母さまは?」

「死んだよ。

 親父殿に直接、決闘を申し込んで討ち死にした。

 愛する男を他の者に殺されるくらいならと、

 たった一人で敵陣に突っ込んでいってさ」

「なんと……」


 トゥナの母の生きざまは壮絶の一言であった。


「まぁ……あたしの話なんてどうでもいいのさ。

 それよりもユージ。

 アンタが帰ってきてホッとしてるよ。

 まだ男をどうやって集めるのか、

 その問題が解決してないからね」

「……そうですね」


 結局、男のことしか頭にないのかと、呆れ気味のユージだが何も言わないことにした。


「いやぁ、余もすっかり騙されてしまったぞ。

 ユージの配下たちは優秀な者たちばかりだな!」


 ハーデッドが言う。

 彼女は輝かしいほどの笑みを浮かべていた。


「ハーデッドさま、この度は本当に……。

 お手を煩わせてばかりで申し訳ありません」

「よい、世話になったのは余も同じだからな。

 これで多少なりとも恩が返せたはずだ」

「ええ……それはもう、あまりあるほどに」


 恐縮するユージ。

 ハーデッドはつるつるの頭蓋骨を撫でる。


「余一人では貴様を取り戻せなかった。

 多くの仲間が力を合わせたからこそ、

 あの勇者たちを打ち破れたのだ。

 正直言って、あいつらめっちゃ強かったぞ。

 しつこいし、しぶといし……」

「でしょうねぇ……」

「マティスたちの脅威は去った。

 しかし、彼らは命ある限り、

 何度でも戦いを挑んでくることだろう。

 仮に奴らを倒したとしても、

 第二、第三の勇者が……」

「あの……ハーデッドさま……」


 ユージがハーデッドの言葉を遮る。


「うん? なんだ?」

「彼の処遇は……どのように?」

「うーむ……そうだな」


 天使の勇者の方を見やるハーデッド。


 裏切り者の彼には、何かしら処罰が必要である。

 そんな空気が漂う。


「よし、決めた。死刑にしよう」


 ハーデッドはそう言った。

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