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242 俺の切り札

「ぐわぁーーー!」


 爆裂閃光剣をまともに喰らったトゥナは数メートル吹っ飛んで地面に墜落。


「これでどうだ! 馬鹿野郎!

 おととい来やがれってんだ!」


 勝ち誇るマティス。


 彼はトゥナの攻撃をまともに受けてもダメージを受けずにピンピンしている。

 鎧を身に着けているとはいえ、ハルバードでの一撃はかなりの威力。

 普通なら耐えられるはずがない。


 しかし彼は、ある方法で攻撃をしのいだ。

 オーラバリアで身体の表面を覆ったのだ。


 オーラバリアは自由自在にその形を変えることができ、体にフィットした状態で発動することも可能。鎧の内側に出現したバリアの存在にトゥナは気づけなかった。


 時止めの能力を使い確実に敵を仕留めると確信していた彼女は、攻撃が不発に終わったことで狼狽。

 隙を作ってしまう。


 その一瞬で敵をひるませて必殺の一撃を打ち込んだマティスが勝利した。


「へっ、割といい勝負だったぜ鳥人間。

 自分の能力を相手に喋ったのはまずかったな。

 次に戦う時はもっと寡黙になった方がいい」

「威勢のいいことだな、勇者よ。

 もう勝ったつもりでいるようだが……。

 果たしてどうかな?」


 ハーデッドの声がする。

 彼女の方を見ると……。


「かっ……かはっ」


 ぼろぼろになったイルヴァがハーデッドに胸倉をつかまれていた。

 魔法を発動することもできず、ぐったりしている。


「この女、なかなかに手こずらせてくれたぞ。

 我が配下に加えたいくらいだ」

「てめぇ! イルヴァから手を放せよ!」

「ダメだ、そんなことをしたら、

 貴様らが逃げてしまうであろう。

 コイツを取り返したいのなら余を倒すのだな」


 ハーデッドはそう言って、挑発的にマティスを見返す。


 アリサが詠唱を続けながら、どうすればいいのかと目で尋ねてくる。

 マティスは手で合図をして詠唱を止めさせた。


「テメェを倒さない限り、

 俺たちはこの場から逃げられないってわけか」

「そう言うことだ、勇者マティスよ」

「俺の名前、さっき聞いてたのか?」

「ああ、わざわざ自己紹介していたな。

 えらく余裕があるものだと感心していたのだ」


 そう言ってハーデッドはイルヴァから手を放す。


「この女、どこで手に入れた?」

「イルヴァを物あつかいするな」

「よほどこの少女が大切なのだな。

 もしやすると、恋人とか?」

「そんなんじゃねーんだよ。

 仲間だ、仲間」

「ふむ……」


 ハーデッドは顎に指をあて思案する。


「それでは、その大切な仲間とやらを、

 余がアンデッドに変えたとしたら、

 貴様はどのような反応を示すのであろうか」

「あ? んなことしたら絶対に……」

「赦さないと申すか。

 ならば、なおさら試したくなってきた」


 ハーデッド意地悪い笑みを浮かべる。


「てめぇ……マジで止めろよ、おい!

 イルヴァに手を出しやがったら……」

「安心せよ、マティス。

 人間に血を分けて眷属にするには時間がかかる。

 こ奴を配下に加えるのは貴様を倒してからだ」

「倒せるもんなら倒してみろよ、クソ魔王。

 俺はぜってーに負けねぇからな」

「威勢のいいことだ」


 ハーデッドは武器を持たず素手で戦うつもりのようだ。

 拳を構えて戦闘態勢を整える。


 その所作はまるで武術に長けた達人のよう。


「アリサ、もう一度、詠唱を始めろ」

「え? 今から?」

「ああ、数十秒でかたをつける。

 お前が詠唱を終える前にハーデッドを倒して、

 イルヴァとダクトを回収する。

 そしたら、皆で一緒に帰るぞ」

「うん……分かった」


 再び、詠唱を始めるアリサ。

 無駄に呪文を唱えさせるのはやめにしたい。


 マティスは剣を構える。


 頭がくらくらして視界がぼやける。

 この状態で戦うのは無理があるだろう。

 あまつさえ、魔王と戦おうというのだ。

 正気の沙汰とは思えない。


 しかし……ここで引くわけにはいかない。

 もうすでに二人の仲間が倒れている。

 彼らを助けて目的を達成するには、この場を切り抜けるしかない。


「なぁ、ハーデッド。

 お前……勇者と戦ったことはあるか?」

「いや、今まで一度たりとも、

 その機会に恵まれたことはなかった。

 これが余の初体験となるわけだな。

 誇っていいぞ、勇者」

「ふん、別に誇らしくもなんともねぇよ。

 初戦を黒星で飾ることになって、

 残念だったなぁ……。

 お前はぜってー俺には勝てない」


 マティスは剣の柄を力強く握りしめる。


「この俺に切り札を使わせるんだ。

 せいぜい、盛大に散ってくれや」


 そう言って彼は剣に全身全霊の力を籠める。


「これが俺の切り札!

 栄華聖性鎮魂剣ファイナルレクイエムだ!」


 マティスの発動した必殺技。

 技名には特に意味合いはないのだが、すさまじい威力を発揮する。


 それは伝説の聖剣を犠牲にして、あらゆる存在を虚無へと消し去る大技。

 この技を発動したら必然的に得物を失う。


 マティスが使っている武器は長年愛用した貴重なもの。

 二度と同じものは手に入らない。


 それでも彼がこの技を発動したのは、ひとえに仲間を守りたかったから。

 ただそれだけ。


 マティスの持つ剣が虹色に光はじめ、あたり一面をまばゆい光が覆って行く。

 月も、星も、その輝きには勝てず、鋭い閃光にのまれていく。


 あとは剣を一振りすれば……。


「それが貴様の必殺技か、面白い。

 余も最大級の力をもってして、

 対抗してやろうではないか!」


 ハーデッドも必殺技を発動。

 彼女の両手には螺旋状のオーラが発現し、勢いよく渦巻いている。


「行くぞっ! 暗黒邪竜拳ダークドラゴンクロウ!」


 技名を叫ぶハーデッド。

 彼女の右腕から漆黒の竜巻が放たれる。


 マティスは剣を振り下ろして虹色の波動を発生させる。波動はエネルギーの塊となり、鋭い槍のようにハーデッドへと飛んで行った。


 螺旋と虹の槍とがぶつかり合い、周囲のものを吹き飛ばす大爆発が発生。


 その戦いの末に立っていたのは――


「ハァ……ハァ……」


 マティスは肩で息をする。

 全ての力を使い果たして満身創痍。

 これ以上、戦い続けるのは不可能だ。


 ハーデッドは……。


「おっ……おごっ……」


 かなりのダメージを喰らい、立っているのもやっとの状況。

 彼女は身体をズタボロに引き裂かれて膝をついていた。


「おっ……おい! ハーデッド!

 まだ……まだ戦うつもりか⁉」


 マティスは祈るような心持で問いかける。

 これで彼女が平然としていたら、ぽっきりと心が折れていた。


 しかし、見るからに追い詰められたその様子に、まだ希望が残されていると確信する。


「あっ……あぐっ……」


 ハーデッドは言葉もまともに発せない。


 マティスは敵を完全に無力化したと判断。

 足を引きずりながら、倒れているダクトの所へと向かう。


「おい、ダクト……大丈夫か?」

「ばぶぅ……」


 かろうじて彼の意識は残されている。


 両脇を抱えて身体を引きずり、アリサの所へ連れていく。


「イルヴァ! お前は?」

「マティスぅ……」


 返事をするイルヴァ。

 彼女もまだ意識がある。

 同じようにしてアリサの元へ。


 アリサは爆発の衝撃波にのまれても詠唱を止めなかった。

 転移魔法の発動まで、あと少し。


「待て……行くな。

 ユージを置いて行け」


 ハーデッドが言う。


 彼女は少しずつ身体を再生させ、言葉を発するまでに回復していた。

 このまま放っておけば、いずれ元の状態に戻るだろう。


 流石は魔王と言ったところか。

 今のマティスでは止めを刺すことはできない。


「わっ……わりぃな。

 ここで諦めたら全てが無駄になんだわ。

 コイツがいるだけで、マジでゼノは変わった。

 放っておいたら間違いなく脅威になる。

 だから絶対に……」

「マティスぅ……」


 アリサが泣きそうな声を上げる。

 詠唱は――


「あっ……」


 彼は悟った。

 全てが終わったことに。

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