241 サイクロプスの血
「いいぜ、来いよ! この鳥人間!」
マティスは剣を構える。
強敵との対決に備えて回復薬を使用。
わずかではあるが消耗した体力を取り戻し、必殺技が使える状態まで持ち直す。
「その様子だと、まだまだ戦えそうだね。
あたしも真の力を発揮させてもらうよ」
「はっ、三つ目の目玉以外にもまだ何か、
力を発揮する要素があんのかよ」
「いかにも。
あたしは翼人族の長だけど、
どっちかって言うとサイクロプスの血が濃いのさ。
連中の特徴は知っているかい?」
サイクロプスの中には不思議な術を使う者がいる。
ある者は自分の時間を加速させて高速で移動する。
またある者は標的の時間を緩やかにする。
そして鬼眼王であるドンドルズは……。
「シナヤマの魔王、ドンドルズはね。
一瞬だけだけど時間を止められるのさ。
それと同じ能力を、あたしも持っている」
「は? どういうことだ?」
「奴の血が、あたしにも流れてるのさ。
鬼眼王ドンドルズはあたしの父親だ」
「……へ?」
マティスの目が点になる。
「じゃぁ……早速」
「まてまてまて!
時間を止められるってマジか⁉
そんなことできたら……」
「神にもなれるって?
バカ言っちゃいけないよ。
この力で時間を止められるのは、
ほんの一瞬だけさ。
せいぜい、一秒が限界だね」
「いっ、一秒……」
戦いの中で一秒は貴重な長さの時間である。
一秒というほんの一瞬のあいだに敵は好き放題に攻撃できるのだ。
このハンデはあまりに絶望的。
「じゃぁ、行くよ!」
「うぎゃあああああああああああああ!」
瞬時に身体のあちこちを殴られ盛大に吹っ飛ぶマティス。
トゥナが時止めの力を使ったのだろう。
彼女が時を止めた一秒間の間に、全身をボコボコに殴られてしまった。
「くそぅ……痛ぇ……」
ずきずきとした鈍痛を感じるマティス。
敵は素手で攻撃したらしい。
殺すつもりは無かったのか、ハルバードは使わなかったようだ。
「どうだい? あたしの能力は?」
「ああ、すんげー効いた。
痛くて立てそうにねぇよ」
「そんなこと言ってないで、立ちなよ、ほら。
待っててあげるからさぁ……」
「くそが……」
ふらふらと立ち上がるマティス。
倒れないようにするだけで精いっぱいだ。
くらったのは三発。
一秒で殴れるのはそれが限界なのだろう。
敵はあと何回その能力を使えるのか。
サイクロプスの力には限界があると聞く。
もしそれが本当なのであれば、トゥナも無制限に力を使えるわけではない。
「おい……お前、あと何回、時止めが使える?」
「それを話すと思うかい?
まぁ……教えてやらなくもないかね。
あたしは日に三回この能力を使えるのさ。
あと二回発動できる。
アンタの首をはねるのもわけはない」
「……そうかよ」
トゥナは余裕ぶったふうに言う。
二回使えれば十分と思っているのだろう。
ある程度、間合いを空ければ敵が近づくまでの時間を稼げる。
しかし、離れすぎては攻撃が当たらない。
マティスが敵にダメージを与えるには自分の間合いに誘い込む必要がある。
時止めの能力を使う前に倒せばこちらの勝利。
敵の間合いに入った状態で能力を使われたら負け。
かなり不利な条件での戦いだ。
この戦いに勝利するには相手の能力を封じる必要がある。
つまり、あと二回、
時止めの力をしのぎ切ればいいのだ。
「ふふん、何やら考え込んでる顔だね。
あたしの能力を封じる作戦でも考えてるのかい?」
「ああ、今まさに絶賛考え中だぜぇ」
「それで、良い案は思い浮かんだかい?」
「いや……これが全く、さっぱり」
「じゃぁ、死にな」
トゥナがハルバードを振り上げる。
瞬間、マティスは後ろへと飛んだ。
「オーラバリア!」
マティスが発動したのは、
自身から発せられるオーラで身体を包み、身を守る防御系の技。
オーラとは、魔法とは異なる系統の力で、必殺技を発動する時はこの力を元にしている。
誰でも出せるというわけではなく特異的な体質を持った者のみが使える力。
マティスが作り出したオーラの膜は可視化された黄金色の光でできている。
これにはあらゆる攻撃を防ぐ力が備わっており、どんな魔法も、物理攻撃も、この膜を貫くことはできない。
たとえそれが停止した時間の中であっても同じだ。
「ほぅ……考えたね。
あたしの攻撃を防ぐのに集中して、
反撃を諦めたんだね?」
「ああ、そう言うことだ」
「確かに、それなら能力を使っても攻撃は当たらない。
でもアンタからも攻撃できないんじゃないか?」
「その通りだよ、馬鹿野郎」
オーラバリアを使用している間は必殺技を使うことはできない。
マティスからの反撃は不可能である。
「実は今、能力を使ったんだ。
試しにハルバードでひと薙ぎしてみたけど、
まったく歯が立たなかった」
「へぇ、そうかよ」
あえて不利な情報を話すトゥナに、マティスは警戒を強める。
「だけど……まぁ……。
次はちゃんとタイミングを見て使うよ。
アンタがバリアを解除した瞬間を狙えば良い。
ただそれだけのことさ」
「…………」
「じゃぁ、もう一度行くよ。
お願いだから死なないでおくれよ。
アンタは群れに連れ帰るつもりだから」
「勝手に決めんな、クソ鳥」
マティスは剣を構える。
時間を止められる相手にあまり意味のない行為だが、戦う意思を示したかった。
「それじゃぁ……行くよ!」
トゥナの姿が消える。
そして……。
「なんだい⁉ どうして……」
目の前に彼女の姿が現れた。
時止めの能力を使い、一瞬で距離を詰めてマティスの腹をハルバードで薙ぎ払ったのだ。
しかし、その刃先は彼の身体を食い破ることはできず、鎧と服を少し切っただけで止まってしまう。
「驚いたか鳥人間!
これが俺の力だ馬鹿野郎!」
マティスはトゥナの顔を左手でつかむと、思いっきりヘッドバッドを顔面にぶち込む。
「がはっ!」
のけぞるトゥナ。
その一瞬の隙を、マティスは見逃さない。
「爆裂閃光剣!」
荒野に爆音がとどろいた。




