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24 ケモミミ奴隷

「……え? 猫耳?」


 俺が取り出したものをみて、ミィが固まった。

 彼女は甲冑を脱いで素顔を露わにしている。


「ああ、耳だけじゃない。尻尾もあるぞ。

 これから君には獣人のハーフになってもらう」

「え? ハーフ?」


 キョトンとするミィ。いまいち状況が飲み込めていないらしい。


 そんな彼女に丁寧に説明する。


 レオンハルトが統治するこの領地では、彼と同じ種族が幅を利かせている。そのため住人の半数以上が獣人。


 話は変わるが、領内には人間の奴隷が結構いる。彼らは獣人や他の魔族に使役されており、様々な雑務を押し付けられている。

 中には性処理を行っている奴隷もいる。そうするとまぁ……生まれるわけだ。

 ハーフが。


 領内で一番多く住んでいるのは獣人。とすると、生まれてくるハーフの割合も、獣人との間にできた子供が多い。

 獣人と人間の間に生まれたハーフは、その容姿がかなり人間に近いものとなっている。獣の耳と尻尾がある以外は、ほとんど人間と変わりない容姿。

 猫耳と尻尾をつければケモミミのハーフ奴隷になれるわけだ。

 獣人たちは生まれたハーフの子供も奴隷として扱う。そのため、彼らは生まれながらにして、隷属する運命にあるのだ。


 ちなみにだが……オークと人間のハーフも存在する。

 オークは獣人ほど差別意識がなく、半分しか血が流れていなくても同族として扱う。その為、奴隷として生活するハーフは領内にはいない。


「これをつければ獣人のハーフになれるの?」

「ああ、でも奴隷扱いだけどな」

「奴隷って……私を売り渡すつもり?」


 無論、そんなつもりは無い。信頼できる獣人に預けるだけだ。


「一週間だけ君を預かってもらうだけだ。

 木を隠すには森の中ってな。

 人間に近い容姿をした奴らの中に混ざれば、

 魔族から怪しまれることも少なくなる」

「ううん……」


 奴隷扱いと聞いて良い気はしないのか、ミィは抵抗感をあらわにする。


「やっぱり嫌か?」

「嫌とかじゃなくて……。

 奴隷と一緒に暮らしたら、

 この国の人たちを嫌いになりそう」

「それは仕方ない。

 だが……我慢してくれないと困る。

 人間界で俺たち異形の存在が迫害されるように、

 この国では人間が迫害されるんだ。

 理不尽だとは思うが……どうしようもない」

「分かってはいるんだけどね……。

 でも……なんか納得できなくてさ」


 ミィが抱いている感情は実に複雑だ。今の状況を受け入れられるとは思えない。


「もし俺に文句を言いたくなったら言え。

 全て受け止めてやる」

「……うん」


 受け止めるだけで、何も叶えられないけどな。俺に出来ることは限られている。


「さぁ、早速つけてもらおうか。

 ついでに服も脱いでもらう」

「え? なんで⁉」

「服を着てたら奴隷っぽくないからな。

 代わりに用意しておいたぼろ布を着ろ。

 下着はつけていても構わん」

「うう……恥ずかしいなぁ」


 下着姿になり、ケモミミと尻尾をつけるミィ。何か変なプレイをしている気分になってきた。


「耳はともかく、尻尾はばれるんじゃない?」

「大丈夫だ、ペタッとくっつく奴だから。

 一度吸着したら特殊な薬をつけないと剥がれん。

 安心しろ」

「あっ、本当だ。くっついて離れない」


 ミィは尻尾を眺めながらお尻をフリフリして具合を確かめている。


「これで一人前のケモミミ奴隷になれたな」

「……あんまり嬉しくない」


 だろうね。奴隷になれて喜ぶ奴なんていない。


「でも……これになんの意味が?

 この国には人間の奴隷もいるんでしょう?

 奴隷のふりをするだけなら、

 こんなものつけなくても……」

「それは、これから行くところが、

 ケモミミ奴隷だけが働いている場所だからだ。

 オーナーはハーフの奴隷に比較的寛容でな」

「ふぅん……」


 魔族たちは人間を敵視しており、この国の獣人も純粋な人間が嫌い。

 だがケモミミハーフにのみ寛容な人もいる。彼女を連れて行くのは、そういう獣人が経営している農場だ。


 もうかなり遅い時間なので、尋ねるのは明日にしよう。

 流石にアポなしで夜間に突撃はまずい。


 それから簡単な夕食を取り、早めに就寝。勇者との一戦で疲れていたからか、ミィはベッドの上で横になるとぐっすりと眠る。


 彼女の寝顔を見守りながら、俺は一晩ずっと椅子に座って過ごした。


 この身体、疲れないのはいいが、眠ったり食べたりする喜びが無いんだよな。

 たまに生身の身体が恋しくなる。






 翌日。

 身支度を整えて、ミィを預ける場所へ向かう。


「じゃぁ、ついて来い。今から案内する」

「え? この格好で?」


 ミィは自分の恰好を見下ろして困惑する。彼女はぼろ布以外、下着しか身に着けていない。


「ああ、すまん忘れていた」

「よかった、流石にこのままは無いよね」

「奴隷用の首輪を忘れていた」

「首輪⁉」


 俺は彼女に首輪を身に着けさせる。なんとも言えない表情を浮かべるミィ。

 まだ何か言いたそうにしているが無視。


「ううっ……恥ずかしいよぅ」


 宿を出て大通りのど真ん中を、彼女を連れて歩く。

 ぼろ布は彼女の膝の付け根あたりまでしかなく、パンツはほぼ丸見えの状態。他に身に着けているのはケモミミと尻尾のみ。そして奴隷であることを示す首輪だ。

 首輪には鎖が付いており、俺が手で引いている。


 怪しいプレイをしているように見えるが、奴隷として扱う分には別に問題ない。


「大丈夫だ、安心しろ。

 誰も俺たちのことなんか気にしてないぞ」


 道行く人々は俺たちを完全にスルーしている。ミィがケモミミハーフ奴隷になりきれている証拠だ。


「それでも恥ずかしいものは恥ずかしいよぅ」

「仕方がないだろ、我慢しろ。

 奴隷に上等な服なんて着せられないからな」

「でもぅ……」


 ぼろ布一枚で歩かされる恥ずかしさは、耐えろと言われて耐えられるものではない。申し訳ないとは思うのだが、我慢してもらうほかあるまい。






 俺はミィをつれてある場所へと向かった。


「へぇ……大きな農場だね」

「ああ、国内随一の生産力を誇る農場だ。

 知らない人がいないくらい有名なんだぞ」


 俺がミィを案内したのは大規模農場。


 城下町から少し離れた場所にあるその農場では牛や豚、鶏を育てている。青々とした牧草の上でのんびり過ごす家畜たち。牧歌的な光景が広がっている。


 獣人たちは肉食を好む。ついでにオークとゴブリンも。だもんで、食肉の需要が非常に高い。獣人は新鮮な血肉を好むので良い肉は高値で売れる。


「あっ、ユージさま! こんにちは!」


 猫耳のハーフ奴隷が挨拶をしてきた。


 容姿はいたって普通の人間の少女。違うのはケモミミと尻尾だけ。服装は簡素なワンピース。奴隷の証として首輪を身に着けている。


 どことなく幼さがのこる雰囲気で、ショートカットのオレンジ色の髪はとてもきれい。口元にのぞく八重歯がかわいい。


「久しぶりだな、シャミ」

「お久しぶりです。今日はどんな御用ですか?

 そちらのお方は……もしかして新しい奴隷?」


 シャミは首をかしげる。


 彼女はこの農場で生まれ、幼いころから働いている。オーナーに対してとても忠実で、素直で元気なかわいい女の子なのである。


「ちょっと訳ありでな。

 ここで預かってもらおうと思って連れてきた」

「そうなんですか……あなたの名前は?」

「私の名前は……ミィ」


 気恥ずかしそうに挨拶するミィ。


「私はシャミ! よろしくね!」

「よっ、よろしく……」


 握手を求められ、おそるおそる差し出された手を握り返すミィ。色々とトラウマがあるからか他人に対して警戒心がぬぐい切れていない。


 今からそんなんで大丈夫だろうか?

 ここの農場の経営者はキャラが濃ゆいのだ。

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