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238 次から次へと

「がっ……」


 喉元を切り裂かれたおっさん。

 しかし……。


「へぇ、そんなこともできるのか」


 マティスは感心して言う。


 おっさんはスライムを喉元に纏わりつかせ、出血を抑えていた。


「やっぱり人間じゃねぇんだなぁ。

 他の部分もそんな風に傷を治せるのか?

 試しにバラバラにしてやろうか」

「……! ……!」


 言葉が発せず、無言で後ずさるおっさん。

 しかし……。


「もうどこへも行けんぞ」


 彼の背中がダクトにぶつかる。

 もはや逃げ場はない。

 誰もがそう思った、その時だ。




 ぬるん。




 おっさんの足元の地面が急に柔らかくなり、意志を持ったかのように動き始める。


「ダクト! そいつから離れろ!」


 マティスが叫ぶ。

 慌てて後ろへ飛びのくダクト。


 地面が急に盛り上がったかと思うと、おっさんを中心に花が咲いたかのように平べったい形状の物体がいくつも出来上がる。


 変形した土が一斉に動き出し、つぼみが閉じるようにおっさんを覆ってしまう。そのまま地面へともぐりこんで彼は姿を消してしまった。


「くそっ、やっぱりスライムを仕込んでやがったか。

 奴はここへおびき寄せるつもりだったんだ!」


 マティスは悔しそうに足踏みする。


「だが、もう遅い。詠唱はもう……」

「おいダクト! 後ろだ!」

「……え?」


 ダクトの背後から何者かが忍び寄り、彼の持っていた頭陀袋をひったくってしまう。


「しまったっ!」

「馬鹿野郎! アリサ、詠唱を止めろ!」


 慌ててその何者かの後を追うマティス。

 敵は小柄で、子供のような体形。頭には細長い耳が生えている。あれはおそらく……白兎族。


「うわぁ!」

「捕まえたぞ! この野郎!」


 雑木林を抜けたところで白兎族に追いついき頭陀袋を取り返す。


「はっ……離して!」

「てめぇ、この骸骨野郎の仲間だな?

 度胸は認めてやるが、

 不用意に近づいたのがまずかったな」

「たっ、助けて!」

「誰も助けになんかこねぇよ!」


 剣を振り上げるマティス。

 だが……。




 びゅんっ!




 何者かが襲い掛かってきた。

 慌てて剣でその攻撃を受け止めるが、あまりの力に吹き飛ばされてしまう。


「うおおおおおおおっ⁉」


 なんとか攻撃を防ぎ切ったマティス。

 数メートル吹っ飛ばされたものの、態勢を崩すことなくこらえる。


「へぇ、今の攻撃を防ぐのかい。

 あんた、強いね?

 見込みがあるよ。

 私の男にならないか?」


 羽ばたきして宙に浮く女。

 襲ってきたのは翼人族だった。

 大振りのハルバードで武装している。


 白兎族はどこかへ逃げてしまった。


「急に出てきて求婚とは無粋だな。

 そう言うのは、もっとしめやかにやるもんだろ」

「しめやか? 言葉選びがおかしい。

 求婚って言うのは、大胆に、

 そして盛大にやるものだ。

 あたしらの流儀とはちがうね」


 確かに、しめやかという表現はおかしい。

 だがこの女にそれを指摘されるいわれはない。


「お前もこの骸骨野郎の仲間なのか?」

「ユージの配下になったつもりは無い。

 けど、そいつは色々と良くしてくれたからね。

 義理を果たすために戦う。

 それだけさ」

「下手に義理立てたせいで、死なねぇと良いけどな」

「安心しなよ。

 アンタにやられるほど、あたしはやわじゃない。

 けどまぁ……少しくらいは楽しめそうだね。

 なかなか骨がありそうじゃないか」


 上から目線での物言いにイラつくマティス。

 実際に空中から見下ろされているので気分が悪い。


「言っとくけどなぁ。

 俺はお前が思ってるほど弱くねぇ。

 戦うってんなら覚悟するんだな」

「そう言う物言い、ゾクゾクするねぇ。

 強がる男は大好物さ。

 そいつを滅茶苦茶に叩きのめして、

 屈服させるのは最高さ」

「良い趣味してやがるぜ……まったく」

「ああ、あたしもそう思う。

 アンタの名前を聞いてもいいかい?」

「……マティス」


 名前だけで端的に答える。


「へぇ、良い名前だね。

 あたしの名前はトゥナって言うんだ。

 族長のトゥナ・エバンスキ。

 覚えておいておくれよ」

「ああ、お前が死んだらソッコーで忘れるけどな」

「あたしはアンタの名前、憶えておくよ。

 夫になるかもしれない男の名前だからねぇ」


 そう言ってトゥナは武器を構える。

 と思ったら……。




 しゅんっ!




 姿が消えたかと思うと、一瞬でマティスに肉薄するトゥナ。

 あまりの速さに瞬きする暇もない。


 しかし、この攻撃も何とか受けきる。

 一直線で突っ込んでくるので動線が読みやすい。

 決して防げない攻撃ではないのだ。


 だが、マティスは反撃できない。

 敵は次から次へと攻撃を繰り出し、自由自在に空を舞う。

 剣を振り回したところで無駄に空を切るだけだ。


 電撃断絶剣スパークスラッシュならば攻撃できるが、あの技を使うには力を溜めないといけない。

 敵の攻撃のスパンがあまりに短く、溜めに必要な時間が稼げないのだ。


「ちくしょう! ぴゅんぴゅん飛び回りやがって!

 降りてこい! このクソ鳥人間!」

「空を飛べないアンタが悪いんだろ?

 なんとかしてあたしに追いついてごらんよ」

「無茶苦茶言いやがって……! クソがっ!」


 自由自在に空を飛び回る敵を相手に、マティスはまさに手も足も出ない状況。

 無駄に時間だけが過ぎていく。


「おい! マティス!

 そんな奴に構っている暇はないぞ!

 骸骨を持って林の中へ逃げ込むんだ!」


 ダクトの言葉で我に帰る。


 彼の言う通り、トゥナの相手をする必要はない。

 林の中へ逃げ込めば空を飛んでいる敵は襲ってこれない。


「すまねぇダクト!

 つい熱くなっちまった!」


 慌てて林へと引き返すマティスだが……。


「待ちなっ! 逃がさないよ!」


 トゥナは背後から追撃する。

 流石にこれは避けられないと思った彼は……。


「爆裂閃光剣!」


 マティスは必殺技を発動。

 この技は一直線に突進して敵を攻撃する技で、一瞬ではあるが、かなりの速度で移動できる。


 また、溜めも必要とせず即座に発動が可能。

 しかし、まっすぐに進むだけなので上空には攻撃できない。


 この技を使うことで瞬時に移動し、雑木林まで逃げ込むことができた。

 あとはアリサに呪文を詠唱させるだけだが……。


「アリサ! 転移魔法は⁉」

「もう詠唱を始めてるよ!

 あと少しだから頑張って!」


 イルヴァが言った。

 彼女の傍らではアリサが合掌して詠唱している。


「ダクト! 敵は⁉」

「追ってきていない!

 やはり地上に降りてまで戦うつもりはないようだ」

「あの女、口だけだったな!

 これで俺たちの勝利だ!」


 などと、余計なことを口走ったのがいけなかった。

 ……かどうかは分からない。


 だが、彼が思っていたほど状況は好転していなかったのである。


「なっ⁉ 何だっ⁉」


 驚愕するマティス。

 彼が目にしたのは……。

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