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23 サキュバスの雑貨屋

「ふぅ……良い感じだな」


 俺は新しく乗り移った身体を動かして具合を確かめる。特にこれと言った違和感はなく、自由に動かせている。


「うん、良い身体を作ってくれたな。

 感謝するぞゲブゲブ」

「へへっ、お安い御用で」


 手を揉んで愛想笑いを浮かべるゲブゲブ。コイツは本当にいい仕事をする。


「ねぇ、前の身体と何が違うの?」


 しゃがんで両手で頬杖を突いたミィが言う。パンツが見えそうで見えない。


「まぁ、あまり違いは感じないな。

 だがそこが良いんだ。

 問題なく動かせるだけで評価に値する。

 普通の死体だと自由が利かないんだ」

「死体にも色々あるんだねぇ」

「そりゃな。骨だけでも全然違うよ。

 特に年齢の違いは顕著にでる。

 老人の身体は脆くて使い物にならん」

「へぇ、そうなんだぁ……」


 どうでも良いって感じの答え。そりゃ、興味をそそられるような話題じゃないし、聞いてもつまらんだろう。


「世話になったな、ゲブゲブ。また次も頼むぞ」

「ええ、最上級の人骨を用意して待ってますんで。

 今後ともよろしくお願いします、へへっ」


 彼は人差し指で鼻を擦りながらにこやかに笑う。


 俺たちは死体置き場を後にして次の目的地へと向かう。


「ねぇ、次はどこへ行くの?」

「君を預かってくれる場所だよ」

「そんなところがあるの?」

「ああ、でもその前に用意するものがある」

「それって?」

「ついてくれば分かるさ」


 俺は目的の店へと向かう。そこは……。






「いらっしゃいませぇ……ってなんだ、ユージさんか」


 俺の顔を見るなり、つまらなそうにため息をつく女。


 小麦色の肌。亜麻色のストレートロングヘア。

 背中にはコウモリのような黒い羽根。頭には小さな角。

 タイトなボンテージ服を着ているその女はサキュバスと呼ばれている種族だ。


「ほぉ、俺だと分かったのか。

 ついさっき、別の身体に変えて来たのだがな。

 それでも俺だと?」

「ええ、スケルトンでこの店に来る人なんて、

 ユージさんしかいませんからねー。

 てゆーか話ができるスケルトンなんて、

 世界中どこを探してもアナタ一人だけでしょー」


 そう言って退屈そうに頬杖をつくサキュバス。


 彼女の名前はイミテ。この店を一人で切り盛りしている。


 一般的にサキュバスと言えば、人間のオスをたぶらかして骨抜きにするイメージが強い。しかし、意外に思われるかもしれないが性産業を営む者は少ない。

 こうして商店を構えたり、地道にものづくりで生計を立てたりと、普通に働いている人が多い。


 無論、人間界に出向いて人間のオスを魅了して生活している者もいるが、全体からしたらごくわずかだ。


 その理由としてリスクの高さが挙げられる。


 サキュバスは男にはめっぽう強いが、女が相手になると途端に弱くなる。また、聖職者には男相手でも太刀打ちできない。

 おまけに聖水の類も苦手とするため、人間の領域で生きていくには問題が多い。

 平和に魔族の領域で暮らしていくのが一番安全だ。


「今日は何をお求めで?」

「マタタビを少々。それと……ちょっと耳を」

「え?」


 俺はこっそり彼女に耳打ちする。


「ごにょごにょごにょ」

「ああ、あれですか。でも、なんで?」

「なんでもだ。とにかく頼む」

「……分かりましたー」


 イミテは店の奥に引っ込んでいく。俺が頼んだものを取りに行くためだ。


「わぁ、このお店……面白い」


 陳列された商品を眺めてミィが楽しそうにつぶやく。甲冑の中ではきっと目を輝かせていることだろう。


 この店は雑貨を取り扱っている。

 可愛いぬいぐるみや、おしゃれなアクセサリ。女子が好みそうな小物が沢山。


 何を隠そう、ここの商品はほとんどが俺のアイディア。元居た世界で人気のあったキャラクターや商品など、様々なデザインを流用してイミテに作らせている。まぁ……早い話、パクリ。

 意外にもそれらの商品には需要があるらしく、獣人やオークのご婦人がよく買いに来ると言う。


「何か欲しいものがあれば買ってやるぞ。

 好きなものを選んでくれ」

「本当に? じゃぁ……」


 ミィが手に取ったのは……。


「へぇ、それ」

「うん……これが一番かわいい」


 ミィが選んだのは狸のマスコット。


 イミテは手先が器用でセンスもあるので、俺が適当にデザインしたものでも商品化してくれる。割とマジですごい人なのだ。


「ユージさん、お待たせでーす」


 俺が頼んだ商品を紙袋に入れ、イミテが持ってきてくれた。


「おお、早いな」

「頑張って作ったんですよー。

 でもこれ、本当に何に使うんです?

 意味が分からないんですけどー」

「まぁ、深く気にしなくても良いさ。

 それより商品を確認させてもらっても?」

「ええ、構いませんよー」


 俺は紙袋の中身を確認する。そこには確かに、俺が求めていた物が入っていた。


「よし、合格」

「ありがとうございますー」

「それと、アレを貰ってもかまわんか?」


 俺はミィが持っている狸のマスコットを指さす。


「ええ、いいですよ。あれ、失敗作だしー」

「失敗作を店に並べるのか、お前は」

「だってぇ、もったいないじゃないですかー」


 勿体なくても店に並べたらだめだろう。まぁ……失敗作と言いながらも、それなりにクオリティは高いと思う。

 イミテの腕は確かなのだが、いまいちプロ意識に欠ける。


「と言うことだ。貰ってやってくれ」

「わーい!」


 狸のマスコットを持って嬉しそうにするミィ。

 甲冑を着ていても喜んでいるのが分かる。


「ねぇ、ユージさん。その人、誰?」

「俺が作った機械生物だよ。アンデッドだ」

「その割には……人間っぽいよね」

「ううむ……人間の魂を使ってるからなぁ」

「ふぅん」


 カウンターに頬杖をついて黒騎士をじっと見つめるイミテ。彼女も正体に気づいているのだろう。どいつもこいつも、勘が鋭くて困る。


 必要な物も揃ったし、本来の目的地へと向かおう。


 でもその前に……。


 俺は人気のない場所を探す。絶対に誰も入ってこないところが良い。それでいてそれなりにスペースがある場所。


 ……宿でも借りるか。


 辺りはすっかり暗くなっている。どうせならどこかに一泊して、ゆっくりと用事を済ますことにしよう。


 俺は適当な宿屋を見つけ、一泊分の料金を支払い、部屋を借りた。

 窓を閉め、戸を閉め、人の気配がないか探り、誰も盗み聞きしていないかを確かめ……。


「ねぇユージ……さっきから何をしてるの?」

「誰か見てないか確かめてるんだよ」

「なんで?」

「これから君には……これをつけてもらうからだ」

「……え?」


 俺は紙袋から中に入っていたものを取り出す。


 それは……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「ほお、俺だと分かったのか」 いや、ガイコツの違いなんか分からないから! 骨が変わっても気付かないから! 服装でしか判断しないから!
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