225 直前ミーティング
翌日。
俺は魔王城にて、幹部たちと最終調整を行う。
いつもの会議室に、レオンハルト、クロコド。
牛と蛙の幹部。
俺の部下はアナロワ、フェル、サナトの三人が参加。
そしてマムニールとシロもいる。
クロコドはトイレの問題は既に解決済みと報告。
今朝一番で街を回って、トイレの協力を取り付けたと言う。
仮設トイレも魔王城の庭に設置中。
本番までには間に合うそうだ。
「次に、ゴブリン部隊の配置ですが……」
何処にどれだけの人員を配置するのか、緊急時にどのような対応をするのか、細かい点について説明する。
彼らには槍を装備させ、行進する大通りの脇に一定の間隔で配置。
クロコドたちにはその内側を通ってもらう。
また自由に動ける部隊も残しておき、誰かが内側へ侵入しようとしたときなどに、すぐさま対応できるようにする。
何か問題が起こった際は近くにいたゴブリンが仲間に知らせに行って、まとまった数の人員で対応する。
緊急時には、翼人族や、俺の部下のオークたちも動員する。
彼らにはいつでも動けるよう、所定の位置に待機させて見守ってもらう。
「こんなところですかね……。
質問はございますか?」
「白兎族を哨戒任務に当たらせるとあるが、
あんな非力な連中に任せるのか?」
クロコドが質問する。
白兎族は魔力を察知できるので、街を見回させて魔力の痕跡がないかを探らせる。
侵入した勇者など何者かがテロ行為を行う場合、魔法を使うことが予見されるので、それを未然に防ぐための措置だ。
「敵を見つけても、コイツらで倒せるのか?」
フェルの方を見てクロコドが言う。
確かに彼の言う通り、白兎族だけで有事に対応するのは困難。
そのことは俺も理解している。
「ええ、ですので……その時は直ぐに協力を求め、
別の部隊を向かわせることになっています」
「その別の部隊と言うのは?」
「私の配下であるエイネリと、
彼女が教育している士官候補たちです。
彼らの多くは獣人であり、
高い戦闘力を持ったエリートです。
どんな敵でも瞬く間に殲滅できるでしょう」
「……ふむ。ではどうやって危機を知らせるのか?」
「これを使おうと思います」
俺はある物を机の上に置く。
それは拳銃のような形をしたアイテム。
サナトが作ったものだ。
クロコドは物珍しそうに見つめる。
「それは?」
「光る弾丸を打ち上げる道具です。
これを使って空へ光を打ち上げれば、
重大な危機が発生したことを、
一瞬で知らせることができます。
おまけに大よその場所も伝えられるので、
一石二鳥と言うわけです」
「ふむ……なるほど」
今の説明でクロコドは納得してくれたようだ。
「次に……花火を打ち上げるタイミングですが……」
俺はサナトに目を向け、発言を促す。
彼女はテーブルに街の地図を広げ、説明を始めた。
「魔王様がここの地点へ通りがかった時に、
最初の花火を打ち上げたいと思いますが……。
よろしいですか?」
「タイミングの方はそれで問題あるまい。
しかし……どうやって打ち上げるのだ?」
クロコドが尋ねる。
「それにはこの……専用の魔道具を使おうかと」
彼女はそう言って大きな砲台を机の上へ乗せる。
一人では持ち上げられなかったので、フェルとアナロワに手伝ってもらっていた。
その砲台はとてもコンパクトなもので、発射方向を自由に設定できるようになっている。
「既に打ち上げ場所は確保してあり、
砲台も設置済みです」
「催し物に使うにしては仰々しいな。
それは兵器としての転用が可能か?」
クロコドが再び質問する。
それは俺も気になっていた。
「さぁ……試したことはありませんが……。
打ち上げるのは爆裂の魔法ではなく、
どちらかというと光系統の魔法で、
殺傷能力は低めですね」
「では、魔法の種類を変えれば……」
「戦闘での利用も可能かと」
「ほぅ、それは面白い」
本来の使い方とは異なるわけだが、兵器として使えるとしたら大きな拾い物だ。
この国には魔法を使える者がほとんどいない。
獣人も、オークも、肉戦で戦いを得意とする種族。
魔法の使い手が圧倒的に不足しているのだ。
敵がまとまった数の術者を用意し、接近できないよう陣地を構築して待ち構えていたら、こちらは一方的に攻撃を受け続けながら、攻略しなければならなくなる。
弓や投石では動じない獣人やオークであっても、魔法で攻撃され続けたらタダでは済まない。
こちらからも魔法で攻撃できるようになれば、勝率はグッと高まるはずだ。
「それでは次に、婦人会の……」
マムニールが率いる獣人たちの弓兵部隊。
彼女たちのパレードへの参加について説明する。
この件に関して、俺はもっと早く報告しようと思っていた。
しかし、ウェヒカポの一件があったので、魔王とクロコドにはついさっき話したところだ。
二人から何か言われることは特になかったので、この件に関しては問題なく通るだろう。
だが……。
「女を参加させるのは反対だ。
何で今まで言わなかった。
それも直前になって急に……」
「そうですよ、女を戦場に連れて行くなど……」
牛と蛙が文句を言った。
こいつらへの根回しは不要かと思っていたので放っておいた。
まぁ……問題はないだろう。
「黙れっ! ドンっ!」
クロコドが黙ドンする。
一気に場が静かになった。
「さっきから聞いていたらなんだ!
女が参加するのがそんなにいけないのか⁉
貴様らの主張に合理的な理由があるのなら言ってみろ!」
「「…………」」
牛と蛙はものの見事に黙った。
クロコドすげーな。
そもそも、この二人はあまり意見を言わない。
言い争いになってクロコドに勝てる見込みなどない。
というわけで……。
「では、皆さま。
マムニール婦人たちのパレードへの参加を、
ご了承して頂けるということでよろしいですか?」
「「…………」」
黙る牛と蛙。
特に反発はないのでオッケーということで。
「それと……うちの奴隷たちのことなんだけど……」
「……あっ」
奴隷をお祭りに参加させることを、全く伝えていなかった。
「え? 今、あっ、って言った?」
マムニールが俺の方をじっとみる。
真顔だが非常に圧が強い。
「いえ……」
「もしかして……まだ何も話してないとか?
そんなこと、ないわよねぇ?」
「…………」
マムニール。
めっちゃ顔を近づける。
根回しもしない状態で、奴隷の参加を認めさせるのは非常に困難。
かといって簡単に諦めることもできない。
さて……どうしようか。
「えーっと……ですね……」
俺は立ち上がって、発言する。
しかし、なんと言えばいいのか分からず、言葉が続かない。
このまま黙っていたら終わり。
俺には彼らを説得する義務がある。
奴隷の参加を認めさせる。
それが、俺の仕事だ。




