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219 最終調整

「ということで、明日はよろしくお願いします」


 俺は部下たちを会議室へと集め、翌日に迫った祭りの最終調整を行っている。


 部屋には俺の部下たちのほかに、クロコドとマムニール。幹部である牛と蛙の獣人。レオンハルトとシロの姿もある。


「お伝えした計画に支障は無いと思いますが、

 意見のある方は遠慮なくおっしゃって下さい。

 何分、大規模な試みですので、

 トラブルが発生すれば面倒なことになります。

 そうならないために、徹底的に話し合い、

 ご意見を伺いたいと考えています」


 俺はそう言って一同を順番に見やる。


「軍の行進を妨害するような輩が現れたら、

 どう対応するつもりなのだ?」


 クロコドが質問をする。

 良いことを聞いてくれた。


「滞りなく行進できるよう、列の周囲に、

 ゴブリンの部隊を配置するつもりです。

 何かトラブルがあれば直ぐにでも対応できます」

「ゴブリンをぉ?」


 クロコドはアナロワを見やる。

 こんな奴らに何ができるのかと、懐疑的な態度だ。


「ええ、これは彼らにしかできない役割です。

 小回りが利き、機敏に移動できる彼らなら、

 どんな場所で何が起こっても、

 即座に対応できます」

「ふむ……」


 ゴブリンたちを選出したのは彼らが情報伝達能力に優れているから。


 小柄なゴブリンたちであれば群衆の間をすり抜けることも可能。異変を察知したら即座に救援を求め、関係各所に情報を伝達しながら移動できる。


 翼人族を使う手もあったのだが……どさくさに紛れて子供をさらいそうなのでパス。それに……空から見張るよりも、地上で警戒した方がずっと効果があるんだよね。


 行進する軍隊に人が近づきすぎたら、間違いなく混乱の元となる。民衆と軍隊の間にゴブリンを配置すれば、一定の距離を開けて安全に行進できる。

 きちんとした距離を保つにはゴブリンが適役なのだ。


「それに、ゴブリンたちの実力は、

 怪獣の一件で十分に証明されたと考えています。

 万が一混乱が起こったとしても、

 彼らなら民衆を安全に誘導できるでしょう」

「だが、危険な存在が現れたらどうするのだ。

 ゴブリンではとても太刀打ちできまい?」


 それを聞いて、俺は失笑してしまった。


「おい……何がおかしいと言うのだ」

「いえ、クロコドさま。

 我が国は獣人の住まう最強の国。

 こんな国の軍隊に喧嘩を売ろうなど自殺行為。

 仮にもし、妨害者が現れたとしても、

 その場で取り押さえられるでしょう」

「ううむ……」


 クロコドは黙った。


 屈強な獣人やオークたちが行進しているところへ割って入ろうとすれば……結果は想像するまでもない。


 やるとしたらレオンハルトを暗殺しようとする勇者くらいか。


 俺は黒い甲冑を着たミィに目を向ける。


 七大魔王の最強格であるレオンハルト。

 それを守る最強の戦士、黒騎士。

 この二人を倒せる奴なんて存在しない。

 たとえ勇者が襲ってきても返り討ちだ。


「私からも質問。

 全体でどれくらい時間がかかるのかしら?」


 マムニールが質問をする。


「ええっと……。

 資料を見てもらえば分かると思いますが、

 だいたい5時間程度で終わるかと……」

「5時間? 結構、かかるのねぇ。

 その間、兵士たちはトイレを我慢できる?」

「……げっ」


 ぬかった!

 トイレ休憩を考慮していなかった!


 大規模な行進を行えば、それなりに時間がかかる。

 大勢の兵士を整列させ、一定の速度で行進し、魔王城から街の外まで全部隊が移動するには、よっぽどかかると踏んでいる。


 綿密に計算したわけではないので、実際に何時間かかるか不明ではあるが……。

 少なくとも5時間くらいは必要だと考えた。


 だが……その間、兵士たちが、トイレへ行くなど全く考慮せずに、俺は計画を立ててしまった。


 これはまずいことになったぞ……。


 このまま何の対策もしなかったら、糞尿を垂れ流しながら行進して醜態をさらす。

 わが軍の権威は地に落ちる。


「大丈夫でしょー! 我慢できるって!」


 呑気なことを言う魔王。

 本当に我慢できると思うか?


 この人は実際に一度、漏らしているからな。

 あんまり深刻に考えてないのかもしれない。


「前もって済ましておく他なかろう。

 兵士たちには事前にトイレを済まさせておき、

 排泄が終わったものから列に並ばせる。

 そして、行進が終わったものから解散し、

 街の外で用を足す。

 そうすれば何とかなるのではないか?」


 クロコドが言った。

 他に方法がないもんなぁ。


「そうですね、ではクロコド様の言う通りに……」

「兵士たちにはわしから言っておく。

 本番前はトイレが混雑することが予想されるゆえ、

 魔王城の中に仮設のトイレを建設したい。

 魔王様、よろしいですか?」

「うん、いいよー」


 魔王はオッケーのサインをする。


 トイレの問題は、クロコドに任せておけば大丈夫かな。

 この人が予想外に有能で助かった。


「それと、兵士たちには、

 当日の飲酒を禁ずる達示を出しておきます。

 時間が多分にかかることも伝えておきますので、

 トイレ関係での失敗は減らせるかと……」

「万が一漏らしたらどうするの?」


 レオンハルトが疑問を投げかけた。

 彼の疑問はもっともだ。


「大通りに店を構える住人に協力を仰ぎ、

 催した兵士に緊急でトイレを貸してもらえるよう、

 お願いをしておきます」

「それは任せて大丈夫?」

「はい、魔王様。わしにお任せ下さい」


 クロコドはそう言って深々と頭を下げる。


 これで完全に解決……したかな?

 他に何か別の問題が出てきそうで怖い。


「あの……私からも一ついいですか?」


 サナトが発言を求めた。


「なんだ?」

「あのぅ……花火の件なんですけどぉ。

 どのタイミングで打ち上げたらいいのかなぁって」


 確かに……。

 どのタイミングとか考えてなかった。

 テキトーに打ち上げれば住人も満足するかと。


「ねぇねぇ、何発くらい用意できたの?」


 魔王が質問する。


「1000発くらいですね」

「そんなに用意したのぉ⁉ 凄いねぇ!」

「あっ、はい……」

「サナトちゃんは凄いなぁ!

 偉い、偉い!」

「え? 魔王様?」


 サナトの頭をなでなでする魔王。


 この人、シロとじゃれ合っているうちに、小さい子が好きになったらしい。

 変な性癖に目覚めなければいいが。


「それで……ユージさま。タイミングは……」

「一番盛り上がった瞬間が良いな。

 閣下が大通りの真ん中くらいに来た時に、

 ぼちぼち打ち上げてくれ。

 細かいタイミングは任せる」

「うーん……分かりました。

 他の方もそれでよろしいでしょうか?」


 特に異論はでなかった。

 魔王もオッケーのサインをする。


 と、ここで思わぬ人物が発言を求めた。


「……ユージ」

「どうした、シロ?」

「私も一つ、意見を言いたい」

「え?」


 シロは何を言うつもりなのか。

 変な事を言わないと良いが……。


「しかし……」

「良いから、良いから、言わせてやれユージ。

 シロちゃん、何が言いたいのかな?」


 魔王が発言を促すとシロは……。


「今ここで、みそぎを済ませておくべき」

「え? 禊?」

「じゃないと……」


 シロは無表情のまま、まっすぐと前を向いて言う。


「このチームは空中分解する」

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