216 ただ血を吸っているだけです
俺はマムニールの農場へと向かう。
ハーデッドが部屋を借りていた別館はヴァンパイアの襲撃で焼失した。今は奴隷たちが寝泊まりする建物で過ごしている。
使われていなかった物置を空け、彼女の部屋として使用しているらしい。
俺は早速その部屋へ向かう。
すると……。
「シャミ? ベル? どうしたんだ?
そんな恰好をして……」
「みっ、見ないで下さい!」
「ユージさま……どうかこちらを向かないで……」
上半身裸の状態の二人。
両手で胸を覆い隠している。
下半身にはぼってりとした大きなパンツ。
これはまさか……おしめ?
「すっ、すまんな……。
しかし、なんで二人してそんな……」
「ハーデッドさまが食事をしたいからと……」
ベルが顔を赤らめて言う。
食事?
二人の血を吸うつもりなのか?
「ああ……血液で服が汚れるから裸なのか。
おしめを履いているのは何故だ?」
「あの人に血を吸われると漏らしちゃうんですぅ!」
涙目になったシャミが言う。
血を吸われると漏らす?
どういうことなんだ?
「おおい! その声はユージか⁉
いるのならさっさと中へ入れ!」
部屋の中からハーデッドの声が聞こえる。
「はい……では失礼して……って、うわぁ!
なんで裸なんですか⁉」
部屋の中へ入るとハーデッドが一糸まとわぬ姿でベッドの端に腰かけていた。
彼女の隣にはミィが立っている。
裸ではなくメイド服姿で。
「これから血を吸うのだ。
服を着ていたら汚れてしまうからな」
「……左様で」
「部屋の前にシャミとベルがいなかったか?
余の元へ来るように言ってあったのだが……」
「もう来てますよ、ここに」
「そうか、なら二人も入ってこい」
ハーデッドがそう言うと、シャミとベルはささっと部屋の中へ。
「よし、ではまずシャミからだ」
「え? あの……ユージさまが……」
「コイツのことは気にするな。ただの骨だぞ」
「でっ……でも……」
「いいから早くしろ」
「……はい」
観念したシャミはハーデッドの所へ向かう。
「あの……どうすれば?」
「座れ」
「えっと……隣にですか?」
「違う、余の上に座れ」
「え?」
ハーデッドの上に?
何考えてんだコイツ?
「余の膝の上にだ」
「じゃぁ……」
シャミはゆっくりとハーデッドの膝の上に腰を下ろそうとする。
すると……。
「違う違う、余と向かい合うように座るのだ。
昨日、貴様の血を吸ったようにな」
「でも……そんなことしたら……」
「いいから早く、余の言った通りにするのだ」
「わっ……分かりました」
シャミはハーデッドの肩に手を置き、膝の上にそっと腰かける。それから相手の後ろに手をまわして、抱き着くような形になった。
肌と肌は完全に密着し、乳房を押し付け合っている。
なんか……エロいな。
エッチなことをしているような感じ。
「シャミよ……貴様の身体は暖かいな」
「ハーデッドさまの身体も暖かいです。
てっきり冷たいのかと思ってました」
「アンデッドとはいえ血が通っているからな。
ただの死体とは違うのだ」
「そうなんですか……」
「では、貴様の血を頂くとしようか」
「……はい」
ハーデッドはシャミの首筋に噛みつき、鋭い牙をそっと身体に差し込んでいく。
すると……。
「うっ……いやぁ! ああっ! んくぅっ!」
嬌声を上げるシャミ。
とっても色っぽい。
ハーデッドが牙を突き立てた場所からは、鮮血がたらりと流れ落ちて筋を作る。ミィはハンカチでそれをぬぐい、床にしたたり落ちるのを防いだ。
血を吸われている間ずっと、シャミは声を上げ続けていた。
何故だか分からないが気分が高揚するらしい。
決していやらしい行為をしてるわけではないが、どうしてもそう言う気分になってしまう。
俺がスケルトンでなかったら、きっと前かがみになっていたことだろう。
「うぁ……でっ……でちゃう。で……あっ」
ぶるっと身体を震わせるシャミ。
「ううっ……んくっ! ふぅ、ふぅ!」
だんだんシャミの呼吸が荒くなっていく。
そして……。
「あぁっ……あっ……ああああああ!」
ビクンっと弓なりになるシャミ。
絶頂を迎えたかのように身体が小刻みに震える。
彼女が落ちてしまわぬよう、ハーデッドはしっかりと抱きしめていた。
「……ん」
二人のその行為を眺めて、もじもじと身体をくねらせるベル。
彼女も気が気じゃないらしい。
「ふぅ……ご馳走様」
ハーデッドはシャミの首筋から牙を話す。
その部分をミィがハンカチでそっとぬぐい、残渣をぬぐって綺麗にした。
「シャミ、貴様の血は旨かったぞ」
「ありが……ごじゃいましゅぅ」
「フフフ、とても正気ではいられぬだろう。
なんと言っても不死王の唾液だからな。
ゆっくりと休め」
「ひゃ、ひゃいぃ……」
ハーデッドはベッドの上にシャミを寝かせると、彼女はくたばったカエルのような格好になる。
ミィはそんな彼女の身体にさっと毛布を掛け、俺の方を向いて目でけん制。
じろじろと見るなってことだろ。
分かってますよ。
「次はベル、貴様だ」
「……はい」
シャミがあんな風になってしまったのを見て、ベルはお通夜のような雰囲気になっている。
ぶっちゃけ、怖いよな……。
「あの、ユージさま……。
よろしければご退室いただけないかと」
「おっ、そうだな」
「いや、別に出て行かなくてもいいだろう。
どうせすぐに済ますからここにいろ」
ハーデッドが言う。
不死王様に言われたら仕方ねぇなぁ。
「ですが……いえ、魔王様の言うことですから、
従わざるを得ませんね」
「じとー」
「なんだ、ベル。そんな目で俺を見て」
「…………変態」
ボソッとつぶやくベル。
ええそうですとも。
俺は変態ですよ。
「よし、こっちへ来い」
「失礼します……」
先ほどと同じように、ベルはハーデッドと向かい合って、彼女の膝の上に腰かける。
相手の首の後ろに手をまわして、互いの身体を密着させ合う。
ベルの身体はシャミよりも細い。
ハーデッドは小ぶりな彼女の身体に手のひらを当て、背中を何往復も優しく撫でる。
「そっ……そんなことをする必要が?」
「おぬしの身体があまりに美しいのでな。
いじ繰り回したくなってしまうのだ」
「あまりベタベタ触らないで下さい……」
「このような美しい肌の持ち主は、
イスレイには一人もおらん。
余の専属のメイドにならんか?
勿論、自由な身分の市民として迎えるぞ」
「申し訳ありませんが、それはできません。
私はマムニールさまにお仕え……」
「かぷっ!」
「え? いやぁ……ああんっ!」
話の途中で噛みつくハーデッド。
不意を突かれたベルは大きな声を上げてしまう。
「そんなっ……嫌ぁ! ミィ……助けて!」
救いを求めるベル。
彼女が必死に伸ばした手を、ミィはしっかりと握りしめる。
「大丈夫だよ、ベル。大丈夫だから……」
「こんなの……こんなの嫌ぁ! んんっ!
お願い……見ないで下さいっ……」
顔を紅潮させるベルは、俺に見るなと懇願する。
まぁ、直接は見てないんですけどね。
別の方向を向いてますよ……ええ。
そちらの方向に偶然、鏡があっただけです。
もちろん他意はありません。
ただの偶然ですよ、はい。
「いやぁ! 止めっ……止めてぇ!
あっ……あっ……ああっ!」
身体が小刻みに震えるベル。
「もっ……もうだめですぅ……。
ハーデッドさまぁ……許してぇ……」
蕩けた顔で懇願する彼女だが、ハーデッドはその願いを聞き入れない。
無慈悲に血を吸い続ける。
「大丈夫、直ぐに終わるよベル。
もうちょっとだから……頑張って」
その間のずっと、ミィは励まし続ける。
彼女はベルの手をずっと握っていたのだが……。
「うっ……うぁ……ああああ!」
ベルはその手を放し、ハーデッドの身体にしがみつく。
普段、クールにふるまい、どんな時も動揺せずに、冷静さを保ち続けるベル。
そんな彼女がハーデッドに血を吸われて、あられもない姿をさらしている。
ミィからしたら信じたくない光景だろう。
「くぅ……んんんっ……くっ!」
唇をかみしめ、声を押し殺すベル。
呼吸が荒くなり、顔は真っ赤に染まっている。
「いっ……いやあああああああ!」
ベルはとうとう限界を迎えた。
牙が引き抜かれると、彼女の全身から力が抜ける。
すがるように相手を抱きしめていた腕は力を失ってだらんと垂れ下がり、足もベッドの上に投げ出される。
「ミィ、寝かしてやれ」
「……はい」
ミィが身体を支えてベッドへと誘導すると、ベルは倒れこむように横になった。
もはや彼女に体力は残されておらず、ボーっとした顔で口をぽかんと開けたままぐったりとしていた。
ミィはさっと彼女の身体に毛布を掛ける。
そして何故か俺の方を見やる。
だから直接は見てないってば。
たまたま鏡がそこにあるだけで……。
「見てたの?」
ミィが尋ねる。
俺は全力で首を横に振って否定した。
「別に見てても構わんだろうが。
ただ血を吸っていただけだぞ」
そう言いながら、胸元に垂れた血液をハンカチでぬぐうハーデッド。
「ミィ……お前は血を吸われずにすむのか?」
俺は何気なく気になったことを聞いてみた。
この子まで二人のようにされたらかなわん。
しかし……ハーデッドは……。
「ゲテモノを口にする気はないのでな。
コイツの血はいらん」
「……は?」




