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213 アンデッドの身体

 翌日。

 ユージは魔王城へと戻った。






「この度は、ご迷惑をおかけし、大変申しわけ……」

「ああ、いいからそう言うの。

 頭なんて下げなくていいから」


 魔王は俺の謝罪をさえぎる。


「お前が戻って来ただけで十分だよ。

 それよりも……その身体、どうしたの?」

「ああ、これは……」


 俺はウェヒカポの身体を乗っ取ったことを伝える。


「へぇ……アンデッドの身体を、無条件で」

「ええ、実行に移したのはこれが初めてです」

「じゃぁ、お前がその気になればハーデッドも……」

「それだけは絶対にやりませんね。絶対に」


 もしハーデッドの身体を乗っ取ったりすれば、真祖の血を引く彼女の身体を受け継ぐことになる。不死王になったら最後、もう別の身体には乗り移れなくなる。


 俺が魂だけになるには肉体を完全に消失する必要がある。ハーデッドの身体の消失は真祖の血を永久にロストすることを意味する。


 ヴァンパイアは絶滅不可避。

 この世界のパワーバランスを大いに崩しかねない。

 それだけは絶対に避けるべきなのだ。


 だからハーデッドの身体だけは、絶対に乗っ取ったりしない。

 アンデッドの親玉になるつもりはないからな。


「貴様の部下たちの話だと、

 ウェヒカポを取り逃がしたそうだが?」


 魔王の質問に、俺は左腕を差し出して答える。

 手首から先が消失していた。


「ええ、この通り、自分の身体の一部を切り離し、

 そちらに魂を移して逃走を試みたようです。

 ですがその直後、怪魚に食われたらしく……」

「じゃぁ、安心だな」


 魔王はそう単純に言うが、ああいう手合いは相当しぶとい。


 殺しても、殺しても、地獄の底から蘇る。怪魚に食われたからと言って素直に安心できない。


「しかし……その身体では不便だなぁ。

 右半分が消し飛んでるし、

 左手は抜けてなくなってるし」

「ええ、不便で仕方がありません」

「新しい身体を新調した方がいいと思うよ」

「……はい」


 言われるまでもない。

 この後すぐに新しいのと入れ替えるつもりだ。


「リッチの身体ってどう?」

「正直、不便で仕方ありません」

「ほんとぉ?」

「ええ」


 リッチの身体にはミイラ化した肉がまとわりついており、非常に動かしにくい。


 スケルトンの時の方がずっと身軽だった。

 スカスカの身体の方が過ごしやすいのだ。


「それと……閣下。シロのことですが……。

 私が不在の時に面倒を見ていただいたようで……」

「ああ、シロちゃんのことなら気にしなくていいよ。

 俺も彼女は嫌いじゃないからさぁ」

「私のせいで大変なご迷惑をおかけしただけでなく、

 シロのことまで配慮して頂き感謝の言葉もございません。

 重ね重ね、御礼申し上げ……」

「だからいいって、そう言うの」


 そうは言うが、お礼くらいちゃんと言わせてくれ。


 彼は俺がいない間ずっとシロの面倒を見てくれた。

 こんなにいい上司を持って俺は幸せだ。


「ユージは一人で抱え込みすぎ。

 もっと魔王を頼って」


 魔王の膝の上に座っているシロが言う。

 この子はだんだんと自分の地位を確保しつつあるな。


「シロちゃんの言う通りだぞぉ!

 フフフ……もっと俺を頼ればよいのだぁ!」


 嬉しそうに膝の上のシロの頭を撫でる魔王。


「くすぐったい、むやみやたらに触らないで」

「あっ、ごめん」


 慌てて手を引っ込める魔王。


 どっちが上の立場なのか、もうこれ分かんねぇな。

 口の利き方も分かってないし、ここはきちんとシロに説教をすべきだろう。


「おいシロ、今の言い方は何だ?

 閣下に対しての態度が……」

「いいから、いいから、気にしてないから。

 シロちゃんは今のままでいいんだよ」

「しかし……閣下……」

「いいったらいいの! これは命令!」


 びしっと俺を指さす魔王。

 シロも同じように俺を指さしている。


 なんで動きをシンクロさせてんだよ。


「はい……かしこまりました。

 それではこれで失礼させていただきます」

「うむ、事後処理は全てお前に任せたぞ」


 またいつもの丸投げだが、今回ばかりは文句は言えない。


 俺が引き起こしたことだし、魔王はその尻ぬぐいをしてくれた。

 感謝することはあっても、反発するなどありえない。

 彼の期待に沿えるよう努力してしかるべきだ。


「それと、シロちゃんのことは俺に任せろ。

 今日も面倒を見ておいてやるから」

「はい……お願いいたします」

「魔王は任せて。私が面倒を見る」

「お前はあまり調子に乗るな」


 シロはさっとねこじゃらしを取り出す。

 これでレオンハルトと遊ぶつもりなのだろう。


 二人っきりにしておいた方が魔王も心置きなく楽しめるかと思う。

 俺は頭を下げてさっさと部屋から出た。






 それから俺は、サナトの所へと向かった。

 この身体を燃やして処分する為だ。


「おおい、サナト! いるかぁ!」


 俺は彼女の部屋の扉をドンドンと叩く。


「そんなに騒がなくても大丈夫ですよ!」


 サナトは直ぐに顔をだした。


「おお、サナト。

 早速で悪いが俺を燃やして粉々にしてくれ」

「いきなり物騒なことを言い出しますね……。

 戻ってきて第一声がそれですか」


 サナトは不安そうにじっとりとした目を俺へ向ける。

 なんとも言えない、この素敵な表情。

 今日もこのロリっ子可愛い!


「ああ、新しい身体に魂を移したいんだ」

「改めて思いますけど、

 アンデッドって本当にいい加減な存在ですね。

 アナタたちにとっての死ってなんですか?」


 急に哲学的なことを尋ねるサナト。

 アンデッドの死ってなんなんだろうな、ホント。


 俺は既に死でいる身なので、死ぬって感覚が良く分からない。生きていた時はちゃんと死を意識していたし、怪我や病気には気を付けていた。


 この身体になってから俺はずっと、自分の身体が傷つくことに無関心だった。身体の一部を失ったところで、代わりの身体を見つければ済む話だ。


 現に今も、身体の大部分を失ったとはいえ、不便だと感じる以外で特に問題は感じていない。

 これが普通の人間だったら、半身を失ったことで精神的なダメージを受け、正気ではいられないだろう。


「さぁな……それは俺にもよく分からん」

「そんな状態になっても、平然としていられるなんて、

 やっぱりユージさまはアンデッドなんだなぁって、

 しみじみと思いますよ」


 サナトは俺の身体をつついて言う。


「そう言えば……花火はどうだ?

 間に合いそうか?」

「何とか明日までには仕上げて見せます。

 なんてったって明日の目玉ですからね」

「流石だな……お前に頼んでよかったよ」


 サナトはいつだって俺の期待に応えてくれる。

 この子、本当に最高。


「さて、そろそろこの身体を壊してくれないか?」

「ここじゃ無理なので、中庭へ行きましょう。

 そこで木っ端みじんにして差し上げます」

「うむ、頼んだ」


 それから中庭へと移動して、サナトは魔法で俺をぶっ飛ばしてくれた。


 魂だけになった俺は彼女の姿をしみじみと眺める。

 サナトは俺が爆散した地点をじっと眺めていた。


 アンデッドって本当になんなんだろうな。

 俺はこんな状態でも生きていると言えるのだろうか?

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― 新着の感想 ―
[良い点]  すごくシリアスな場面が続いてきたのに、この落差!  吹っ飛ばされて、一区切りっていうのが、またいいです。  まだまだ伏線がありそうな気もしますが、そこを含めて、楽しみです。
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