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206 レッドイーター

「ぬろろろろろろろろっ!」


 耳障りな悲鳴。


 円柱状の物体から姿を現したそれは、名状しがたい不気味な姿をしていた。


 真っ赤な肉は膨張と縮小を繰り返す。

 表面に発生した無数の眼球。

 獲物を探してギョロギョロ動く。

 肉からしみ出した桃色の体液。

 氷の上にドロドロ広がる。


 なんとも恐ろしい化け物。

 しかし、アンデッドなら恐れることはない。

 浄化魔法でダメージを与えられるはずだ。


 セレンはすぐさま魔法を発動。

 光の球体をレッドイーターへと放つ。


「ぬぎゃあああああああああ!」


 浄化魔法が当たると、化け物は悲鳴を上げた。

 耳障りな音が凍り付いた湖にこだまする。


「無駄だよ、坊や。

 この子は直ぐに再生するのさ。

 まぁ……せいぜい、頑張るんだね」

「どこへ行くつもり? 逃げられると思う?」

「いんや、逃げるつもりはないよ、坊や。

 あたしがどんなに頑張っても、

 あの翼人族にはスピードで勝てない。

 だからね……素直に隠れることにするよ」

「隠れるって……どこに?」

「分からないかい? ここに……さ」


 ウェヒカポがレッドイーターの身体へ飛び込むと、周囲の肉がその体を包み込むように盛り上がり、すっかり飲み込んでしまった。


「しまった!」


 慌てて浄化魔法で攻撃するセレンだが、ウェヒカポを捕らえることはできなかった。

 レッドイーターの肉の壁は最強の鎧と化す。


「ぬおおおおおおおっ!」


 レッドイーターは無数の触手を伸ばす。


 空中に放たれた触手は投網のように広がり、セレンを捕らえようと動き回る。

 なんとか回避するものの、警戒心を植え付けられて反撃できない。不用意に近づけば飲み込まれてしまう。


「いったい……どうなっているでありますか?」


 先ほどの翼人族の少女が話しかけて来た。


「分からない、アンデッドみたいだけど……。

 ウェヒカポはあの中へ入って攻撃を防いでいる。

 アレを倒さないとユージさまは取り戻せないよ」

「ああ……なんてことでありますか。

 うん? あそこに誰かいるであります!」


 翼人族の少女が湖を指さした。

 数人の集団が氷の上を走っている。


「あれは……?」

「我々の仲間であります!

 一緒に戦ってくれるはずです!」


 協力してくれるのはありがたいが……わずか4名。

 そんな少数で何になると言うのだろうか?


「ダメだよ……あんな人数じゃとても……」

「やってみなくちゃ分からないであります!

 とにかく行って話をするであります!」


 翼人族の少女は話を聞かず飛んで行ってしまった。

 セレンもつられて彼女の後を追い、彼らの元へと向かう。


「みんなー!」

「おおっ! トゥエか!」


 翼人族の少女の名はトゥエと言うらしい。

 一団の中にいたオークの男が彼女の名前を呼んで手を振っていた。


「あの中にウェヒカポがいるであります!」

「あの中にだと? 本当なのか?」

「嘘なんてつかないであります!」

「疑ってるわけじゃねぇよ……」


 オークの男はトゥエの言葉に答える。


 他のメンツは、先ほどまで一緒にいたフェル。

 ゴブリンとケンタウロスが一人ずつ。


「ねぇ……君たち。

 助けに来てくれたのはいいけど、

 どうやってアレと戦うの?」

「あ? 誰だ、お前?」


 オークが攻撃的な口調で尋ねる。


「僕の名前はセレン。

 訳あって君たちと同じ目的で行動している。

 ユージを捕らえたウェヒカポが、

 レッドイーターの中にいるんだ。

 奴を引きずり出して、ユージを解放しよう。

 そうしないと化け物が……」

「レッドイーター? 化け物?

 あの赤い肉の塊が化け物?

 レッドイーターって奴は何処にいるんだ?」


 オークは首をかしげる。

 説明するのが面倒だ。


 困っていると代わりにフェルが説明する。


「ノインさん。

 彼が言う化け物は別にいます。

 レッドイーターと言うのは、

 あの肉の塊のことみたいです」

「……なるほど。

 で、どうすればいいんだ?

 あの中にユージがいるんだろ?」

「私にいい考えがあります!」


 トゥエが手を上げる。


「レッドイーターは近くにいる生き物を、

 無差別に襲っているであります。

 皆でバラバラに周りを動き回ってかく乱し、

 混乱しているところを一気にドーン!

 で、あります!」


 なんとも無茶苦茶な作戦だ。

 だが、決して無意味なわけではない。


 レッドイーターが触手を伸ばせば質量が分散される。身体が薄くなったタイミングで攻撃すれば、敵を貫けるかもしれない。


「そうだね……僕の力ならそれも可能だよ」


 セレンが持つ最強の必殺技、神聖貫通突撃セイントクラッシュ

 聖属性の力を身体にまといながら突撃して、アンデッドに大ダメージを与える。


 この必殺技を使えば、敵の身体を貫き、体内に隠れるウェヒカポを攻撃できる。

 だが……。


「だけど、僕の力を使ったとしても……。

 敵の位置が分からないと意味がない」

「……うん?」


 セレンの言葉を聞いて、ノインと呼ばれたオークが反応した。


「なぁ……フェルの力を使えば、

 敵の居場所が分かるんじゃないのか?」

「はい、分かると思います。

 あの化け物からは魔力を感じないので、

 内部にリッチが隠れているとしたら……。

 その位置を特定するのは難しくないです」


 フェルはそう言い切った。

 実に頼もしい。


「でも、どうやって敵の位置を伝えるのだ?」


 ケンタウロスの少女が尋ねると、フェルはポケットからパチンコを取り出す。


「これを使います。

 これで染料の詰まった球を当てて、

 攻撃するポイントを伝えようかと。

 セレンさん、それでいいですか?」

「うん……分かったよ」


 セレンはフェルの提案に同意。


 上手くいくか分からないが、この場で悩んでいても仕方がない。

 とにかくやってみるしかないだろう。


「あの……ノイン殿……」

「なんだよ、アナロワ?」

「……ご武運を」

「ふん、お前もな……」


 アナロワと呼ばれたゴブリンは、ノインと拳を突き合わせる。


 セレンにはその光景が奇妙に思えた。

 こんな風に色んな種族が協力し合うのは珍しい。


「さぁ……そろそろ覚悟を決めるであります!」


 トゥエは両手で握りこぶしを作り、どや顔をして言う。


「なんでお前がしきるんだよ?

 ユージ以外の奴が音頭を取ると、

 なんかいまいち、しまらねぇな」

「ノイン殿はユージさまが大好きなんでありますね?」

「まぁ……嫌いじゃねぇよ」


 彼らが協力し合っているのは、やはりユージの存在が大きいようだ。彼を取り戻すことで、この国は平和になるのだろうか?


 セレンは大きな矛盾を感じる。


 平和を守るために倒しに来た相手を、今は必死になって取り戻そうとしている。

 何故、こんなことになったのだろう。


 ハーデッドを助けるには、彼を救うしかない。

 他に方法があるのなら誰か教えてくれ。


 僕は……どうすればいいと言うのだ。

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