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198 捜索は難航している模様

 ウェヒカポが姿を消したのはゲンクリーフンから少し離れた丘陵地帯。昼過ぎには各部隊が丘へと分け入り捜索を開始する。


 ほうぼう手を尽くして捜索が行われたが、手掛かりすら見つからなかった。時間だけが無駄に過ぎていき、なんの成果も得られぬまま夕刻を迎える。


「むぅ……思っていた以上に厄介なことになったな」

「ねぇ、ハーデッド。

 このまま探し続けても意味がないと思う。

 もっと他に方法があるんじゃないかな?」


 少年が言う。


「であれば、どんな手段が適切だと考えるか」

「僕が誘拐犯だったら……。

 さっさとイスレイに帰っちゃうかな。

 使者を送って交渉して、君の身柄を引き渡すように言うよ」

「……なるほど」


 確かに少年の言う通り。

 ゼノで取引をするよりも、ホームに帰ってしまった方がやりやすい。


「奴の味方をする者がイスレイにいるとは思えん」

「でも、手下の吸血鬼たちがいるでしょう?」

「奴にくみするヴァンパイアもいる。

 だが、あくまで少数だ」

「じゃぁ……奴はまだこの国に?」

「その可能性は大きい」


 イスレイでなく他の国へ亡命する可能性もある。


 ゼノの隣国はヴァジュ。あそこには大勢の魔女が住んでいる。魔女は魔力残渣の察知に長けているので、そちらへ逃げたとも考えにくい。


 さらに言えば、ウェヒカポはヴァジュでも指名手配されている。

 実験と称して魔女を何人かさらい、国際問題になりかけたことがある。

 奴にとって魔族は実験材料でしかない。


 そのため、ウェヒカポは全ての国でお尋ね者だ。

 手段を択ばぬ横暴な研究者の居場所が、この世界の何処にあるというのか。


「じゃぁ……なんで見つからないんだろうね」

「探す場所が間違っているか……。

 あるいは手段の方が誤りか。

 なんにせよ、方法を変える必要がある」

「どうすればいいの?」

「それはまだ、考え中だ」


 ハーデッドは切り株に腰かけ、色々と考えを巡らせる。


「はぁ……もう疲れましたの。

 おうちに帰ってゆっくりしたいですの」

「アンタはもうちょっと真面目に探しなさい!」

「サナトはうるさいですの。

 その口を縫い合わせてしまいたいですの」

「いちいち言うことが物騒なのよ!」


 すぐ傍でサナトとエイネリが言い争いをしている。

 二人とも元気そうだ。


「あの……ハーデッド様」

「なんだ?」


 白兎族の少年が話しかけて来た。

 ユージの部下らしい。


「何か必要なものはありませんか?

 遠慮なくおっしゃって下さい」

「気遣いは不要だ。

 それより……捜索は続けられるのか?」

「それが……」


 白兎族の少年は兵士たちに目をやる。


 彼らは丘をかけずりまわって、ユージを捜索し続けている。


 獣人もオークも体力がある種族で一晩中探し続けたとしても問題なく動ける。

 しかし、命令に従って必死に捜索を続けているうちに、暗澹あんたんとした空気が漂い始めた。


 本当にウェヒカポはこの地にいるのか。もっと他の場所を探すべきではないのか。探し続けて見つかるのだろうか。

 それらの疑念は時間が経つにつれ強くなる。


 無駄と思われる行為を反復して行うと、作業者にとって大きなストレスになると聞く。

 今の状況はまさにそれだろう。


「あまり良い状況とは言えぬようだな」

「……そうですね」

「白兎族の者よ、貴様の名は?」

「僕はフェルと言います」

「フェルよ、一つ聞くが……。

 貴様らは魔法の痕跡を発見できたか?」

「それが……」


 フェルによると、既に複数の部隊から魔法の痕跡が見つかったと報告が上がっている。それぞれ異なる場所で発見され、周辺を捜索中とのこと。


 しかし、痕跡が見つかった地点はバラバラで、どこを集中して探せばいいのか分からないと言う。


「ふぅむ……」


 ハーデッドは顎に指をあて思案する。


 魔力残渣は確かに残されているようだ。

 だがこれは罠ではないのか?


 仮に隠れ家があったとして、その周囲の魔力残渣は徹底的に除去するはず。


 奴は意図的に痕跡を残したのだ。

 そうとしか思えない。


「よし……考えがまとまったぞ。

 フェルよ、レオンハルト王はどこにおられる」

「向こうの野営地に」

「では案内しろ」

「はい」


 フェルの案内で野営地へと向かう。


 丘のふもとに設置された野営地には大勢の兵士たちが見張りに立ち、周囲を警戒している。


 レオンハルトがいるテントの中から、ぎゃあぎゃあと喚き声が聞こえる。

 何やら会議中のようだ。


「お前たちはここで待て。

 少年よ、貴様は付いてこい」

「……うん」


 天使の少年だけを引き連れて、テントへ。

 獣人たちがテーブルの上の地図を眺めて、激論を交わしていた。


 その奥で一人椅子にふんぞり返るレオンハルト。

 傍らにはシロがいる。


「どうして分からぬのだ!

 この一帯は既にわしの配下が捜索を終えた。

 敵は別の場所にいるのだ!」

「ですが……魔力の痕跡が残されていますし……」

「やはりもっと捜索を続けた方がよろしいかと……」


 ワニの獣人が熱心に説得するが、蛙と牛の獣人は納得していないようだ。


「くそっ……おい、ヴェルゴ!

 黙ってないでお前も何か言え!」


 ワニの獣人が傍にいたリザードマンに発言を促す。


「自分はクロコド様に賛成ッス!

 クロコド様の言う通りにするべきッス!」

「いや……それは貴様の意見ではなかろうが」

「とにかく賛成ッス! 大賛成ッス!」

「はぁ……お前に聞いたわしがバカだった」


 頭を抱えるクロコドと呼ばれた獣人。

 無能な部下の対応に苦慮している。


「作戦会議の最中で悪いが、余も混ぜろ」

「あっ、ハーデッド様……」


 ハーデッドが割って入ると、一同は口を閉ざして不安そうに彼女を見る。


「ハーデッド殿、成果は得られましたかな?」


 レオンハルトが呑気に尋ねて来た。


「いや、まったく。

 あちこちに魔力残渣が残されているゆえ、

 捜索は難航しているようだ」

「あっ……そう。どうしようかな?」

「これ以上の捜索は不要。

 ウェヒカポはあえて手がかりを残したのだ。

 魔力を読み取れるものがいれば、

 そちらに目が向くと考えたのではないか?」

「やはりですか!」


 ハーデッドの言葉にクロコドが反応する。


「おかしいと思っていたのだ!

 わしはずっとこの丘を捜索していたが、

 リッチはおろか、アンデッド一匹見つからん。

 別の場所にいると考えるのが妥当だろう」

「ではハーデッド殿、敵はどこにいると思われるか?」


 レオンハルトの問いに、ハーデッドはしばらく考え込む。


「おそらくは……逆に魔力が残されていない場所。

 あまり遠すぎず、微妙な距離にある……。

 そうだな……このあたりだろうか?」


 ハーデッドは地図のある場所を示した。

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