表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

194/369

194 黙れ豚

「……と、言うわけだったのだ」

「ふぅん……」


 ハーデッドの話を聞き終えた少年は、適当に相槌を打った。


 二人は既に下水道を脱出して外へ出ている。


「で、結局のところ、君は誰の意志を受け継いだのさ」

「それが……余にもよく分からんのだ。

 気づいたら今の人格になっていたからな。

 あの少女の魂は今も余の中にあるが、

 彼女が主人格になったとは思えぬのだ」


 少年は嘗め回すようにハーデッドの身体を見つめる。


「じゃぁ、今の君の身体は少女のものだけど、

 別人格が乗っ取っちゃったってことかな?」

「人聞きの悪いことを言うな。

 これは余の身体だ。他人のものではない。

 だがまぁ……ある意味では間違いでもない。

 先代の不死王や、コータの魂も共存しているのだから、

 乗っ取ったと言えばそうなのだろう」

「ふぅん……」


 魂が混ざり合う感覚を伝えようとしても、上手く言葉にならずに理解してもらえない。無理に分かってもらう必要もないだろう。


 ハーデッドにとってこの身体は自分のものであるし、三つの魂も今の人格を形成する為に必要な要素である。


「それはそうとさ……それ、やめたら?」

「何をだ?」

「君が乗っているそれ」

「うん?」


 ハーデッドは首をかしげる。

 少年は何が言いたいのだろう?


「趣味が悪いよ。恥ずかしい」

「辱めを受けているのはエイネリの方だぞ」

「それでも、そんなのに乗っていたら恥ずかしいよ」

「そうか?」


 ハーデッドは自分がまたがっている存在を見下ろす。


 それは四つん這いになり、ギャグボールを口にあてがい、目隠しをして、首に縄をつけられたエイネリだった。


「これの何が恥ずかしいのだ?」

「獣人もオークもドン引きしてるよ。

 そんなのに乗ってたら、

 魔王としての品格が落ちると思うけどな」


 二人が歩いているのは、街の大通り。

 大勢の獣人やオークやその他の種族が行き交っている。


 二人とすれ違う人たちは、奇異の視線を向ける。

 ある者は面白がり、ある者は不気味がり、ある者は軽蔑の目を二人へと向ける。


 少年はそれに気づいて嫌になったが、ハーデッドは全く気にしていない。

 メンタルが強いのか、空気が読めないのか、それとも底抜けにバカなのか。


「誰に何を言われようとも構わん。

 これくらいやらぬと、

 コイツは自分の立場をわきまえぬ。

 徹底して叩きこんで教育してやるのだ」

「教育ならもっと他にやりようがあるでしょうに。

 僕だったら絶対にそんな手段はとらないよ」

「ほぅ、では聞くが、貴様ならどうすると言うのだ?」

「…………」


 少年はしばし悩む。

 そしておもむろに口を開いた。


「僕だったら……そうだな。

 誰も見ていない場所でやるね。

 誰も見ていない、人目のつかない場所でね」

「ほぅれ、貴様も同じ考えではないか」

「いや、言ったよね? 誰も見ていない場所でって」

「人目があろうとなかろうと、

 やっていることが同じなら同じなのだ。

 素直に認めたらどうだ?」

「いや……もう、なんでもないです」


 少年は意見するのを止めた。


「安心するのだ、少年。

 貴様と致すときは、妙なプレイなどせずに、

 いたってノーマルな行為にとどめておいてやる。

 まぁ、貴様が所望するのなら別だが?」

「いや、僕はそんな……。

 って、本当に僕とするつもりなの?

 魔王なのに……いいの?」

「なんだ、貴様。いまさら怖気づいたか?」


 ハーデッドが言うと、少年は……。


「怖気づいたと言うか……なんというか。

 僕なんかと関係を持って、誰も咎めないのかなって」

「細かいことは気にするな、少年。

 余に口出しできるものなどイスレイにはおらん。

 それでだ少年。さっそく今夜、どうだ?」

「おお゛! もごっ! もごごごっ!」


 馬になっているエイネリが反応を示した。


「おい、豚ぁ! 誰が発言を許した⁉

 貴様は無様に這いずっていればいいのだ!

 ほうら、さっさと歩け! この豚っ!」

「お゛っ! おお゛!」


 エイネリのしりをビシバシと叩くと、彼女は身もだえして身体をくねらせる。


「動くなこの豚っ! 乗りにくいではないか!」

「お゛! お゛! お゛!」

「あんのぉ……そこで何を?」


 気まずそうな顔をした二人のオークが話しかけて来た。

 彼らは門の前で槍を持ち、見張りをしている。


 いつの間にか魔王城の入り口まで来ていたようだ。


「見てわからぬか?

 できの悪い配下に立場を分からせているのだ」

「見間違いでなきゃぁ、その人はエイネリ様ですよね?

 その方はこの城で働いているので、

 アナタの配下ではなく、レオンハルト様の配下。

 そもそもあなたはどこの誰なの?」

「イスレイの魔王、ハーデッド・ヴァレントである」


 ハーデッドがそう言うと、門番たちは顔を見合わせた。


「あの……ハーデッド様? 本当に?

 それを証明することはできますか?」

「うむ、これを見ろ」


 ハーデッドは右手を差し出し、手の甲の紋章を見せる。


「これで分かったであろう。

 余がハーデッド本人であると」

「あのぉ……それ見せられても、

 我々にはなんなのか分からないので、

 きちんと判別できる人を呼んできます」

「あっ、ちょっと待って下さい」


 少年がオークを呼びとめた。


「面倒だからエイネリさんに事情を説明してもらったら?

 その方が手間を省けていいでしょ?

 それに、このまま城へ入るのは嫌だよ。

 一緒にいて恥ずかしいし、本当にやめて」

「分かった……貴様の言う通りにしよう」


 ハーデッドはエイネリの身体から降りて、彼女の拘束を解いた。


「ぷはぁ! 空気! 美味しいですの!」

「エイネリ、面倒だからお前から説明しろ」

「分かりましたですの!」


 エイネリは門番に事情を説明。

 ハーデッドが本物であると証明する。


「ということで、この方を通してほしいですの!」

「わっ……分かりました」


 オークたちは道を開けた。

 二人とも腑に落ちない様子ではあるが、エイネリの言葉を疑ってはいないようだ。


「さぁ、行くぞ!」

「ねぇ、ここまで付いて来て聞くのもなんだけど。

 魔王城でいったい何をするつもりなのさ?」

「決まっているだろう。

 魔王に会って、この国を案内させるのだ。

 ユージとか言うスケルトンは、

 余を自由にさせてくれなかったからな」

「あっ、そのユージさまなんですけど……」


 エイネリが発言する。


「実は昨日から行方不明になってるですの。

 イスレイのリッチに魂ごとさらわれたとか」

「なんだと?」


 ハーデッドは眉をひそめる。

 そんな芸当を全てのリッチが出来るわけではない。


「もしかしたら奴かもしれんな」

「心当たりがありますの?」

「ああ、一人だけな。

 レオンハルト殿の所へ案内しろ」


 ハーデッドは急いで王のとこへと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ