189 こうされるのが好きなのであろう?
「なっ……何するんだっ!」
驚いて抵抗する少年。
その顔には戸惑いにも似た感情が浮かんでいる。
だが……。
「あまり嫌がっているようには見えぬが。
こうされるのが好きなのであろう?」
「いや……」
戸惑う少年を見れば見るほど興奮してしまう。
こんな感情を他人に抱くのは初めての体験だ。
恥ずかし気に顔を背ける姿を見るとゾクゾクする。
無理やり押し倒してしまおうか。
ハーデッドが彼の顎から手を離すと、顔を赤らめて俯いてしまった。
「……えい」
「ちょっ! 何するんだよ⁉」
彼の両手を抑え、壁に背中を押し付ける。
筋力はハーデッドの方が上なので、少年に抵抗するすべはない。
「はっ……放して……」
「果たして本当にそう望んでいるのかな?
身体を触って欲しいと思っているのだろう?」
「違う……やめて……」
「ならば何故、抵抗しない。
本気になれば引きはがせるはずでは?」
ハーデッドが言うと、少年は腕に力を込めて振りほどこうとする。
だが……。
「ダメだな、少年。
君の力では余にかなわない」
「こんなことをして許されると?」
「許すも、許されるもない。
この場において強者は余の方だ。
力づくでも貴様の操を奪ってやるぞ」
「そんな……止めてよ……」
泣きそうな声で哀願する少年。
ハーデッドは気分が高揚するのを覚える。
「ほぅ……止めて欲しい?
では、こちらはどうなっているのかな?」
「ちょっ! そこは触らないで!」
少年が身に着けているワンピースの裾を、少しだけ持ち上げて見せる。
肌に張り付く薄い布の中で膨張したそれが、くっきりと浮き出ているのが見えた。
「ほぅら……下はこうなっているぞ。
本当は期待しているのではないのか?」
「…………」
「返答がない所を見ると、
あながち間違いではないようだな。
さて……貴様は接吻をしたことがあるか?」
「……いや」
「なら、余が初めての相手になるというわけだ」
「え? ちょ……んむっ!」
ハーデッドは無理やり口づけをする。
少年は目を見開き、驚愕のあまり身を縮ませていた。
口内へ舌を押しやり自らのそれを絡ませると、向こうも応じるかのように動かす。
なんだ、結構乗り気じゃないか。
ハーデッドにとっての生まれて初めてのキスは、あまりに大胆でクレージー。
目を閉じて全神経を舌に集中させると、何もかもが解けて交じり合うように錯覚する。
「んむっ……むっ……」
「ちゅっ……ちゅぱ……ちゅ」
人目をはばかる必要もないこの空間には、彼らを止めるものは何もない。いつしか二人はこの行為に夢中になり、時を忘れて互いをむさぼり合った。
ハーデッドは少年の腕の拘束を解き、そっと相手の腰の周りに手を回す。そのまま彼の身体を抱きしめ、なまめかしく自分の腰を動かす。
このまま行為に及んでしまっても構わない。
処女を捧げるにはふさわしい相手だろう。
「「ぷはぁ……」」
唇を離すと、混ざり合った唾液が糸を引き、二人の口と口の間に垂れ下がる。それが切れて顎に垂れ下がる頃合いに、二人は再び唇を重ねた。
それから何度も、何度も、キスをした。
時間を忘れ、舌と舌とが溶け合うように絡まって、気持ちが一つになるのを感じた。
そして……。
「少年……続きがしたいとは思わぬか?」
ハーデッドは彼の目を見て問う。
「…………」
言葉による返答はない。
しかし……彼は小さく頷いた。
「そうか……余を受け入れると申すのだな?
なら、遠慮は不要。最後まで致そうぞ」
ハーデッドは身をかがめ、改めて彼の下腹部を確認する。
生の姿を拝もうと下着の裾に手をかけ、一気に引きずりおろそうとした……その瞬間だった。
「ちょっと待ったあああああ! ですの!」
白い空間に女性の声がこだまする。
「……なんだ? 誰かいるのか?」
「二人でいったい何をしているですの⁉
即刻行為を中断するですの!」
ぎゃぁぎゃぁわめく女の声。
どこから聞こえてくるのか不明だが、その声の主に心当たりがあった。
「その声……まさか、エイネリか?」
「そのまさかですの!
わたくしを覚えて下さったのですね!
感動のあまり涙がとまりませんの!」
「余を閉じ込めて、なんのつもりだ?」
「そんなの決まっているですの!
ハーデッド様を好き放題に嘗め回して、
足の指の股から、うなじにかけてまで、
徹底的にむしゃぶり尽くすですの!」
なんとも醜悪な返事が返って来た。
だが、この程度で動揺するハーデッドではない。
「それが貴様の願望だと言うことは理解した。
果たして私を好き勝手に弄べるほど、
貴様は強いのだろうか?」
「勿論、わたくしの力では不可能ですの!
でも! わたくしが心血を注いで作り上げた、
特別VIPルームの力を借りれば可能!
我が英知の結晶とくとご覧あれですの!」
壁の一部がせり上がり、大きな穴が開いた。
そこから巨大な機械が姿を現す。
人間の腕のような装置の先には、カニのハサミの形をしたパーツ。それがガチガチと音を立てて迫りくる。
よくもまぁこんなものを作ったと、ハーデッドは内心で感心してしまう。
「ねぇ……あれ、どうするの?」
少年はハーデッドの後ろに隠れ、腕をつかんで震えている。
「万事、余に任せておけ。きっと全て上手くいく」
「上手くいくって……本当に?」
「余を誰だと思っている?」
「えっと……魔王さま?」
ハーデッドはその言葉ににんまりと頷いて答える。
「その通り、余はハーデッド・ヴァレント。
黄泉の国の者どもを従える不死者の王!
こんな粗末な牢獄など、
直ぐに打ち破ってくれようぞ!」
彼女は声高らかに宣言した。




