183 真夜中のデート
「じゃぁ……そろそろ行くか」
「……うん」
俺はミィの手を取り、エスコートする。
どくへ行くか全く決めてないが、
適当にあちこち歩きまわれば満足するだろう。
……多分。
「ユージさん、気を付けてね。
暗い夜道は何が起こるか分からないから」
マムニールが優しく声をかけてくれる。
この人は口だけとかではなく、本当に心配してくれているのが分かる。
やさしいなぁ。
「ミィちゃんもね。何かあったらすぐに戻って来るのよ」
「はい……奥様」
ミィは深々とお辞儀をする。
「じゃぁ、行ってくるね、ベル、シャミ」
「楽しんできてね」
「いいなぁ……ミィちゃん」
二人にも挨拶をするミィ。
なんだかんだで仲良くなったのかな?
「プゥリよ。もう一仕事頼むぞ」
「その子も乗っけるのか?」
「ああ……大丈夫だろ?」
「人を乗せて走るのは性に合わないのだ」
露骨に嫌そうな顔をするプゥリ。
人を乗せて走るのが馬の本分だろうが。
「あら、その子は新しいお仲間さん?」
「ええ、そうなんですよ。
クロコドから紹介されたんですけど……。
これがなかなかに扱いづらくて」
「でしょうね」
クロコドの名前を聞いて真顔になるマムニール。
名前を聞くのも嫌なようだ。
「プゥリなのだ。初めましてなのだ!」
「私はこの農場のオーナーのマムニールよ」
二人は握手を交わすが、どうもマムニールはプゥリを警戒しているようだ。クロコドの紹介と聞いていい気はしないのだろう。
「さて、プゥリ。
嫌々言ってないで乗せてもらえるか?
あんまりわがままを言っていると、
もう仕事を紹介してやらないぞ」
「ううん……仕方がないのだ。
さっさと乗ればいいのだ」
ダウナーなテンションになるプゥリ。
人を乗せて走るのがよっぽど嫌なようだ。
俺とシロの時はそんなに重くなかった。
だが、ミィは小柄とはいえ、普通の女の子と同じくらいの体重はある。そんな彼女を乗せるだけでも結構な負担になるのだろう。
人を乗せるのって、ケンタウロスにとっては重労働なのかもな。
「よいしょ……と」
ミィは持ち前の身のこなしの良さで、ふわりとプゥリの背中にまたがる。俺とはえらい違いだ。
「それじゃぁ、出発なのだ!」
俺が乗るとプゥリは一気に加速。
深夜とはいえ、月明かりがあるので、全くの暗闇ではない。
わずかな明かりを手掛かりに、プゥリは軽快に草原を駆け抜けていく。
「とっても早い!
プゥリさんはケンタウロスの中で早い方なの?」
「プゥリよりも速く走れる奴が沢山いるのだ!」
「本当に? 凄いね!」
「ああ! 私たちは凄いのだ!」
ミィとプゥリの会話。
放っておいたらどんどん調子に乗るような気もするが、二人とも楽しそうにしているので、水を差すようなまねはしない。
ミィが喜んでくれればそれでいいのだ。
「ユージ! これからどこへ行くのだ!」
「そこらへんテキトーに走り回ってくれ。
面白そうな場所があったら行ってもいいぞ」
「分かったのだ!」
適当な注文も任せろと引き受けるプゥリ。
コイツも適当な感じで指示を出せば、自分の解釈で勝手に動いてくれる。
細かい指示は受け付けないが、目標を設定すれば自分でなんとかするタイプかな。だんだん扱い方が分かって来たぞ。
しかし……問題なのは何を目標とするかだ。
物を運ぶのが苦手なコイツに、何を申し付けろと言うのだ。
「見るのだユージ! 向こうに誰かいるのだ!」
「……え?」
プゥリは遠くを指さすが、俺には何も見えない。
「俺には何も見えんぞ!」
「ユージ、私にも何か見えるよ」
「え? ミィにも?」
「うん……あの建物の近くに、誰かいる。
それも一人や二人じゃない」
こんな町はずれの何にもない場所に人?
何をしてるんだろうか……怪しい。
「ちょっと様子を見に行ってみるか……」
「分かったのだ!」
「ちょっ! 待て! 真正面から近づく奴があるか!」
「行くのだああああああああ!」
俺が止めるのも聞かず、プゥリはまっすぐに進んでいく。
すると段々、俺に目にも何があるのか見えてきた。
進行方向の先には古ぼけた石造りの建物がある。
それはかつて砦として利用されていた城塞。使われなくなってかなりの時間が経過しており、立ち寄る者は皆無。
子供たちが遊び場にしていると聞いたが……。
こんな夜中に人がいるのは変だろう。
明らかにくさい。
何やら悪い予感がする。
本当ならこっそりと近づきたいが……。
「バカっ! 止まれ! 止まれって言ってんだろ!」
「止まれないのだああああああああああ!」
突撃モードに入ったプゥリは止まらない。
俺の声なんて聞いていないのだろう。
砦の近くで何かが動き出した。
あれは……アンデッド?
砦にいたのはスケルトンの兵隊。
奴らはこん棒や農具などで武装しており、明らかにこちらへと敵意を向けている。
「アイツらをやっつければいいのか?」
「え? お前、戦えるの?」
「多少は心得があるのだ!」
「でも武器なんか何処にも!」
「武器ならあるのだ! ひひーん!」
プゥリはスケルトンの前で大きく身体をのけぞらせ、ご自慢の蹄を頭部へと叩きこんだ。
小気味よい音を立てて砕け散る頭蓋骨。二体のスケルトンが一瞬で無力化される。
異変を察知したのか、砦の中から次々とスケルトンが湧いて出る。
その数およそ50体。
「ミィ、気をつけろ! 敵が……あれ?」
俺の後ろにいたはずのミィがいない。
「えいっ! てやっ!」
ミィは拾ったこん棒を手にスケルトンたちと戦っていた。
彼女が一振りすると、数体の敵が一瞬でバラバラになる。
相変わらずスゲー強さだ。
「プゥリ! 降ろしてくれ!」
「勝手に降りろなのだ!」
「無茶言うな! うわー!」
「どんどん倒すのだ!」
プゥリはスケルトンのど真ん中に突っ込んでいき、蹄で次々と敵を踏みつぶしていく。
身体の前半分を大きく持ち上げるので、そのたびに俺は振り落とされそうになる。
どこか掴まるところはないか⁉
手綱なんて付いてないから何処にも……。
「ええいっ!」
ミィは魔法を使い得物に強力な力を付呪した。
ただのこん棒が蛍光灯みたいに光っている。
……なんの魔法だよそれ。
ミィがこん棒を振り下ろすと光の波が発生。
波に呑まれたスケルトンたちはその場に崩れ落ち、ただの白骨死体へと戻る。
すげーなその技。
セレンがやってたのと同じ系統の魔法か?
今の一撃でかなりの数を撃破できた。
ミィは残りのスケルトンもこん棒で殴って殲滅。
勇者様がこんな雑魚に負けるはずないよな。
「良くやった! ミィ! すごいじゃないか!」
「えへへ、ちょっと本気出しちゃった……って!
ユージ! なにしてるの⁉」
「……へ?」
ミィに言われてはっとする。
振り落とされないと必死になっていた俺は気づかないうちにプゥリの……。
「まったく、エッチなのはいけないのだ!」
プゥリは両乳をわしづかみにされても、まったく動揺していなかった。




