181 自由に生きたい
シロを自室へ置いて、農場へと向かう。
ハーデッドがいなくなったので、ミィのシフトを気にする必要もなくなった。今から会いに行っても問題はないだろう。
「あっ! ユージさま!」
城を出ようとしたところでプゥリと出くわした。
今まで何処へ行ってたんだ。
「プゥリか。トゥエと遊んで満足したか?」
「あいつ、ずっと飛んでて下りて来なかったのだ。
速さ比べをしようって言っても、
走るのなんて嫌だって断られちゃったのだ」
「そうか……それは残念だな」
「いつかアイツが飛ぶより速く走ってやるのだ!」
そう言って鼻息を荒くするプゥリ。
空を飛ぶ奴に速さで勝てるとは思えないぞ。
「それにしてもユージさま、何処へ行ってたのだ?
翼人族の集落へ戻ってもいないし、探したのだ」
「いや、俺が勝手にどっか行ったみたいに言うな。
お前が帰ってこないから、
先に子供たちを連れて街へ戻ったんだ」
「ふぅん……」
「それにな、俺には色々とやることがあるんだよ。
こんなんでも一応この国の幹部だからな」
「なんだかとっても大変なのだ」
そうだよ。
大変だからお前みたいな自由人と一緒にするな。
「それはそうと……今日働いたお駄賃を頂きたいのだ」
「は?」
給料の前借か?
月初めにまとめてもらえるはずだが?
「あのなぁ……みんな給料日まで待ってるんだぞ。
一人だけ特別扱いなんてできない」
「何を言っているのだ? 給料日?」
プゥリは首をかしげる。
こいつ……何を言ってんだ?
「今までどう給料を受け取ってたんだ?」
「クロコド様は仕事をするたびに払ってくれたのだ」
「ううん?」
どうなってるんだ?
魔王城で働いている者は、金を管理する部門から給料をもらっている。当然、その仕事を取り仕切る幹部がいるわけだ。
担当しているのは蛙の獣人の幹部。
あまり深くは関わっていないが、仕事はきちんとやるタイプらしい。
予算を通すときはアイツの了承を貰わないといけない。つっても、魔王の了承を先に貰っておけば問題なく通る。別に蛙の顔色をうかがう必要はない。
クロコドの配下もそこで給料を受け取っているはずだ。
プゥリも同じかと思っていたが……。
「お前はちゃんと登録を済ませていないのか?」
「登録?」
プゥリはまたも首をかしげる。
魔王城で働く者は全員が登録を済ませ、担当する部門できちんと管理されている。これは牛の獣人の幹部の仕事。
こちらも問題なく機能しているので、俺は特に口を出していない。
「魔王城で働く者は、
名前を登録することになっている。
クロコドの所で働いていたのなら、
当然お前も登録していたはずだが?」
「そんなことしてないのだ。面倒くさいし」
「ええっ……」
面倒くさがって登録してない?
じゃぁ、コイツの給料は……。
「なぁ……まさか、クロコドは……。
自分の財布から賃金を支払っていたとか?」
「良く分からないけど、多分そうなのだ。
いつも直接お金をくれていたのだ」
「ううん……」
クロコドはこんな適当な奴の面倒をみていたのか。
「プゥリ……面倒だとは思うが……。
きちんと登録を済ませるんだ。
そうしたら正規の仕事を斡旋してやる」
「それは面倒だから嫌なのだ」
「なんで?」
「プゥリは自由に生きたいのだ!
誰にも縛られたくないのだ!」
どうしようもねぇなコイツ。
こんな奴を配下に加えるなんて御免だ。
しかし、引き受けると言ってしまったので、嫌でも面倒を見なければ。
「分かった……今日の分は俺が支払う。
だが、フリーな立場で働きたいのなら、
もっと別の働き口を見つける必要があるな」
「どういうことなのだ?」
「お前がやりたいと思える仕事を見つけるってことだ。
俺の下で働くよりもそっちの方がいいだろう」
「良く分からないけど……言う通りにするのだ」
プゥリは納得した。
つっても、コイツが気持ちよく働ける方法なんて、俺には見当もつかない。
物を運ぶのも嫌。
人を乗せるのも嫌。
束縛を嫌い、自由に働きたい。
流石にわがままが過ぎる。
コイツにあう仕事を探すのは骨が折れそうだ。完全に希望に合う仕事は見つからないだろうから、妥協を迫ることになるだろう。
果たして納得するだろうか。
「とりあえず、今日の分は貰うのだ」
「分かった。だが、もう一仕事してもらうぞ。
俺を農場まで連れて行ってくれ」
「まだ仕事があるのか?」
「ああ、一番大切な仕事がな」
「ユージも大変なのだ」
そうだよ、大変なんだよ。
だからあんまり面倒を言ってくれるな。
「ほら、今日の分だ」
「ありがとうなのだ!」
賃金を受け取るプゥリ。
嬉しそうにしているのは良いのだが……。
彼女は胸当て以外の衣類を身に着けていない。ポシェットのようなものも持っていない。その金を何処にしまっておくつもりなのか。
「なぁ……その金、どうするつもりだ?」
「どうとは?」
「どうやって持ち運ぶんだ?」
「ああ、それは……」
プゥリは胸元に今渡した銅貨を挟み込む。
「これで大丈夫なのだ!」
……どこがだよ。
何かのはずみで落っことしちゃうだろ。
「はぁ……」
「なんなのだ?」
「いやぁ、本当になんも考えてねぇんだなって」
「誉めてるのか?」
「いや、全然」
「……そうか」
コイツもレオンハルトと一緒でカラッポなんだろうな。
シロに心を読ませなくてもわかる。
「とりあえず農場まで連れて行ってくれ。
もう随分と遅いが、もうしばらく付き合ってもらうぞ」
「まかせろなのだ!」
俺はプゥリに乗ってマムニールの農場へと向かった。
マムニールの農場。
ミィを探す。
「あっ、ユージさん」
シャミが声をかけてきた。
彼女はまだメイド服を着ている。
「シャミ、その恰好はどうしたんだ?
もうハーデッドの世話はしなくてもいいはずだろ?」
「ええ、そうなんですけど……。
マムニールさまからしばらく続けて欲しいと言われて、
彼女のお世話をさせていただくことになったんです」
「てことは……出世したってことかな?」
「まぁ、そんな感じですね、ハハハ」
照れくさそうに笑うシャミは、ちょっぴり緊張した感じ。
まだメイド服姿に慣れていないのだろう。
「それにしても突然だな」
「ええ、そうですね。
今までは地味な役回りでしたけど……。
いきなり花形の仕事をすることになったので、
緊張しちゃって」
「まぁ……君なら大丈夫だろう。
誠実に仕事を続けて来たんだから、
当然の評価じゃないかな?」
「そう思ってもらえると良いんですけどね。
仲間の奴隷たちの中には、
快く思ってない人がいるみたいで」
そう言うもんなのか。
仲間が成功したんだから、素直に祝ってやればいいと思うんだがな。
「悪く言われるのも今のうちだけだ。
きっとすぐに君の働きぶりを見て、
みんな考えを改めるさ」
「そうだといいんですけどね……。
今日もミィちゃんに会いに来たんですか?」
「ああ、そのつもりだ」
「じゃぁ早速呼んできますね」
シャミはマムニールが住む館へと向かう。
ミィもあそこで働いているのか?
「なぁなぁ……ここはなんなのだ?」
プゥリが尋ねてきた。
「農場だよ、言ったろ」
「働いているのは人間なのか?」
「獣人と人間のハーフだよ。
彼女たちはみんな奴隷なんだ」
「ふぅん……」
プゥリはケモミミハーフをどう思うのか。
やっぱり差別するんだろうか?
「おまたせしましたー」
シャミがミィを連れて戻ってきた。
意外と早かったな。
「……うん?」
ミィの姿を見て俺は固まる。
彼女は……。




