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179 にくにくしぃキノコ

 トゥナと話をつけた俺は、さっそく子供たちを連れて街へ戻ることにした。


「と言うことで皆、これから街へ帰りますよー」

「「「「「はーい」」」」」


 子供たちは落ち着いており、指示に従っている。


 何人かは前回さらわれた子らしく、あまりおびえた様子もなかった。

 慣れたら慣れたで困るんだが……まぁいいか。


「本当に申し訳なかったであります!」


 いつの間にか戻ってきたトゥナが深々と頭を下げる。


「まったく……こっちの身にもなって欲しいよ。

 住人から怒られるのは俺なんだぞ」

「はい、何とお詫びしたらいいか……」


 しょぼんとするトゥエ。

 ちょっと可愛そう。


「今後このようなことが無いよう説得しますので、

 大目に見てやってください、はい」


 既に群れの一員になったかのようにふるまうヨハン。

 コイツが何考えてるのかよくわかんねぇ。


「ヨハンさんは帰らないでありますか?」

「しばらくはここに残るつもりです、はい」

「そうですか、よろしくであります!」

「こちらこそよろしく、はい」


 握手を交わす二人。

 トゥエもヨハンもにっこにこの笑顔。


 良かったんだか、悪かったんだか……。


「そう言えばヨハンさんは……

 あっちの方は得意でありますか?」

「あっちの方とは?」

「夜の営みのことであります」

「あっ……そういう」


 面と向かって聞くのはどうなの?

 突っ込みたいがやめておく。


「こう見えてもわたくし、

 男としての能力に自信があります、はい。

 期待してくれてもいいですよ」

「私は年下しか受け付けないので、

 ヨハンさんは遠慮するであります。

 群れの他の女性たちは男に飢えているので、

 そっちの相手をお願いしたいであります」

「あっ、はい」


 向こうから話を振られて答えたら、一方的にフラれてしまったヨハン。心なしか顔が引きつっているように見える。


「なぁ……この群れには男もいるだろ?

 他所から男を連れてくる必要があるのか?」

「翼人族の男たちは直ぐにギブアップするであります。

 うちのお父さんも、お母さんに攻められて、

 泣きながら止めてくれと叫んでいるであります」

「あっ、そう」


 翼人族の男ってつくづく頼りないな。

 女性たちはあんなにたくましいのに……。

 どういう遺伝子してるんだろ。


「まぁ……ヨハン殿もあまり無理をしないで下さい。

 何か問題があれば相談に乗りますので……」

「ご配慮、痛み入ります、はい」


 胸に手を当てて深々と頭を下げるヨハン。


「そういえば……プゥリはどうした?」

「一緒に草原を動き回っていたら、

 飽きてどっか行っちゃったであります」

「そうか……分かった」


 楽しく遊んで満足したのかな。


 帰りは翼人族に送ってもらうことにしよう。

 日が暮れる前までに帰れるはずだ。


「ユージ」

「……なんだ?」

「ハーデッドのことはいいの?」

「おお、そうだった」


 忘れるところだった。

 シロがちゃんと覚えていてくれてよかったよ。


「トゥエ、悪いが頼みたいことがあるんだ」

「頼みたいこと?」

「実は……」


 俺は行方不明になったハーデッドのことについて伝える。


「その人を探せばいいんでありますね?」

「ああ、ゲンクリーフンを中心に捜索してくれ」

「分かりましたであります!」


 翼人族が手伝ってくれれば広範囲を捜索できる。

 ハーデッドが見つかる確率も上がるだろう。


「じゃぁ、そろそろ帰るから……。

 俺たちを街まで送ってくれないか?」

「分かりましたであります!」


 トゥエは集落から翼人族の女性たちを集め、広場に集合させる。


 女性たちの体つきを見ると……まぁ、すごい。

 どいつもこいつも筋肉もりもり。

 ついでに胸もデカい。


 集まってきた人の中で一番背が高く、褐色の肌をした黒い羽根の女性が、俺の所まで来てひざまづいた。


「ユージさま、族長より、

 皆さまを送り届けるよう仰せつかっています」

「おお……頼むぞ」

「では、失礼して……」


 その女性は足の爪で俺の身体をつかむと、背中の翼をはばたかせて飛翔を始める。


 以前にトゥエに運んでもらった時もそうだが、翼人族に運んでもらうと自分が捕まった獲物になった気がする。

 子供たちもこんな気持ちだったのだろう。


「シロちゃんは私が運ぶであります!」

「……よろしく」


 トゥエがシロを足でつかんで飛び始めた。

 他の翼人族も次々に空へ飛び立っていく。


「ユージさま、お気をつけてぇ!」


 俺たちを見送るヨハンはハンカチを手で振って、別れの挨拶をしてくれた。


 彼の身体がみるみる内に小さくなり、点になって見えなくなる。


 俺には空を飛ぶ能力は備わっていないので、こうして宙に浮く経験はあまりしたことがない。


 だが……悪い気はしない。

 たまに楽しむ分には問題ないな。


 風を受けて軽快に空をかける翼人族たち。

 夕日を浴びて空を舞う彼女たちの姿は、なんとも美しかった。






 数分で街まで到着。

 俺たちを送り届けた翼人族はさっさと帰って行った。


 それから子供たちを自宅まで送り届け、親御さんからは文句を言われ、なんども頭を下げて謝って回った。


 損な役回りだとは思うが仕方がない。

 彼女たちをこの国へ迎え入れたのは俺だからな。


「なぁ……シロ。

 トゥナは何を考えてたんだ?」


 俺は魔王城へ向かう途中、シロに聞いてみた。


「族長の旦那の具合が悪く、相手をしてもらっていない。

 だから直ぐにでも男が欲しかった」

「……そうか」


 トゥナの旦那……名前はなんて言ったかな?


 たしかサンラドだったか。

 見た目からして頼りなさそうだったからなぁ。直ぐに精力が尽き果ててしまうのだろう。ヨハンにその代わりが務まるとは思えんが。


 翼人族の婿探しの件は引き続き対応を模索していこう。

 マムニールが言ったように、奴隷の男子をあてがうのが一番な気もするが……。彼女たちが男に対する態度を軟化させない限りは、この方法を取るのは気が引ける。


 それに……多分だが。

 彼女たちは純粋な獣人を要求すると思う。夜の相手をするなら体力がある奴の方がいいからな。


「族長の頭の中には、沢山のキノコが生えていた」

「キノコ?」

「細長くて肉肉しぃキノコ」

「…………」


 もう二度と翼人族の集落にシロを連れていくまい。

 俺は心に決めた。


「そういえば……ヨハンなんだが……。

 あいつが何を考えてたか分かるか?」

「分からない。読めないように封印が施されていた」

「え? 封印?」

「あの人の心は私には分からない。

 カギがかかっている」


 心を読むのを防ぐカギ?


 そう言えば……。

 サナトは心に鍵をかけ、心情を読み取られないようにしたと言っていた。

 それと同じ魔法を使ったのだろうか?


「ありがとう、シロ」

「役に立てた?」

「ああ……大成果だ」

「……うれしい」


 俺はシロの頭を優しく撫でてやる。


 ヨハンは警戒しておいた方がいいな。

 人に知られたくない事実を抱えているのだ。あいつが何をしにこの国へ来たのか分からないし、手放しで受け入れていい奴じゃない。


 監視をつける……か。

 トゥエに頼めば奴を見張ってくれるか?

 そもそもエルフなんて信頼できたもんじゃない。あいつら、旗色が悪くなると直ぐに裏切るからな。


 俺は一抹の不安を覚え、魔王城へ向かった。

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