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178 獲物を狙う猛禽類

「……あれ?」


 翼人族の集落で、さらわれた獣人ショタに交じり、ヨハンが一緒にいるのを見つけた。


 エルフの彼がなぜここに?


「翼人族にさらわれたのですか?」

「ええ、まぁ……そんなところです、はい」


 どうやら強制的に連れて来られたらしい。


 獣人だけでなくエルフまで……。

 見境がなくなってきたな。


「トゥエ、これはどういうことだ?」

「なんか簡単に連れて来れそうだったので。

 なんとなーく連れてきちゃったであります」

「君たちはなんとなーくで人をさらうのか」

「まぁ……大目に見て欲しいであります」


 ダメだよ。

 普通にアウトだから。


「ユージさま、ここの人たちは何者なのだ?」


 プゥリは翼人族を知らないのか、わくわくした様子であたりを見渡している。


「彼らは翼人族。翼の生えた一族だよ」

「速いのか?」

「え?」

「速く走れるのか?」


 なんで背中の翼を見て走ると思うんですかねぇ。


「私たちは別に走ったりしないであります。

 背中の羽で何処までも飛んで行けるであります!」

「そうなのかー。プゥリより速く飛べるのか?」

「勿論であります!」

「じゃぁ、早速比べっこをするのだ!

 どっちは速く走れるか勝負なのだ!」

「望むところであります!」


 プゥリは岩場を駆け下りてどっか行った。

 トゥエも飛んでどっか行った。

 あいつらホント自由。


「はぁ……本当に手が付けられない奴らだ」

「心中、お察しいたします、はい」


 ヨハンはいつもと変わらないにこやかな表情で、俺に同情したようにみせる。


 心の中ではどう思ってるんだろうなぁ?

 バカな部下に振り回されている俺を見て、アホな奴だと嘲っているのかもしれない。


 そんなことより、トゥナと話をしないと。

 子供をさらうなと注意しても数日でまたこれ。ここはガツンと言ってやらないといけない。


「ヨハンさん、付いて来てくれますか?

 族長と話をしないといけないので」

「勿論です、はい」


 俺はヨハンを連れてトゥナの所へ。

 彼女はテントにいた。


 翼人族のテントは割としっかりとしていて、木を組み合わせて作った骨組みに、獣の皮を縫い合わせた天幕を張って作られている。


 テントの中央には火が焚かれており、トゥナは炎を眺めるように胡坐をかいて座している。

 彼女は大きな煙管きせるでたばこを吸っていた。


「よく来たな、ユージ。今日は何の用だ?」


 悪びれる様子もなく、堂々と俺を迎えるトゥナ。

 怒られると思ってないのかね。


 おでこには絆創膏を貼っている。

 よほどひどい怪我だったのか、まだ傷が塞がらないらしい。


「今日はあるお願いをするために来ました。

 ですが……その前にお聞きしたい。

 何故、また子供たちをさらったのですか?

 それとこの男も」

「はぁ……またその話か。

 まぁ、良い。とりあえず座れ」


 顎をしゃくって着席を促すトゥナ。


 焚火の周りにはいくつも座布団。

 言われたとおり適当な場所に座る。


「では、わたくしも失礼して……」


 ヨハンが俺の隣に座ろうとすると……。


「お前はダメだ。座っていいのは客人だけ」

「え? あっ……はい」


 ヨハンの着席を許可しないトゥナ。

 なんでダメなんだろう。


「彼も客人のはずでは?」

「こいつは私たちの夫になった。だからダメだ」

「いや、当人は同意していないですよね?」

「何を言っている。同意など不要だ。

 ここへ連れて来た男はみな、私たちの所有物だ」

「ええっ……」


 さも当然のように言うトゥナ。

 この人の頭の中はどうなっているんだろう。


「だそうですが……どうしましょう、はい」


 流石のヨハンもこれには困った様子。

 なんとかしてやりたいが……。


「以前にもお伝えした通り、

 略取、誘拐はご法度です。

 連れて来られた子供たちも、この男も、

 元居た場所へ帰します」

「何を言っているんだ……お前は」


 お前こそ何言ってんだよこの野郎。

 マジでちゃんと話を聞いてくれないかな。


「私の言っている意味がわかりませんか?」

「ああ……まったく。私たちはどうやって子孫を残せと?」

「ですから、きちんとしたプロセスを踏んで……」

「力づくではなく、話し合いで合意を取ればいいんだな?」


 そうだよ。

 分かってるなら初めからそうしてくれ。


「だそうだ、ヨハン。お前は私たちの夫だ、いいな?」

「え? あっ……」


 流石にヨハンは『はい』とは言わなかった。


「あの……」

「断るって言うのかい?」

「いえ……その……」


 言いたいことがあるのならはっきり言えば良い。

 なんですんなり断れないかな。


「ヨハンさん、ちゃんと言わないと」

「ええっと……そうですね、はい。

 まぁなんといいますか……。

 別にこのままでもいいかなと」

「……え?」


 ヨハンの答えに耳を疑う。


「正気ですか?」

「なんて言うか、面白い体験かなと思いまして、はい」

「一度同意したら、群れから出られなくなりますよ。

 本当にそれでもいいというのですか?」

「ええ、まぁ……」


 当人がいいって言うのなら別に構わんけどさ。

 しかしヨハンは何を考えているんだろうか。


「ヨハンさん、本当によろしいのですか?」

「本人がいいって言ってるんだから、もういいだろ。

 アンタもしつこいな、ユージさん」


 イライラした口調でトゥナが言う。


「ですが……」

「ユージさま、わたくしは大丈夫です、はい。

 しばらくは彼女たちと一緒にいようかと」

「いつかは解放されると?」

「ええ、元々そう言う約束でした。ですよね?」


 ヨハンが尋ねるとトゥナは……。


「まぁ……私たちの目的はそいつの種だからな。

 しばらくしたら解放してやってもいい」


 そう言って煙管を咥え、勢いよく煙を吐き出すトゥナ。

 相手の事情なんてお構いなしだな。


「というわけで、心配はご無用です、はい」


 にこやかに両手をこすり合わせるヨハン。


 コイツはこういう連中の扱いに慣れてそうだな。

 案外、上手く群れをまとめられるかもしれん。


 トゥナは見ての通り、何が何でも我を通すタイプ。人の話なんて聞きゃあしない。ヨハンのようなサポート役が傍につき、適度に軌道修正してやった方がいいのかもな。


 エルフは表向き従順に従うふりをするが、裏では舌を出して相手を見下している。ヨハンもトゥナに支配されるほど馬鹿ではない。見た目以上にしたたかな男のはずだ。


 と言うことで……。

 俺はこの件にこれ以上、干渉しないことにした。

 ヨハンは放っておいても大丈夫だろう。


 しかし、子供たちは帰してもらわないと。

 こればっかりは同意してもらわないと困る。


「分かりました。

 ヨハン殿はこの群れに残るということで。

 ですが子供たちは……」

「ああ、連れて帰っていいぞ。好きにしろ」


 あっさりと子供たちの解放を認めた。

 なんでだろう。


「あの……本当によろしいのですか?」

「ああ、構わない。

 早く帰らないと日が暮れる。

 群れのメスたちに送って行かせるが?」

「では、是非とも」


 元々子供たちの方は解放するつもりだったらしい。


「どうやら取引の材料にされたようですね、はい」


 ヨハンが小声で耳打ちをする。


 なるほど。

 子供たちをさらったのは、ヨハンの捕囚を認めさせるためか。


「どうも意図が分かりかねますね。

 そこまでしてヨハン殿を?」

「どうやら彼女たちは前例を作りたかったようです。

 成人男性ならさらっても大丈夫だと」


 前例……ね。

 同意がなければ絶対に認められないがな。


 定期的に見回りをする必要がありそうだ。

 子供たちだけでなく、大人までさらわれたら、翼人族は国中から目の敵にされ、彼女たちの居場所はなくなるだろう。


 そうなる前に手を打たないと……。


「何をこそこそ話してるんだい?」


 トゥナが俺をぎろりと睨みつけて言う。

 その瞳はまさしく、獲物を狩る猛禽類の目だった。

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