173 ヴァルゴの働き口
魔王を城へ連れ帰った俺は、ある場所へと向かった。
そこは……。
「よう、ヴァルゴ。調子はどうだ?」
「ユージさま? 見舞いに来てくれたッスか?」
ヴァルゴはベッドの上で横になり、ゴロゴロとくつろいでいた。調子は悪くなさそうだ。
マティス一派との戦いで傷ついた彼は、クロコドに面倒を見てもらっている。負傷したと聞いていたが、それほど傷は深くないように見える。
「大丈夫か? ケガの具合は?」
「この通り、何ともないっス!」
身体を動かして健在ぶりをアピールするヴァルゴ。
この様子なら大丈夫そうだな。
「元気そうで安心したぞ。
ケガをしたと聞いて心配だったのでな」
「その割には来るのが遅かったッスねぇ。
もっと早く来てくれても良かったんじゃ……」
直ぐ調子に乗る。本当にこいつは……。
「すまなかったな。
こちらも立て込んでいて、
なかなか時間が作れなかったんだ」
「まぁ、仕方ないッスねぇ。
大目に見るッスよ!」
そう言ってサムズアップするヴァルゴ。
コイツ本当に調子いいな。
「ところで……だ。
お前に話があるんだ」
「え? なんッスか?
もしかして自分の幹部入りの話ッスか?」
「いや……そうじゃなくて……」
「いやぁ、自分も晴れてこの国の幹部入り!
故郷の家族にも良い報告ができそうッス!」
話を聞かねぇな……マジで。
流されてはいけない。
ちゃんと言うべきことを言うのだ。
「貴様の幹部入りはあり得ない。
その職に見合うだけの能力がないからな。
ハッキリ言って役不足だ」
「その役不足の使い方、誤用ッスよぉ」
うるせぇな、ごちゃごちゃとぉ……。
「だが、そんな貴様にもチャンしゅ……。
チャンスをやろうと思ってな」
「舌がないのに、どうやって舌を噛むッスか?」
「お前……いい加減にしないと、もう何もしてやらんぞ」
「それは勘弁ッス! ちゃんと話は聞くッス!
許して欲しいっス!」
両手を合わせて懇願するヴァルゴ。
そろそろうんざりしてきた。
「貴様、俺の下で働くつもりはないか?」
「給料はどれくらい貰えるッスか?」
「まぁ……この城で働いている奴の平均くらいだな」
「……それって、普通の待遇ってことッスか?」
明らかに不満そうにしているヴァルゴ。
断るのならそれまでだ。
コイツは俺を守ってくれたので、恩を返すためにスカウトした。しかし、待遇が気に入らないのなら雇う必要もないだろう。
「嫌なら他を当たってくれ。
お前を雇ってくれる人はいくらでもいるだろう」
「ええ、そうッスね」
意外にも、ヴァルゴはあっさりと引き下がった。
「なんだ……諦めるのか?」
「諦めるつもりは無いっスよ。
というか、もうすでに働き口は決まっているッス」
「……なんだと?」
それってまさか……。
「おお、ユージよ。来ていたのか」
タイミングを見計らったかのようにクロコドが部屋へ入って来た。
「これはこれは、クロコドさま。
祭りの準備の方は順調でしょうか?」
「まぁ……それなりに上手くいっている。
当日までにはなんとか間に合いそうだ」
「それはなにより」
「それで、貴様はコイツに何の用だ?」
「実は……」
俺はクロコドに、ヴァルゴをスカウトしに来たことを伝える。
「ふむ……そうだったのか。
しかし、一足遅かったな。
この男はわしに仕えることが決まっている」
「え? まさか……」
「わし直属の配下にすることにしたのだ。
この前の戦いぶりは実に立派であった。
わが軍に是非とも欲しい戦力である」
あちゃー。
クロコドに先を越されたかぁ。
……別に良いけど。
「ということで、自分はクロコドさまの元で働くッス!
けちんぼのユージさまとは働けないッス!」
などと、遠慮なくものを言うヴァルゴ。
正直、コイツを引き取ってくれると言うのなら、それはそれで構わない。
彼を雇おうとしたのは父であるテルルへの恩返しと、この間の借りを返すためだ。無理して俺の配下にする必要はない。
それに……コイツにどんな役割を振ればいいのか見当が付いていなかった。
秀でた才能があるわけでもなく、かといって万能タイプでもない。配下にしても持て余していただろう。
クロコドが面倒を見てくれるのなら、俺としては言うことはない。彼に全て任せてしまおう。
「左様ですか……残念ですね。
クロコドさまが迎え入れると言うのであれば、
それを止める理由もありません」
「ふむ……やけに素直に引き下がったな。
まぁ、構わんが……。
ついでに……と言っては何だが。
ユージよ、一つ頼まれてくれぬか」
クロコドから俺へのお願い?
なんだろうか。
「はぁ……何でしょうか?」
「わしの部下が一人、退職を申し出てな。
次の働き口を探してやりたいと思っていたのだが……。
貴様の所で面倒を見てくれぬか」
「え?」
クロコドの部下が退職?
それを俺の下で働かせろと?
上司が変わっただけで職場は一緒なのだが……。
その人はそれでいいのだろうか?
「クロコドさまの頼みとあれば、
断るわけにはいきません。
しかし……本人はなんと申しているのですか?
引き続き魔王城で働くことに問題は?」
「その点については仔細ない。
他の者の指揮下に入りたいと言われただけだ。
もっとわしに人望があれば、
彼女を引き留めることもできたのだが……」
「……左様で」
「本来であれば、手放したくなかった。
断腸の思いで貴様にこの提案をしたというわけだ」
よほど可愛がっていたんだろうなぁ。
彼女と言うからには女性なのだろう。
獣人を部下に迎え入れたりしたら、チームのバランスが崩れそうで怖い。
なにせ、この国で一番偉いのは獣人だからなぁ。
自分が獣人なのだから一番偉いと言い出して、無理に意見を押し通そうとするかもしれん。
俺のチームには獣人は一人もいない。
新たに獣人が加われば、チームのパワーバランスが崩れかねん。それどころか言うことを聞くかどうかも微妙。
この話、すんなり受けてしまったが、本音を言えば断りたかった。
だが、断ったら断ったで、色々と面倒だ。
クロコドにも恩を売っておきたいし、この申し出は受けるべきなのだ。
「それで……その方と言うのは?」
「いま丁度連れて来ている。紹介しよう。
おい、入ってこい」
クロコドが呼ぶと、その人物は部屋へと入って来た。
その人は……。




