表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

172/369

172 街角演説

 翌日。

 俺はレオンハルトを連れて街へ向かった。


「なぁ……俺は何をすればいいんだ?」


 きょろきょろとあたりを見渡すレオンハルト。

 街の住人たちは彼に注目している。


「祭りの開催に反対している住人が多数います。

 彼らを説得して頂きたいのです。

 何分、急な決定でしたので、

 混乱している住人が多くいるようです」

「ええっ……そうなのぉ?」


 そうなのぉ、じゃねーよ。


 いきなり祭りを開催して、町のど真ん中でパレードをやるなんて言ったら、住人は反発するっての。


 今回の件はレオンハルトが言い出したことだ。

 この人に責任を取らせよう。


「で、どうすればいいの?」

「広場で演説でもしてください。

 それで丸く収まると思います」

「え? そんなんでいいの?」


 他にやりようもないからなぁ。


 反発している住人の家を一軒ずつ回って、説得にあたっていたら時間が足りない。いっぺんにやってしまった方が手っ取り早く済む。


 大きな広場へ魔王を連れて行き、中央に立たせてせる。すると、歩いている人たちは足を止めて、彼の姿に目を向ける。


 立ってるだけで街の注目を集めるのは、流石は魔王と言ったところか。


 注目する民衆の数は次第に増えていき、周囲には人だかりができた。

 そろそろかな……。


「それでは閣下、早速お願いします」

「お願いするって……何を?」

「祭りを開催する意義を彼らに伝えるのです。

 皆が納得すれば、反発する者も少なくなります」

「意義ねぇ……」


 そもそもそんなもんねぇんだろうな。

 単なる思い付きだろうし。


「まぁ……やってみるよ」


 魔王は一歩前へ出る。

 すると……。




 ざわ……。




 空気が変わったのを肌で感じる。

 どうやらレオンハルトが魔王モードになったらしい。


「民衆よ! 聞けっ!」


 魔王は大声で語り掛ける。


「幾多の戦いの歴史の中で、

 我々は苦渋を強いられてきた。

 しかし、それを挽回すべく、

 新たなる戦いの時を待ち、

 ひたすらに牙を研ぎ続けて来た。

 そして今まさに戦端が開かれようと……」


 魔王の言葉を民衆は真剣に聞いている。

 野次を飛ばす者は一人もいない。


 この調子なら、すんなり納得してくれるはずだ。


 以前から感じていたことだが……。

 レオンハルトの支持率は割と高いと思う。


 彼の何を気に入っているのか分からないが、民衆が寄せる期待はかなりのもの。やはり純粋な強さが彼らの興味を引き付けるのだろうか?


 この前のマティス戦もなかなかだったが、それ以前にも何度か試合的なものを見た。


 何十人もの獣人を相手に、たった一人で戦いを挑み、瞬時に敵全員を戦闘不能にする。


 その圧倒的な強さを目にしたら、誰だって怖くなるだろう。


 しかし、普段の彼からは、そんな恐ろしさは全く感じられず、むしろ馴れ馴れしいまでに距離を詰めてくる。


 彼は戦闘モードに入ると途端に恐ろしくなるが、普段は呑気なライオン人間でしかない。


 そのギャップが良いのかもなぁ……。


 俺は彼の演説を眺めながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。


「必ずや憎き人間どもの軍勢を打ち倒し、

 ゼノの輝かしい歴史を取り戻すと全ての民に誓おう!

 その為にも! 軍事パレードを開催し、

 わが軍の力を人間どもに示すのだぁ!」

「「「「「うおおおおおおおお!」」」」」


 広場に集まっていた民衆は大盛り上がり。

 この分なら、祭りを開催しても大丈夫だろう。


「じゃぁみんなー! よろしくねー!」


 民衆に手を振るレオンハルト。

 すっかり元通りになっている。


 魔王モードになれば頼りがいがあるんだが、普段の調子だといまいち威厳が足りない。


 まぁ、四六時中ずっと怖かったら、俺は気を使いすぎて疲れてしまうので、今のままでいいのかもしれないが。


「それでは、帰りましょうか」

「うん、そうしよっか。

 でもお腹空いたなぁ。

 どこかで何か食べて行かない?」

「食事……ですか?」


 魔王が口にするような食事を提供する店が、城下町にあるとは思えねぇんだよなぁ。


「どこかにいいお店、無い?」

「ええっと……」


 どうしようかと困っていると、ある露店が目についた。


「閣下、あそこにしましょう」

「え? あの出店?」

「ええ、あそこなら問題ありません」

「何故だ?」

「何故なら……」


 その出店にいたのがノインだからだ。


 ノインはすでに出店を始めていた。

 他にもちらほらとオークたちが出店を構えている。


 そう言えば……祭りの装飾なんかも目に付くな。骨でできたオブジェがそこかしこに建てられている。

 街の雰囲気がだんだん変わり始めているな。


「おう、ノイン。早速、ご苦労だな」

「ああ、ユージか。様子を見に来たのか?」


 俺は早速ノインに声をかけた。


 彼は串焼きを慣れた手つきでクルクルと動かしている。

 焼いているのは……カエルかな。


「いや、魔王様に住人の説得をお願いしていたんだ。

 困ったことに腹を空かせてしまってな」

「お前がか?」

「いや、魔王様がだよ」

「……だろうな」


 などと下らないやり取りをしつつ、ちらりと魔王に目をやる。


 ノインが焼いているカエルの串焼きを物欲しそうに眺め、よだれをダラダラと垂らしていた。


「一本貰えるか?」

「ああ、勿論だ。お代は結構だぞ」

「何を言っている、ちゃんと払うぞ」

「じゃぁ3ゼリングくれ」


 3ゼリング。

 銅貨三枚分ってことだ。


 ちなみに銀貨一枚で1000ゼリング。

 金貨一枚だと10万ゼリングくらいが相場。


 俺は代金を支払って、カエルの串焼きを一本受け取った。


「閣下、どうぞお召し上がりください」

「うむ……」


 カエルの串焼きを手に取る魔王。

 物珍しそうにしばらく眺めてから、その大きな顎門あぎとで勢いよくかぶりつく。


「むふむふ……美味しいよ、これ!」

「お気に召しましたか?」

「ああ、すんごく気に入った!

 もっと他にないの⁉」

「ええっと……」


 他にオークたちが出している店に目を向ける。

 食べ物を売ってる出店が何件かあったので、そっちのも食べてもらおう。


「……これは?」

「果物を飴で固めたものです」


 いわゆるりんご飴だ。


「どうやって食べるの?」

「適当に舐めて、適当に齧って下さい」

「ふぅん……がぶり。すっぱーい!」


 リンゴはあまり好きではないのか、渋い顔をする魔王。

 それでもがりがりと齧って全て平らげる。


「次は?」

「ええっと……うん?」


 オークではなく、魔女が出店を開いていた。

 ふわふわとした雲のようなものを串にさして並べている。

 あれはまさか……。


「あの……」

「あっ、もしかしてユージさまです?」

「ええ、そうですが……あなたは?」

「私はサナトの友達、マミィですぅ。

 よろしくどうぞですぅ」


 笑顔でウィンクするマミィさん。

 たれ目で口元にはほくろ。

 髪は水色と目立つ色彩。


 魔女帽をかぶって黒いコートを着ている。

 ものすげー巨乳だった。

 青色の口紅が色っぽい。


「あの、これは?」

「綿菓子ですぅ」

「やっぱり……」


 マミィが売っていたのは綿菓子だった。

 魔法で動かしているのか、綿菓子を作るマシーン的なものが駆動している。


 これにザラメ的なものを入れて、綿菓子を作るのだろう。


 しかし……良くできてるな。

 魔法でこういう物が作れるのなら、エンジン的な物も作れないだろうか?


「マミィさんはどうしてお店を?」

「ノインさんに声をかけてもらったんですぅ。

 私に出来そうなことはないかなって、

 色々と考えていたら……。

 ユージさまの案が目についたんですぅ」


 俺の案?

 そう言えば……。


 ノインに渡した出店の案の中に、綿菓子の企画も書いていたかな。


 実現できるとは思っていなかったので、すっかり忘れていたが……。


「ねぇねぇ、これも食べていいの?」


 魔王が顔をずいっと近づけてきた。


「ええ、おひとつどうぞですぅ」

「わーい!」


 魔王は綿菓子を手に取り、ちぎって一口ほおばる。


「…………なんだこれ」

「お気に召しませんでしたか?」

「口の中がべたべたするぅ」


 綿菓子は気に入らなかったらしい。

 甘いものが苦手なのかな?


「そう言えばユージさま、聞きましたですぅ?

 ハーデッドさまが行方不明になっているそうで、

 例の爆発騒ぎと何か関係があるのかもですぅ」


 耳が早いな。

 昨日のことがもう噂になっているのか。


「ええ……それなら既に知っています」

「まだ他にも情報があるんですけど、

ハーデッドさま、恋人を見つけたみたいで、

 背中に白い羽をはやした翼人族の少年と、

 二人で歩いている姿を見た人がいるそうですぅ」

「……え?」


 背中に白い羽根?

 翼人族にはその色の羽根を持つ者はいなかったはず。


 まさか……ね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ