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163 農場炎上

 マムニールの農場。

 既に消火活動が始まっていた。


 奴隷たちがバケツリレーで水を運んでいる。

 しかし、火の手が回るのが早く、建物はどんどん炎に飲まれていく。


「大丈夫か⁉ みんな無事か⁉」


 俺が呼びかけるとシャミが飛んできた。


「ユージさまぁ!」

「シャミか⁉ みんな大丈夫なのか?」

「はい、みんなすぐに外へ避難したので無事です。

 けどミィちゃんが見当たらなくて……。

 もしかしたらまだ中に……」


 なんだと⁉


 ミィは普通の人間と違う。

 炎に巻かれたくらいでは死なないと思うが……。


 燃えているのは別館。

 マムニールの住む屋敷とは別。

 ハーデッドが寝泊まりしていた建物だ。


 ミィの姿が見えないのは、彼女を助けようとして逃げ遅れたからじゃ……。


「くそっ! こうしちゃいれん!

 シャミ! 水をくれ!」

「え? あっ、はい!」


 シャミが持っていたバケツの水を頭からかぶる。


「ユージさま! どうするんですか⁉」

「ミィを助けに行く」

「えっ……でも……」

「大丈夫だ、骨だから燃え尽きたりはしない!」

「水をかぶった意味は……」

「行ってくる!」


 俺は炎の中へ飛び込んだ!


「うわっ! 何だこれ! 何も見えないぞ!」


 建物の中は煙が充満していた。

 黒煙で視界を塞がれ何も見えない。


 こんな状況ではミィを助けるどころではない!

 いったいどうすれば……。


「ミィ! どこだ! 何処にいる⁉

 返事をしてくれ! 頼む!」


 返事はない。

 ここには誰もいないのか⁉


「頼む! 返事をしてくれ! お願いだ!

 君がいなくなったら俺は……。

 俺はあああああああああああ!」


 ダメだ、なんの返答もない。


 無理もないだろう。

 こんな状況で返事ができるはずがない。


 建物の中の温度はおよそ数千度。

 人間がいたらたちまち焼け焦げてしまう。

 無事であるはずが……。


 いや、まだ諦めるな!

 何が何でも彼女は俺が助ける!


 それから手当たり次第に部屋を見て回った。

 必死で探し続けたが、俺は何の成果も得られなかった。

 せめて……せめて視界さえ開ければ……。


「くっそおおおおおおおおおおお!」


 自分の無力さに打ちひしがれ、どうしようもないまでに無情な気分になる。


 俺ではミィを助けられない。

 スケルトンの俺には……何も……。


 俺はとぼとぼと来た道を引き返し、外へと出る。


「ユージさま……」


 外へ出ると、シャミが心配そうに駆け寄ってきた。


「大丈夫ですか……」

「ああ、俺は平気だ。

 しかしミィは見つからなかった」

「そうですか……ううっ、ミィちゃん……」


 シャミはぽろぽろと涙をこぼして泣き出してしまう。


「大丈夫、ミィはきっと無事だ」

「でもっ……でもぉ……」

「安心しろ、シャミ」


 俺は彼女の頭に手を……。


「あっ、触らないで下さい。

 今のユージさまは煤まみれですので。

 髪が汚れます」

「え? ごめん」


 急に冷たい態度になった。

 なんなのこの子。


 おまけにピタリと泣き止んだし。


「ううぅ……ミィちゃん……」


 そしてまた泣き出す。

 随分と都合のいい涙腺してるな。


「ユージさま!」


 ベルが来たので彼女から状況を聞こう。


「ベル、何があったんだ?」

「アンデッドが襲ってきたのです。

 彼らはどこからともなく現れて、

 別館に魔法で火を放ちました。

 宿舎にいた奴隷の子たちも襲われて……」

「え? 襲ってきたの? アンデッドが?」


 シャミはみんな無事だと言っていたが……。


「みんなは? ケガとかしてないのか?」

「はい、黒騎士さまが助けてくれたので」

「……え?」


 俺は辺りを見渡す。

 すると……。


「黒騎士さまぁ!」

「黒騎士さま素敵!」

「カッコいい! サイコー!」


 女の子たちに囲まれ、キャーキャー言われる黒騎士姿のミィがいた。


「黒騎士さまのお陰で誰も犠牲にならずに済みました。

 襲い掛かるアンデッドたちを一人でなぎ倒し、

 瞬く間に壊滅させたのです。

 彼には本当に感謝しています」

「あっ、うん……そうだね」


 ミィの心配をしていたが、もうその必要はない。

 元気そうにしているしな。


「おやぁ? 何処からかミィの声が聞こえるぞぉ」

「え? 本当ですか⁉ 彼女はどこに⁉」


 シャミがめっちゃ食いついてくる。

 試しに彼女の頭に手を伸ばしてみよう。


「あっ、やめて下さい。

 さっきも言いましたよね?

 髪が汚れるって」


 俺は手を引っ込める。


「ミィちゃんはどこにいるんですか⁉

 教えて下さい!」


 涙ながらにミィの身を案じるシャミ。

 もう一度手を伸ばすと……。


「だからやめて下さいって言ってますよね?

 なんど言えば分かるんですか?」


 手を引っ込める。


「ううっ……ミィちゃん……」


 泣き出すシャミ。

 わざとやってるとしても凄い。


「なぁ、ベル……。

 この子、いつもこんな感じなの?」

「シャミはおしゃれに気を使う子です。

 髪を触られそうになると性格が変わります」

「ふぅん……」

「彼女は猫を被っているのです。

 猫の獣人のハーフだけに……ぶふっ」


 吹き出すベル。

 急にどうした?


「ねっ……猫だけにっ……うくく」

「え? どうしたの?」

「なんでもありません……ぷぷ」


 笑いを必死でこらえるベル。

 自分で言った言葉に、自分でうけている。


 ……この子も意外と愉快な性格だったりするのか?


「ベル」

「うくっ……何でしょうか?」

「布団が吹っ飛んだ」

「……はい?」

「え?」

「なんと?」

「布団が吹っ飛んだ」

「だから……なんだと言うのですか?」


 急に真顔になるベル。

 ダジャレが好きなわけじゃないんだな。


「それはそうと、ミィはどこです?」

「直ぐに呼んでくるから待っていろ」

「はい、分かりました」


 俺は黒騎士の所へと向かう。


「さぁ、黒騎士さま。

 任務が終わったらすぐに魔王城へ引き上げて下さい。

 今すぐに!」

「「「ええっー⁉」」」


 纏わりついていた女の子たちが嫌そうな顔をする。


「黒騎士さまは私たちの傍にいるの!」

「私たちのことを守ってもらうの!」

「絶対にダメなんだから!」


 面倒くさいなぁ、こいつら。

 仕方ない。


 俺は一人ずつ女の子を引きはがして黒騎士を自由にする。


「さぁ……黒騎士さま。とにかくすぐにお戻りを」

「「「いやー!」」」


 解放された黒騎士は、さっさとどこかへ姿を消す。

 しばらくして……ミィが姿を現した。


「ミィちゃん⁉ どこ行ってたの⁉」


 シャミが駆け寄り、彼女の無事を確かめる。


「ごめん、ちょっと用事があって……」

「本当に心配したんだからね!

 でも、良かったよ……無事で」

「心配かけてごめんなさい」

「いいよ、無事だったんだから!」


 ミィと抱き合うシャミ。

 何気に感動的なシーンなのだが……。

 あまり感動できないのはなぜだろうか。


「良かった、無事だったのね」


 安心したようにベルが言う。

 この子も心配していたようだ。


「そう言えば、マムニール夫人は?」

「私ならここにいるわよぉー」


 マムニールが手を振りながら歩いてくる。

 農場が火事になってるのに随分と余裕だな。


「良かった、ご無事だったのですね」

「ええ、私は何ともないわ。

 点呼を取ったから、うちの子たちの無事も確認してる。

 ミィちゃんもいたからこれで全員ね」

「あの……それで……」

「ハーデッドさまね。彼女なら……」


 嫌な予感がする。


「どこかへ消えちゃったぁ! にゃは!」


 あっけらかんと笑うマムニール。

 にゃは、じゃねーよ。

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