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156 一人で背負いこむな

 俺は早速、魔王城へと向かった。


 今日はみんなから進捗状況を聞くことになっている。

 何も問題が発生していないといいが……。


 ということで会議室。

 皆は既に集合していた。


「遅くなってすまない。

 早速、報告を初めてくれ」

「あのぅ……その前に……」


 サナトが手を上げる。


「どうした?」

「ムゥリエンナさんがまだ来てないんですど」

「ああ、彼女は……」


 ムゥリエンナのことを皆に相談すべきか?

 プライベートに関することなので、全部を打ち明けるのはちょっと気が引ける。


「彼女は個人的な都合で今日は顔を出せない。

 俺が後で報告を聞きに行くことになっている」

「そうですか……」


 サナトは心配そうにしている。

 他のメンツも顔を見合わせたりして困惑した様子。


 まずいなぁ……。

 このまま動揺が広がったら仕事に支障をきたしかねん。


「ムゥリエンナのことについては、

 後日報告するから安心してくれ。

 俺が必ず何とかする」

「お前ひとりで抱え込んでんじゃねぇよ、ユージ」


 ノインが言った。


「ノイン?」

「俺はそのムゥリエンナって人のことをよく知らねぇ。

 何があったかもわからねぇし、

 深く突っ込んで聞こうとも思わない。

 けど……ここにいるのは皆お前の部下だ。

 ムゥリエンナさんもお前の部下なら、

 俺たちはみんな仲間ってことになる」

「…………」

「なぁ、ユージ。

 お前は良く頑張ってるよ。

 それはここにいる皆が分かってる。

 けど、何もかも一人でしょい込む必要はない。

 俺たちも力になれるかもしれねぇ。

 わけを話してもらえねぇか」


 彼が言い終えると、皆の視線が俺の方へと一斉に集まる。


 なんとも言えない緊張感を覚えた。


 ムゥリエンナのことをここで話してもいいのか?

 彼女のプライベートを教えてどうする?

 俺は……。


「ユージさん」


 サナトが俺を見て言う。


「話すのが無理だったら、それは別にいいです。

 でも……私たちを信用してほしいと思います。

 私たちは彼女を困らせるようなことはしない。

 それだけは信じて欲しいです」

「……分かった」


 俺はムゥリエンナのことを話すことにした。






「そんな……いきなり結婚だなんて……」


 サナトは言葉を詰まらせる。


「どうして急に結婚なんて言い出したんですの?

 彼女のご両親が何を考えているのか、

 全く見当もつかないですの」


 エイネリはそう言ってため息をついた。


「それでユージはどうするつもりなんだ?」


 ノインが尋ねる。


「今日の午後、彼女の家へ行って、

 直接話をすることになっている。

 ご両親が何を考えているのか聞くつもりだ」

「何か作戦考えて行った方がいいんじゃねぇか?

 無策で行ってもあしらわれるだけだろう」

「作戦? 例えば?」

「そうだな……贈り物をするとかどうだ?」


 賄賂で買収するってか?

 あんまりいい方法じゃねぇな。


「はいはーい。

 わたくしによい考えがありますの!」

「なんだ、エイネリ」

「ユージさまがぁ、ムゥリエンナさんとぉ、

 結婚したらどうですの?」


 ……は?

 なに言ってるの、この人。


「いや、意味が分からん」

「分からなくてもいいですの。

 とりあえずご両親に挨拶に行って、

 娘さんを下さいと頭を下げるですの。

 うんと言わせて結婚を認めさせれば、

 ムゥリエンナさんは今までどおり……」

「ダメだ、その案は却下する」

「なぜですの⁉」


 何故ってそりゃぁ……。

 俺が結婚したくないからだよ。


「他にいい案はないか?」

「あのぅ……」


 フェルが手を上げた。


「フェル、言ってくれ」

「ご両親は彼女が図書館で仕事をすることについて、

 今まで文句を言ってきたわけじゃないんですよね?」

「ああ……そうだ」

「だったら……。

 急に結婚して仕事を辞めろなんて言うのは、

 ちょっと変じゃないですか?

 何か理由があるんじゃ……」


 確かに変だな。


 ムゥリエンナをスカウトした時も、特に反対されることはなかった。仕事をしないで結婚しろというのなら、最初から反対していたはずだ。


 ……他に何か原因があるのか?

 そうとしか思えないな。


「フェルの言う通りだ。

 急に彼女に結婚を進めるのには、

 何かしら理由があるはずだ」

「じゃぁ、その理由ってのを聞いて来て、

 後でまた俺たちに相談してくれ。

 そうすりゃ解決の糸口が見えるだろ」


 ノインが腕を頭の後ろで組みながら言う。


「ああ……すまないが皆、また後で時間を作ってくれ。

 ムゥリエンナのことはそこで報告する。

 それでは……祭りについて。

 それぞれの進捗状況について報告してくれ」


 祭りの仕事の進捗状況について、皆に尋ねる。


「じゃぁ、先ずは俺から……」


 ヌルが報告を始める。


 彼は街の飾りつけのデザイン案を考えてきてくれた。動物の骨でオブジェを作りって大通りに飾る。


 ぱっと見て不気味な感じのオブジェなのだが、獣人受けはよさそう。俺はその案にゴーサインを出した。


 ゲブゲブは既に必要な量の骨を集めたと言う。後は組み立てるだけで良いらしい。


 エイネリもオブジェのデザインを仕上げてきてくれた。割といい感じのデザインだったので、こちらにもゴーサインを出す。


 彼女も材料は既に集めている。後はオブジェを作って飾るだけ。必要な人員も既に手配済み。士官学校の生徒を動員するんだと。


 次はフェル。

 彼は街の住人たちから意見を集めてくれた。


 突然の祭りの開催の知らせに、住民たちは驚き戸惑っている。中には文句を言う人もいた。


 特に屋台を経営している人たちは、パレードで店が壊されないか心配している。また、祭りで俺たちが屋台を出すことに対して、客を奪われるのではないかと不安に思っている者もいる。


 住人の不満は早急に解消しなければならない。

 明日あたり、魔王を連れて説得へ行こう。あの人が言い出したことだからな。彼に責任を取ってもらうしかない。


 屋台の件は……特に問題ないかな。

 当日だけ店を開くだけなので、他の店の客が奪われることもないだろう。きちんと説明すれば分かってくれるはずだ。


 ノインは仲間に掛け合って、お祭りの出店の設営の準備を進めている。必要な物品も既に揃えた。当日には問題なく間に合うと言う。


 イミテも出店の準備を完了させていた。友達に掛け合って、何店か出店する予定。


 サナトは花火のデザインをあらかた完成させて、必要な魔道具の用意も出来た。後は人気のない場所で試し打ちをして、安全に打ち上げられるかを確かめるそうだ。


 アナロワはフェルと一緒に情報収集を担当していたが、本日からは行進の練習に参加する。今日の午後にクロコドと打ち合わせをする予定らしい。


 みんな頑張ってくれているな。

 このまま任せておいても大丈夫だろう。


 あとは……そろそろトゥエが帰ってくるころかな。


 ハーデッドの件でイスレイと連絡が取れれば、今回の一件には蹴りが付くだろう。さっさと彼女を本国へ連れて帰ってくれれば、俺も厄介事から解放される。


 イスレイの連中が祭りまでに間に合うとは思えないので、それまでは彼女の面倒をみることになりそうだな。


 祭りのことを彼女が知ったら絶対に参加したいと言い出すはずだ。面倒なので勘弁してほしいが……このイベントは避けられそうにない。


 俺も腹をくくらないといけないなぁ。




 ドンドンドン!




 会議室の扉が乱暴にノックされる。

 誰だ……?


「入ってくれ」


 俺が許可すると扉が開かれた。

 そこには……。


「ハァ……ハァ! ハァ……!

 ただいま……戻りましたであります!」


 息を切らせたトゥエ。

 彼女は力なくその場に座り込んでしまう。


「おい、トゥエ⁉ 何があった!」


 俺は彼女の元へ駆け寄る。


「大変であります……イスレイが……」

「イスレイが? どうした?」

「イスレイが……ハーデッドさまを……。

 即刻引き渡せと言っているであります!

 さもなくば……戦争になると!」

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