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153 不死王様の街巡り

「うわぁ! すごいなぁ!」


 ハーデッドは街を見るなり大はしゃぎ。

 ぴょんぴょんと飛び跳ねて、あちこちを駆け回る。


「すごいぞっ! 獣の人間でいっぱいだぁ!」


 そりゃ獣人の国だからね。

 んなことに驚いてどうするんだ。


「喜んでいただけましたか?」

「ああ、ゼノは本当にすごい国だな!

 イスレイとは大違いだ!」

「そんなに違いますか?」

「ああ、あの国は寂しい国でな。

 葬式でも上げたかのように静まり返っている。

 余の住む城もボロボロで幽霊が出るのだ」


 そりゃ出るでしょうね。

 ゴーストなんてそこら中にうようよしているだろうし。


 しかし……ここまで喜ぶとは思わなかったな。

 完全に予想外だ。


 てっきり、汚いだの、臭いだの、文句を言うかと思った。

 案外、素直な人なのかもしれない。


「それで、これからどこへ行くのだ!?」

「適当に見て回りましょうか。

 気に入ったお店があったら入っても構いませんよ」

「本当に⁉ 良いのか⁉」


 目を輝かせるハーデッド。

 まるで天国に来たみたいに喜んでいる。


「とりあえず、まっすぐ通りを進んでみましょう。

 ここはゲンクリーフンで一番賑やかな場所です」

「ああっ! 人もいっぱいいるな!

 おい、あれはなんだ⁉ あれだ! あれ!

 あそこからいい匂いがするぞ!」


 ハーデッドは店を指さす。

 トカゲの干物を専門に扱う店舗だった。


「あれは干物の店ですね。

 興味があれば、おひとついかがですか?」

「買ってくれるのか⁉」

「ええ、それほど高い物でもないので……」

「恩に着るぞ! ユージよ!」


 嬉しそうにジャンプするハーデッド。

 干物一つでそんなに喜ぶとは……いったい今までどんな生活をしていたんだ?


 俺は店へ入って代金を支払い、店主から干物を受け取る。

 小さなトカゲの干物に串を刺し、それをこんがりと焼いたものだ。


 小動物の干物は獣人から人気があり、街ではよく売られている。個人的にはあまり食べたいとは思わない。


 干物をハーデッドに渡すと、彼女はキラキラと目を輝かせて眺めていた。それをはくり、はくりと、むしゃぶりつくように平らげる。


「うまいっ!」


 バカでかい声で感想を言うハーデッド。

 うるさくてかなわない。


「あの……声が大きいようで……」

「むっ、すまなかった。

 嬉しかったので……つい。

 おや? あそこにあるのは……」


 また別の店に興味を持つハーデッド。

 そろそろ大人しくしてくれませんかね。


 彼女は色んな店へ突入。その都度、色んな商品をせがみ、あれもこれもと買いまくった。


 不思議なことに、彼女が興味を持つのは安物ばかり。

 虫を油で揚げたスナック的なものとか、泥団子みたいなお菓子。よく分からないちんけな小物。ぼろぼろの中古アクセサリ。


 あまりに安物ばかりねだるので俺の財布の紐もつい緩んでしまう。何を買っても大した痛手にならんからな。


 好きなものを好きなだけ買えたハーデッド。

 とっても満足して頂けたようだ。


 そうだ……イミテの店へ連れて行ってやろう。

 きっと気に入ってくれるはずだ。


「ハーデッドさま、お楽しみいただけましたか?」

「ああ、余は大変に満足した!」

「よろしければおススメの店を紹介しますが、

 いかがいたしますか?」

「おススメ……だと?」


 両手いっぱいに商品を抱えるハーデッド。

 もう十分に満足したと断ると思ったが……。


「いくぅ!」


 マスクを外し、満面の笑みでそう答える彼女に、俺は父性のようなものを感じてしまう。

 ちょっとだけ可愛いと思ってしまった。


 この子は本当にただの女の子かもしれん。

 不死者を従える魔王だなんてとても思えない。


「では……」

「うむ! 頼んだぞ!」


 俺はハーデッドをイミテの所へと連れて行った。


「いらっしゃーい」


 扉を開けると、やる気のない返事。

 いつも通りの彼女が出迎えてくれた。


「あっ、ユージさん。どもー」

「ちょっと客を連れて来たんだ。

 入っても良いか?」

「もう閉店しようと思ってたんですけどー。

 ユージさんのお友達ならいいですよー」


 イミテは面倒くさがらずに俺たちを受け入れてくれた。

 ありがたい。


「うわあああああっ! 何だこの店は⁉

 しゅごいぞ! すごい! キラキラしてる!」


 店の中を走り回って大騒ぎするハーデッド。

 買い集めた物は全てミィに預け、次々に品物を手に取り、あれもこれもと抱えている。

 そんなに買ったら流石に破産するぞ。


「申し訳ありませんが、

 購入するのは一つだけにして下さい。

 私の懐もそろそろ……」

「むぅ、そうか。なら仕方ないな。

 どれか一つだけにするぞ」


 ハーデッドは集めた品物を棚に戻し、どれにするか真剣に選んでいる。その隣で荷物持ちをしているミィ。

 なんとも不憫である。


「そう言えばユージさまぁ。

 最近、街の雰囲気が変わったの気づきましたー?」


 イミテが尋ねて来た。


「いや、そんなに変わらんと思うが」

「何言ってるんですかぁ。

 全然違いますよー。

 戦争が始まるって決まってから、

 どんどん街が活気づいてますー」

「それは本当なのか?」


 俺が聞くと、イミテはうんうんと頷く。


「兵士として雇ってもらえるから、

 地方からどんどん人が来てるみたいですー。

 街でたむろしてた失業者も、

 みんな仕事が貰えて喜んでるみたいでー」

「……そうか」


 彼女はこの町の微妙な空気の違いを敏感に読み取っていた。


「市場もー。

 武具や保存食が飛ぶように売れてて、

 品切れになってるみたいですー。

 わざわざ他の国から取り寄せて、

 商売している人もいるみたいですよー」

「イミテの店も繁盛してるのか?」

「私の店はそれほど影響ないんですけどー。

 来てくれるお客さんが少しふえましたねー」

「少しってどのくらい?」

「一人とか、二人?」


 そんなの、増えた内に入らんがな。


 イミテの言う通り、戦争の影響で市場が活気づいているようだ。


 俺は戦争なんてしても意味がないと考えているが、経済的にはプラスに働くんだよなぁ。


 人は動くし、物も売れる。大量の物資を投入するわけだから、莫大な資金が市場に流れることになる。

 給金を貰って訓練を受ける兵士たちも、安定した収入を得られるようになるわけだ。


 戦争は多大な被害をもたらし、資産や資源を消費してしまう。その反面、恩恵にあずかる者も大勢いて、多くの仕事を生み出すこともまた事実だ。


 頭ごなしに戦争がいけないとは言えない。

 しかし、それでも俺は意見を変えない。

 戦争なんてしたってなんの意味もない。


「決めたっ! これにするぞー!」


 どうやらハーデッドはどれを買うか決めたようだ。

 彼女の手には小さなぬいぐるみが握られている。


「イミテ、アレをくれ」

「ユージさまの紹介なんでー。

 安くしときますねー」

「悪いな」

「構いませんよー。

 その代わり、また来てくださいねー」


 イミテは代金を受け取ると、コインを胸元へとしまった。


 ……そこは財布代わりなのか?


「満足していただけましたか?」

「ああ! 何も言うことはない!

 ユージよ、今日はとても楽しかった!

 感謝するぞ!」


 ハーデッドの輝く笑顔を目にして、俺は思わず両手で顔を覆ってしまった。このまま彼女を見つめていたら肉体が浄化されてしまいそう。


 そう思えるくらい、ハーデッドの笑顔はまぶしかった。


「急に押しかけてすまなかったな。

 今日はこれで失礼する」

「いえいえ、また来てくださいー」


 店を出た俺たちを見送り、深々と頭を下げるイミテ。

 彼女なりに接客を頑張っているんだな。


「それにしても楽しかったなぁ!

 またこの街に来たいなぁ!」


 よほど楽しかったのか、ハーデッドの気分は最高潮に達している。

 来る前とは全然違うな。


 彼女の隣で荷物持ちをさせられているミィは、ずっと無言の状態。不機嫌になっていないか心配である。


 さぁて……さっさと農場へ帰ろう。面倒なイベントを一つこなせたので、今夜はゆっくりできそうだ!


 と、俺が呑気な気分になっていると、また新たな問題が発生するのであった。


「ユージ、ねぇ……あの人」

「……む?」


 ミィが何か見つけた。

 裏路地のゴミ捨て場に誰かがうずくまっている。


 あのシルエットは……。


「おい……ムゥリエンナ? 大丈夫か?」

「ううっ……ユージさまぁ!」


 ムゥリエンナがゴミ捨て場で倒れていた。

 かーなり酒臭い。


「どうした、何があったんだ?」

「私……私ぃ!

 仕事を辞めなくちゃいけなくなっちゃいましたぁ!」


 目に大粒の涙を浮かべるムゥリエンナ。

 いったい何があったと言うのか。

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