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149 何も考えてないわけじゃない

 ドアに鍵がかかっていない。

 かけ忘れたのか?


「入るぞぉ……サナトぉ」


 ゆっくりと扉を開くと中は真っ暗闇。

 何だか焦げ臭いにおいがする。

 いったい何を……。


「え? サナト⁉」


 サナトが倒れている。

 いったいどうした⁉


 俺は彼女の傍により抱き起こして身体をゆする。


「サナト! しっかりしろ、サナト!」

「ううん……ユージ……さま?」


 気が付いた。

 彼女はゆっくりと目を開けて俺の顔を見て、これまたゆっくりと大きく深呼吸をする。


「心配かけてすみません。大丈夫です」

「本当に大丈夫なのか?」

「ええ、ちょっと徹夜していたもので……」


 昨日、魔王城に侵入したセレンに彼女は早急に対応してくれた。


 あの後も、部屋へ戻って何かしていたのか?


「徹夜だと? 何をしていた?」

「ユージさまに命じられた花火の研究ですよ。

 完成させようと頑張ってるんですけど……。

 これって言う感じのができなくて」


 サナトは気合を入れてるんだな。

 だが、ちょっと頑張りすぎかもしれん。


「さて……今日もお仕事頑張らないと。

 ご心配おかけして、申し訳ありませんでした」


 サナトはそう言って立ち上がろうとするが……。


「うわっと!」


 よろけて倒れそうになってしまう。


「おい、本当に大丈夫なのか?」

「えっ、ええ……何ともない……はずなんですが」

「今日は休んだ方がいいぞ。

 昨日の夜は襲撃もあって大変だっただろ?」

「……ご存じだったんですね」

「ああ、その場にいたからな」

「……え?」


 俺は昨日の出来事について、俺がどう関わっていたかを話した。


「霊体化してあの場にいたんですね。

 ということは、私は命の恩人ってことですか?」

「その通り。礼を言うつもりで来たんだ。

 昨晩は本当に助かったよ。

 ありがとう」

「へへへ……どういたしまして」


 照れくさそうに笑うサナトを俺は愛おしく思ってしまう。


 コイツ、こんなに可愛かったかな?


「あの天使の男の子って……何者なんですか?」

「話によると、あの天使は勇者らしい。

 アンデッドを専門に狩っているとか、なんとか」


 俺がそう言うと、サナトは深刻そうな表情になる。


「ユージさまの天敵じゃないですかぁ!

 そんなのが領内をうろついていたら……」

「ああ、気を付けるよ」

「もしもの時は私があなたを守ります。

 できるだけ城から外へ出ない方がいいですよ」


 今の状況ではそうも言ってられん。

 俺は忙しいのだ。


「まぁ、出来る限り外へは出ないようにする。

 外出する時は必ず護衛をつけるよ」

「ええ、是非ともそうして下さい。

 アナタに何かあって困るのは、

 私たちなんですからね」


 そう言って俺のろっ骨を人差し指でつつくサナト。


「それはそうと、サナト。

 相談したいことがあるんだ」

「天使の勇者のことですか?」

「いや、それとは別に問題が……」


 俺はハーデッドが領内に来ていることを伝える。


「ええっ……それは本当なんですか?」

「ああ、今はマムニールの所でかくまっている。

 外へ出たいとわがままを言ってな。

 どうすればいいのか分からんのだ」

「その件、他の方には相談したんですか?」

「いや、サナトが初めてだ」


 俺がそう言うと、サナトは頭を抱えた。


「どうして私が最初なんですか。

 魔王様にはお伝えしなかったんですか?」

「あの人に相談してもややこしくなるだけだしなぁ。

 とりあえず、ハーデッドが領内にいることは、

 幹部の間でも周知されている。

 その所在について知っているのは俺だけだ」

「普通に他の方にも教えておいた方が……」


 確かにそうなのだが……どうしても明かすきになれん。


 というのも、ハーデッドの居場所が判明すれば、間違いなく魔王城へ連れていかれるはずだ。その対応について任されるのは間違いなく俺。


 今は祭りのことで手一杯なので余計な仕事を増やしたくない。


 トゥエがハーデッドのことを伝えれば、体制派は大慌てで彼女を迎えに来るはずだ。そうすりゃ、こちらは彼らの求めに応じて彼女の身柄を引き渡すだけでいい。


 何かいちゃもんをつけて、こちらに有利な条約の一つや二つを結ばせる。そうすれば今後、有利にやり取りが進められるだろう。


 今考えているのは、イスレイとの同盟だ。


 今後ゼノが戦火に見舞われることがあれば、彼らから援軍を出してもらうことも可能。不死者の軍団が味方してくれれば、訓練された人間の軍隊も容易に撃退できるはず。


 と、言うことをサナトに伝えた。


「なぁんだ、ちゃんと考えてるんですね」

「ああ、脳みそが空っぽだからって、

 何も考えてないわけじゃないんだぞ」

「そんな風には思ってないですよ。

 でも……嫌な予感がしますね。

 ハーデッドさまが何かやらかさないか、

 私は今から心配です」


 俺も心配している。

 あの人は絶対に何かやらかす。


 後で様子を見に行かないとなぁ。ミィのことも気がかりだし、夜になったらマムニールの所へ行こう。


「じゃぁ、俺は他に行くところがあるから、これで」

「しつこいようですけど、

 一人で外を出歩くのは厳禁ですよ!

 必ず誰か護衛をつけるようにしてください!」

「ああ、分かってるよ。

 そう言うお前も、あまり無理はするな」

「はい……」


 俺は落ちていた帽子を、サナトにかぶせる。


「じゃぁ、今日もよろしくな」

「ええ、頑張ります」

「眠くなったら適当に休憩しろ。

 疲れがたまるとパフォーマンスが落ちるからな」

「はい……分かりました」


 サナトは帽子を深くかぶって顔を隠した。






 俺はサナトの部屋を出て、ある男の所へと向かった。


「え? 今日の午後ですか?」


 アナロワは目を丸くする。


「ああ、中庭に部隊を集合させてくれ」

「別に構いませんが……それにしても突然ですね」

「すまなかったな、急にこんな無理を言って」

「いえ、ユージさまの命とあれば、何処へでも馳せ参じます」


 アナロワはそう言ってびしっと敬礼をする。


「それで、我々は何をすればいいのですか?」

「特別なことをする必要はない。

 普段の訓練の成果を見せればそれでいいんだ」

「でも……幹部の方も見に来るのですよね?

 本当にそれだけでよろしいのですか?」


 別に構わない。

 あいつらを驚かせようっていうわけじゃないのだ。


「ああ、俺が教えたようにするだけだ。

 いつものように行進して、

 いつものようにふるまえ」

「はぁ……」


 要領を得ないアナロワだが複雑に考える必要はないのだ。

 いつも通りに訓練成果を見せれば、それでいい。

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