146 ゲームオーバー
「まてええええええっ!」
セレンは必死の形相で追いかけてくる。
なんであいつはそんなに俺を殺したがるんだ。
次々と放たれる光の弾丸をかわしながら、俺は逃げ場所を探す。
どうやら敵の攻撃は物理的障壁で防げるようで、壁や地面に当たると爆ぜて消えていた。どこかへ逃げ込めば助かりそうだ。
幸いにも魔王城はすぐそこ。
あの中へ逃げ込めばなんとかなるだろう。
「うおおおおおおおおおおおっ!」
霊体になった俺は壁をすり抜け、魔王城の中へと逃げ込むことに成功。こうすれば天使も追っては……。
「そんなことで、僕からは逃げられないぞ!」
セレンは魔法で壁を破壊し魔王城の中まで入ってきた。
この壁、かなり頑丈にできてるんですが……。
かくなるうえは最後の手段!
「現世にさ迷う霊魂よ。
我の前にその姿を現し、存在を証明せよ。
かりそめの姿で宙へ舞い、
かの者を惑わし冥府へと導け!
ゴースト召喚!」
俺はゴーストを呼び出した。
あたり一面にゴーストが大量発生しセレンを取り囲む。
つっても、この魔法に大した効力はない。
これはさ迷っている霊魂を寄せ集め、可視化してその辺を漂わせているだけだ。ゴーストは生きた人間に干渉することはできず、なんの影響も及ぼさない。
半透明の状態なので目隠しとしては効果がいまいち。それぞれ好き勝手喋るので、若干うざったい。
要はお邪魔キャラを多量召喚する魔法。大した効果があるわけではない。
しかし、今のこの状況なら効果がある。
召喚したゴーストに紛れれば、逃げおおせることが出来るかもしれない。
……と思ったのだが。
「無駄だよ、無駄無駄ぁ!」
「「「「「あぎゃぱああああああああ!」」」」」
俺が召喚したゴーストは瞬時に蒸発。
弾除けにすらならなかった。
「アハハハハ! 逃げろ、逃げろ!
僕から逃れようなんて無理なんだよ!
アンデッドのくせにさぁ!」
高笑いするセレンは俺を追って弾丸を乱射。
あたり一面に光のつぶてがほとばしり、俺の霊魂へと襲い掛かる。
なんとか高等テクでよけ続ける俺だが、あの弾幕を前にいつまでもつか微妙。次々と繰り出される光の弾丸は、俺の逃げ場を塞ぐようにあちこちへと展開。
逃げ場がなくなる。
「さぁ……これで終わりだよ。
いい加減に覚悟を決めたらどうかな?」
セレンは不敵に笑いながら俺の方へと近づいて来る。
奴の背後には無数の弾丸が生成されており、アレを一度に放たれたら俺の人生は終わる。
ああ……長いようで短い人生だったな。
今度死んだら次はないだろう。
魂まで消されたら、もう復活はできない。
これが本当の終わりの終わり。
ゲームオーバーだ。
「しねえええええええええっ!」
叫びをあげて全弾発射するセレン。
もう逃げ場はない。
「待ったっ!」
何者かが突然現れ、光の弾丸を防御魔法で全て防いだ。
その正体は……。
「どこのだれかは分からないけど、
ここで何やってんの⁉」
現れたのはサナトだった。
どうやら俺の姿は見えていないらしい。
まぁ、霊体化しているから当然か。
「ちっ、邪魔が入ったか……」
「アンタ、何者なの? どうして魔王城に?
浄化魔法なんて放ってどうするつもり?」
サナトが尋ねると、セレンは肩をすくめる。
「君には関係ないさ。
そこをどいてくれないかな?」
「関係ないはずないでしょ。
私はここの警備をまかされているの。
大人しく投降しなさい。
さもなくば……」
「僕を殺す?」
「それも選択肢の内ね」
サナトは再び魔法を発動。
炎の槍を生成してセレンへと放つ。
「ちぃ!」
魔法攻撃をよけるセレンだが、サナトの猛攻に押され少しずつ後退している。彼女の方に分がありそうだ。
「くそっ! もう少しなのに!」
「あなたは何を狙っているの?
まるで透明人間と戦っているみたい。
ここにまだ誰かいるのかしら?」
「君に教える筋合いはない」
「そう……別に構わないけどね。
どうせここで死ぬんだから」
再び魔法を発動するサナト。
今度は電撃を発生させる。
「ぐぁあああああああああ!」
サナトの放った電撃をまともに喰らうセレン。
普通の人なら即死するレベルのダメージだが……。
「くそっ!」
「あっ! 待ちなさい!」
セレンは撤退を開始。
何やら詠唱しながら、後退する。
サナトはそれを追って更に魔法を発動。
植物を壁に這わせて敵の脱出を防ごうとする。
しかし……。
「うおおおおおおっ!」
セレンは魔法を発動して壁に穴をあける。
そこから外へと飛び出し、どこかへ消えてしまった。
「全く、何なのよアイツ」
一仕事終えたサナトは額をぬぐい、ホッとしたようにため息をつく。
「おい、サナト! 聞こえるか?」
「警備のオークを呼んで警戒させないと。
他にも侵入者がいるかもしれない……」
サナトは全く俺の声が聞こえていないのか、独り言をつぶやいてどこかへ行ってしまった。
霊体化した俺の存在を認知できるのは、特殊な能力を持った奴だけみたいだ。誰かとコンタクトを取るとしたら、死体に憑依する必要がある。
どがああああああああああんっ!
遠くで爆発音が聞こえる。
誰かが戦っているのか?
とここで俺はヴァルゴを置き去りにしたことを思い出した。
今アイツは一人で勇者パーティーと戦っている。
放っておいたら間違いなく死ぬだろう。
流石に彼を見殺しにするのは気が引ける。
何とか助けてやりたいが……今の状態では何もできん。
今からゲブゲブの所へ死体を取りに戻っては間に合わんだろう。他に方法は……。
そう言えば……シロは半分くらいアンデッドみたいな感じだったな。もししかしたら彼女なら俺を視認できるかもしれん。
ということで自分の部屋へと向かう。
シロはベッドの端にちょこんと腰かけ、じっとしていた。
「おーい! シロぉ! 俺の声が聞こえるか?」
「……聞こえる」
マジか!
どうやら彼女には俺の声が聞こえるらしい。
「頼む、助けが必要なんだ。
今から魔王の部屋へ行って、
彼に助けを求めてくれ!」
「……分かった」
シロは素直に従い魔王の所へと向かう。
途中、何人か武装したオークとすれ違った。
サナトが緊急招集をかけ警備に当たらせているのだろう。
「……ここ?」
「ああ、そうだ」
魔王の部屋までやってきたシロ。
立派な扉の前で立ち止まる。
「どうやって入るの?」
「押して開けるんだよ」
「……わかった」
両手で頑張って押すシロだが、彼女の力ではびくともしない。ここまで来たはいいが鋼鉄の扉が邪魔をする。
霊体の俺では何もできないしなぁ。
どうやって開ければいいと言うのだ……。
「おっ? 魔王様の部屋に入りたいのか?」
そこへ現れたのは……なんとクロコド。
なんでこの男が……。




