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145 天敵

 天使の右手からはまばゆい光が放たれる。


 それを目にした瞬間。

 俺はヤバいと確信した。


 あの光に触れたら俺は間違いなく成仏するだろう。

 すなわち、アンデッドにとっての死である。

 あの三人組もあの光にやられたのか。


 あの光をどうするか分からないが、単純にぶつけて攻撃するとしたら、かなりの範囲が対象になると思われる。

 とっとと逃げないとまずいな。


 ということで……。


「よし、ヴァルゴ。お前に初任務を与える」

「何なりとお申し付け下さいッス!」

「俺の頭を持って逃げろ!」

「え? 頭⁉ 胴体は⁉」


 まごついているヴァルゴに、俺は自分の頭を引っこ抜いて手渡す。


「さっさと逃げろ! 早く!」

「え? え? でも……ッス」

「はーやーく! 早くしろぉ! このハゲーっ!!」

「わっ、分かったッス!」


 ヴァルゴは俺の首を持って走り出した。

 残された胴体はその場に崩れ落ちる。


「くらえっ!」


 セレンは限界まで蓄えた光の玉を、大地へと叩きつけた。


 閃光が辺り一面に広がり、なにもかもが光の中に溶けていく。俺の視界も光でいっぱいになり、何も見えなくなってしまった。


「ぐわっ! まぶしぃ!」

「大丈夫ッスか⁉」

「とりあえずはな!」

「いやぁ、良かったッス!

 ユージさまが消えたらどうしようかと……」


 何とか今の一撃は避けられたようで、俺はまだこの世に存在し続けている。


 助かった……のだろうか?

 今がどんな状況なのか良く分からない。


「ヴァルゴ! 敵は今どこに!?」

「天使は空を飛んで追ってきてるッス!

 毛皮を被った方はどこか行ったッス!」


 マティスは追ってきてないのか。

 あのしつこい勇者がそう簡単に諦めるとは思えない。

 また何か企んでいるのだろうか?


「ああっ! また来るッス!」


 ヴァルゴが叫ぶ。

 少しして直ぐにまた閃光が放たれた。


 しかし、俺は無事。

 意識を失っていない。


 あの光の効果範囲はそれほど広くないらしい。

 直撃しなければ大丈夫みたいだ。


 てっきり、光を浴びたとたんに身体が焼け焦げて、あっという間に灰になるのかと思った。しかし、そこまで凶悪な魔法ではないらしく、避けようと思えば簡単に避けられるっポイ。


 ヴァルゴは俺を抱えて裏路地へと逃げ込み、敵を撒こうと走り回る。俺は行き先を細かく指示し、ある場所へと彼を導いた。


 そこは……。


「うげぇ! 臭いっス!」

「我慢しろ、直ぐに出られる」


 逃げ込んだのは下水道。


 ゼノにも一応、下水道が整備されている。

 これは俺が幹部になる前からあったもので、かなり長い期間に渡って使われていた。


 まともなメンテナンスもされておらず、所々で壁が崩れている。そろそろ大規模な工事が必要になるだろう。


 下水道の工事なんて言ったら魔王はどんな顔をするかな。そんなの必要なの? と、本気で言いそうだ。


「ここをまっすぐに進めば魔王城まで行ける。

 城へ逃げ込めば、連中も手出しできないはずだ」

「だといいっスけどねぇ……」


 どんな無鉄砲な輩でも、単独で乗り込んでくるほど馬鹿じゃないだろう。天使の勇者の実力がいかほどか分からんが、アンデッドを専門に狩っていた奴が、獣人相手に真正面から戦いを挑むとは思えない。


「ヴァルゴ、敵は?」

「追ってこない……ッスねぇ。

 もう諦めたんじゃないっスか?」

「お前は連中のしつこさを知らんのだ。

 奴ら勇者はな、名誉の為ならなんでもする鬼畜だ。

 魔族殺しだって平気でするんだぞ」

「それって普通のことじゃぁ……」

「普通なもんか! 連中はマジで狂ってるんだ!」


 魔族殺しが普通とか、コイツは何を考えてるんだ⁉

 魔族が人間を無差別に殺してはいけないように、人間もまた魔族を意味もなく殺してはならないのだ。


「どうやら敵は……近くにはいないみたいッスね」

「どうしてわかる?」

「暗闇の中でも、敵が何処にいるか分かるッス。

 自分にはそう言う身体機能があるッス」


 リザードマンにはそんな特殊能力があったのか。

 知らなかったぞ。


「じゃぁ、このまま安全に進めそうだな」

「ッスね」


 だと良いんだけどな。


 このまま終わるはずがない。

 そんな予感がビンビンしている。


 マティスはいったい何を企んでる?

 マジで分からない。


 俺たちはまっすぐに下水道を進んで魔王城を目指す。特にトラブルもなく、あっさりと到着する。


「ここを登れ」

「分かったッス」


 俺を抱え、梯子の前で立ち止まるヴァルゴ。

 ここを登れば魔王城も目と鼻の先。


 あと少しで安全に逃げられるはずなのだが……このまま終わる気がしない。


 上った先にセレンとマティスがいるのでは?

 そんな不安が頭をよぎる。


「ふぅ……どうやら誰もいないみたいッス」


 マンホールをどかして首から上だけを出し、あたりをキョロキョロと見渡すヴァルゴ。どうやら本当に誰もいないらしい。


「これで一安心ッスねぇ。

 ユージさんを魔王城までお届けしたら、

 自分は晴れて幹部になれる。

 まるで夢みたいッス」

「何を言っている。

 お前を幹部として雇うつもりは無いぞ」

「またまた、そんなこと言ってぇ」


 こいつ、だんだん調子に乗って来たな。

 あまり甘やかしても良いことはないだろう。


 こういう輩は適当に扱うのがベスト。褒めても、叱っても、大して伸びない。なので成長させることは諦めて、できることをやらせ続ければいいのだ。


 何か一つに特化させれば、それなりに使い物になるはずだ。


「さぁ……俺を魔王城へ連れて行ってくれ」

「はい、分かったッス」


 ヴァルゴは俺を抱え魔王城の門へ向かう。

 あそこまで行けば衛兵がいて……。




 ぎゅおんっ!




 いきなり緑色の光が放たれたかと思うと、その中央から5人の人影が現れた。

 これは……転移魔法⁉


「おいおい、逃げるなんてつれねぇなぁ、クソ骨ぇ。

 どこへ行くつもりなんだぁ?

 まさか魔王城へ逃げ込もうってのかぁ?」


 マティスはにやにやと下卑た笑みを浮かべて言う。


 奴の背後には仲間のアリサ、イルヴァ、ダクト。

 そして天使の勇者であるセレン。


「どうして貴様らがここに⁉」

「まさか転移魔法を知らねぇわけじゃねぇな?

 お前らがここへ逃げ込むのは分かってたから、

 あらかじめポイントを設置しておいたんだよ」


 割とマジで俺を殺しに来てるな。

 今回のこいつらの本気度が前回よりも高い。

 どうやって逃げるかなぁ。


 仕方ない。

 あの方法を使おう。


「おい、ヴァルゴ」

「はい、なんッスか?」

「俺をぎゅっと抱きしめてもらえないか?」

「え? 急になにいってんッスか、気持ち悪い」


 何を勘違いしてるんだ、このバカは。


「とにかくやれ、今すぐにだ」

「でも……なんで!?」

「重要な事なんだ! 早く!」

「わっ、分かったッス!」


 ヴァルゴは両手で俺を抱え、ぎゅっと抱きしめた。


 植木鉢を投げつけられボロボロになった俺の頭蓋骨は、リザードマンの力によって粉々に砕け散る。


 よしっ!

 これで俺は安全圏内へ脱出できた!

 ヴァルゴには悪いが、俺一人で逃げさせてもらおう。


 肉体を失って魂だけになった俺は自由に飛び回れる状態になる。

 これで勇者どもも追ってはこれまい。

 わっはっは。


「そこだなっ! 逃がすかっ!」

「え? なんでっ⁉」


 天使の勇者は俺が見えているのか、まっすぐに追ってきている。

 完全に予想外だ!


「僕には霊体も目視できるんだ!

 不死身の骨野郎、ここで完全に殺すっ!」

「そんなぁ!」


 なんと、天使は霊体化した俺を追ってきた!

 どうすれば逃げられる⁉

 どうすれば助かる⁉


 絶体絶命。

 大ピンチ。

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