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139 ワニの手も借りたい

「サナトは花火を頼む」

「え? 花火ぃ⁉」


 素っ頓狂な声を上げるサナト。


「そうだ、花火だ」

「花火って……なんですか?」

「そうだな……綺麗な爆発だな」

「綺麗な爆発って……どんな?」

「こんなだ」


 俺は一枚の書類を差し出す。

 そこには花火のデザインが書いてある。


「これを……空で?」

「ああ、できるか?」

「できないわけじゃないですけどぉ……。

 実際にやってみないことには……」


 ほぅ。

 なかなかいい返答じゃないか。


「じゃぁ、お願いできるか?」

「はい、やってみます。

 なんてったって宮廷魔女ですからね。

 これくらいの無茶ぶり、なんとかしてみます」


 うーん。

 助かるなぁ。


 俺の部下が優秀な人たちばかりで嬉しい。

 この巡り合わせに感謝だ。


「ユージさま! わたくしもお店を開きたいですの!」


 今度はエイネリか。

 コイツは何をするか分からん。

 一応、確認しておこう。


「お前は何をするつもりなんだ?」

「わたくしは個展を開きたいですの!」

「は? 個展ん?」

「麗しいハーデッドさまの似顔絵を、

 大量に描いていますの!

 それをこの街の住人達に売りつけたいですの!」


 ああ……そう言う。

 ぎりぎりセーフかな。


 ハーデッドが知ったら嫌がるだろうが、別に構わんだろう。


「いいぞ、好きにしろ」

「やったー!」

「あのぅ……」


 今度はイミテが発言を求める。


「私も個人的にお店を出しても良いですかぁ」

「ああ、構わないぞ」

「それとぉ、装飾の方も手伝いたいんですけどー」

「大いにやってくれ。

 ヌルと相談しながら頼むぞ」


 これで一通り、役割が決まったな。

 あとでマムニールにも協力を求めよう。

 彼女なら喜んで手を貸してくれるはずだ。


 そう言えば……ミィはどうするのかな。


 彼女に何か手伝って欲しいとお願いすれば、力を貸してくれるだろうか?

 こういうのは苦手そうだけど……。


 声をかけないよりはましだろう。

 後で仲間外れにされたと言われるよりも、しつこく誘って嫌な顔をされる方が良い。


 あとは……シロだな。


 彼女もお祭りには参加したいと言うはず。

 俺は進行の仕事で忙しいだろうから、彼女の面倒は他の誰かに任せよう。本当なら一緒に見て回りたいが……。


「三日後に朝いちでここに集合だ。

 それぞれの進捗状況をそこで報告してもらう。

 何か質問はあるか?」


 質問は特になかった。


「じゃぁ、解散! それぞれの仕事に移ってくれ!」


 俺が声をかけると、一同は一斉に立ち上がって部屋から出て行った。どいつもこいつも頼もしい。


 俺は良い仲間を持ったよ。






 それから俺は大急ぎで動き回った。


 9つの軍隊は、現在のところ5つが指揮官を失った状態。指揮系統が定まらない状態ではパレードを実施できない。


 そこで俺は……。


「は? なんだと?」

「なんとかお願いできないでしょうか……」


 クロコドを会議室へ呼び出して直談判する。

 パレードの間だけで良いから、席が空いた軍隊の指揮を彼にお願いできないかと。


「しかし、それで貴様は構わんのか?」

「ええ、構いません。

 というか、私には無理なのです。

 この短い期間に準備することがありすぎて、

 軍の指揮を取るなどとても……」

「うっ……うむぅ……」


 クロコドは考え込んでしまった。

 快諾してくれるものと思っていたのだが……。


「正直言ってな、わしも自信がないのだ。

 自分の軍も含めて6つの軍を指揮するなど、

 ハッキリ言って未知の領域だ」

「そこを何とかお願いできないでしょうか。

 他の方にはお願いできないことでして……」

「何故、わしなのだ?

 他の者ではダメなのか?」


 弱気な発言である。

 俺のライバルがそんなんでどうする?


「ダメです。他の者ではダメなのです。

 他ならぬあなただからこそ、

 こんな無茶をお願いしているのです。

 どうか、私の顔を立てると思って、

 お引き受けして頂けないでしょうか?」

「うっ……ううむ……分かった」


 よし!


「それでは、こちらに目を通してください。

 簡単なプログラムを組んでおきました。

 パレードの進路と大まかな時間割。

 当日までの練習工程。

 それとお願いしたい要件が書かれています」

「こっ、こんなにか⁉」

「何分、時間がありませんので、

 質問があれば後日承ります。

 それではこれにて失礼」

「おっ、おい!」


 俺は足早にクロコドの元を去った。

 他にも行くところがある。彼だけに構っている場合ではない。


 俺は魔王城をかけずりまわり、各所に一週間後の予定を通達。魔王の無茶ぶりについての愚痴をこぼしつつ、理解を求めた。


 そして……。






「はぁ……」


 自室へと戻って来た俺は天井を仰ぎ見る。


 ため息をついた気にはなっているが、肺は無いので相変わらず気分だけ味わう。


「ユージ、どうしたの?」


 心配したシロが隣に座る。


「仕事が立て込んでてなぁ。

 構ってやれなくてごめんなぁ」

「いい、気にしてない」

「シロはいい子だなぁ」

「いい子じゃない。ただ大人しいだけ」


 俺はシロの頭をなでなでする。

 されるがままに大人しくしている彼女は、ぼんやりと前だけを見ていた。


 そういや、最近暴走するシロを見ていないな。

 皆に会わせてやりたいのだが……。

 なかなかその時間が取れないでいる。


 と言うか……怖い。


 シロは人の心を読む。

 何でもかんでも教えてくれるので、知りたくないことまで知ってしまう。俺はそれを恐れている。


 悪気があって言っているのではないだろうが、なんでもかんでも他人の心が分かってしまうのは、正直言って恐ろしい。


 世の中には知らなくて良いことが沢山あるのだ。


「なぁ……シロ。

 たまには外へ出たいと思うか?」

「……うん」

「そうだよなぁ」


 俺が働いている間、シロはずっと部屋の中にいる。

 もっと外の世界へ連れ出してやるべきだ。


「なぁ、シロ。

 実は一週間後にお祭りがあるんだ」

「お祭り?」

「ああ、きっと楽しいぞ。

 だから……君も参加するか?」

「……うん」


 シロは小さく頷いた。

 そして……。


「ユージ、大好き」


 そう言ってほほ笑むのだった。

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