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137 不死王の処遇

 ハーデッドを反対派に引き渡すことを提案するクロコド。

 意図的に俺へと視線を向けて牽制する。


 奴はハーデッドを俺が匿っていることに、

 気づいているというのだろうか?


「ううん……それはちょっと可愛そうじゃない?」


 お気楽な反応をする魔王。

 レオンハルトらしいと言えば、らしい。


「確かに不憫ではあります。

 ですが、これはチャンスですぞ、魔王様。

 ここで恩を売っておけば、

 今後イスレイとの外交もやりやすくなります」

「反対派の反対派に恩を売るのもありなんじゃない?」


 頓珍漢なことを言う魔王。

 反対派の反対派ってなんだよ。


「魔王様の言う通り。

 ハーデッドの保護を訴える派閥も存在します。

 ですが、彼らの行動はあまりに遅すぎます。

 王がいなくなったと言うのに連絡一つよこしません。

 ハッキリ言って無能なのです。

 どちらと手を組むべきか明らかでしょう」


 一理ある。

 反対派は素早く行動に移した。

 彼らが有能である証とも言える。


 しかし……だ。


 短絡的にその誘いに乗ったら国際問題になりかねん。

 最悪、戦争になる。


 ことを穏便に済ませるとしたら現状維持が一番。

 秩序を守るために混乱は避けねばなるまい。


「私はハーデッドの引き渡しには反対します。

 もし反対派が打倒されることがあれば、

 イスレイとの遺恨は今後100年続くでしょう。

 あまりにリスクが大きすぎます」

「ならば、死体で引き渡せば良いのでは?」


 クロコドがまた変なことを言い出した。

 アンデッドの死体ってなんだよ。


「ハーデッドは不死の存在ですが?

 アナタは何をおっしゃっているのですか?」

「ククク、わしの気が狂ったと思ったか?

 なんとも浅はかな奴よのぅ。

 無論、考えがあったうえでの発言だ」

「その考えとやらをお聞かせ願いたい」

「……天使の勇者と言うのを聞いたことは?」


 天使の勇者?

 まさかその存在がここで出てくるとは。


「まぁ……聞いたことはありますが……」

「どうやら最近、ゼノ国内において、

 天使の勇者の姿が目撃されたらしいのだ」

「へぇ、なんでまた……」

「人間界でアンデッドを狩りつくしたらしく、

 新たな獲物を求めてこの地へ赴いたのであろう。

 その標的と言うのは……

 十中八九、貴様のことだろうなぁ」


 俺を見てニヤつくクロコド。

 これは暗に、気をつけろと俺に警告しているのか?


「私を狙って天使の勇者が……?」

「他に考えられん。

 まぁ、貴様がいなくなるのは願ってもない僥倖ぎょうこうであるが、

 今はそんなこと、どうでもいい。

 重要なのはアンデッドを排除できる力を持った勇者が、

 偶然にもゼノに存在しているということだ」

「つまり……?」


 俺が尋ねると、クロコドはやれやれと頭を振る。


「貴様も分からん奴だな、ユージよ」

「俺も全然分かんない」


 魔王が何か言っているが無視する。

 クロコドも無視した。


「その勇者にハーデッドを殺害させて遺体だけを引き渡せば、

 波風を立てずに反対派に協力することが出来る」

「なるほど……しかし、その試みは失敗すると思われます」

「何故だ?」

「その天使の勇者とやらが、

 真祖の血を消滅させては意味がありません。

 彼らの目的はあくまでハーデッドの血です。

 死体にして引き渡しても意味がないのでは?」

「ううむ……」


 クロコドは考え込む。

 良い作戦だと思ったのだろう。


 俺は続けて反論する。


「真祖の血が消滅する事態は避けるべきです。

 天使の力がいかほどか定かでないまま、

 安易にその力を当てにするのは得策とは言えません。

 むしろ、我々は体制派に協力すべきかと思います。

 今の状況で有利な条件を引き出せる派閥は、

 どちらかと言えばそちらの方でしょう」

「何故、そう思うのだ?」

「考えてもみてください、クロコド様。

 天使の勇者がゼノでうろついているのです。

 彼女を支持する派閥がそれを知ればどう思うでしょうか?

 一刻も早く手を打つべきだと考えるのでは?

 だとしたら……」

「我々に有利な条件を飲ませることができると?」

「……然り」


 クロコドは腕を組んで考え込む。

 魔王も同じようにしているがポーズだけだろうな。


「確かに、貴様の言う通りかもしれん。

 だが……」

「反対派に味方して不死王の称号を別の者に受け継がせれば、

 イスレイとの関係は強固なものになるでしょうね」

「そっ、そうだ……」

「ですが、やはりリスクが存在します。

 私は安易に彼らの提案に乗ることはお勧めしません。

 なぜなら……」

「そもそも今回の件は、連中が仕組んだものだと?」


 なんだ……ちゃんと分かってるじゃねぇか。


「ええ、タイミングよくハーデッドが失踪し、

 これまたタイミングよく反対派から連絡があった。

 早急に対応したと言うよりはむしろ……」

「ハーデッドが出奔を企てたのは、

 反対派がそそのかしたからだと?」

「その可能性は大きいでしょうねぇ」

「ううむ……」


 再び考え込むクロコド。

 やはりこの男は感情で動く奴じゃない。

 ちゃんと考えて発言している。


 シロの言っていることは本当かもしれない。

 彼とはできるだけ協力すべきだ。


「うわぁん……どうすれば良いの?

 俺には分からないよぉ!」


 頭を抱える魔王。

 彼の脳のキャパを超えてしまったらしい。


 これは非常に微妙な問題だ。

 短絡的に行動したら手痛いしっぺ返しを食らう羽目になる。


 ここは慎重に行動しなければならない。


「とりあえず、使者を出してイスレイに連絡しましょう。

 ハーデッド様がこの地に来ていると知ったら、

 彼女を支持する派閥も様子を見に来るはずです」

「そんなことをして、恨みを買われる可能性は?」

「大いにあります。

 ですが、切り札を握っているのはこちらです。

 我々がすべきは双方と同時に交渉を続け、

 有利な条件を提示した方に協力することです。

 どちらに肩入れすることもせず、中立を装い、

 ぎりぎりまで交渉を続けるのです。

 万が一、彼女の身に何があっても……」

「我々にはその責任を負う義務が無いと?」

「そう言って、突っぱねるのが得策でしょうねぇ」

「ううむ……」


 クロコドは悩ましい表情で黙りこくるが、

 積極的に反対はしてこない。

 魔王も多分、俺の意見に同意してくれるだろう。


「決まりですね。

 クロコド様は引き続き反対派とコンタクトを取って下さい。

 イスレイの体制派とは私が連絡を取ります。

 内密に会議を重ね、今後の方針を決めましょう。

 閣下もそれでよろしいですね?」

「え? ああ……うん。構わないよ」


 半分くらい寝ていた魔王。

 鼻ちょうちんを膨らませていた。


 緊急事態なんだから、もう少し話を真面目に聞いてくれよ。


「ふんっ、偉そうに。

 貴様が勇者の餌食にならんと良いのだがな!」


 クロコドは吐き捨てるように言い、部屋から出て行った。


 これは彼からの忠告として受け取ろう。

 俺を心配してくれているのかもしれないし。


「ああ、そうだ……ユージ」

「何でしょうか、閣下」


 部屋から出て行こうとしたら魔王に呼び止められる。


「いいことを思いついたんだけどさぁ、

 聞いてくれない?」


 わくわくした感じで話す魔王。

 悪い予感しかしない。


 今度は何を言い出す気なのか。


「いいこととは?」

「それはねぇ……」


 魔王が口にしたのは俺が全く思いもしない言葉だった。

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