136 簡単には受け入れられない
「よぉ、久しぶりだなぁ」
「…………」
俺は食堂で食事をとっているミィに話かける。
彼女は他の誰とも会話をすることなく、一人で食事していた。
「ユージ……」
「隣、座ってもいいか」
「いいけど……」
「じゃぁ、座るぞ」
俺は彼女の隣に座る。
「元気か?」
「……うん」
「皆とはうまくやれてる?」
「……別に」
「そうか……あはは」
「…………」
会話が続かない。
どうすればいいんだろうか。
俺はミィと喧嘩をしている。
理由はもちろん、シロだ。
俺は二人を引き合わせて、一緒に部屋で生活しようと提案した。
ミィは最初から拒否反応を示した。
シロが嫌いなのではなく、生活スペースに他の人がいるのが耐えられないらしい。そんなこと言ったら、俺はどうなるんでしょうねぇ。
そんなわけで、シロを拒絶したミィだが、彼女の主張をそのまま受け入れるわけにはいかなかった。俺は何とか同居を認めさせようと辛抱強く説得を続ける。
ミィの気持ちも分かるが受け入れてくれないともっと困る。
あの子にも行き場がないのだ。
しかし、ミィは首を縦に振らず、結局部屋から出ていくことになった。
何処にも行く当てがないので、仕方なくマムニールの所へ転がり込んだミィ。彼女が部屋を出てから一度も会いに行けなかった。
「なぁ……そろそろ帰ってこないか?」
「……そうだね」
「おおっ、じゃぁこのまま……」
「今はまだ……」
「ダメ?」
「うん……」
ダメらしい。
まぁ……彼女なりに、シロを受け入れようとしているのだろう。そう信じようじゃないか。
しかし……何が嫌なのかなぁ。
シロって見た目は小さい子供だし、同年代の同性が一緒の部屋で暮らすのとは違う。
ミィは生活環境が変わるのが嫌なのかもしれない。もし彼女がシロと仲良くなることがあれば、今後の展開も変わってくるかもしれん。
一度、シロをここまで連れてくるか?
そうすれば……。
「ねぇ、ユージ」
「……なんだ?」
「私のこと、嫌いになった?」
「どうしてそう思う?」
「私のわがままで、迷惑をかけたから」
「迷惑? 迷惑なんてかかってないぞ」
「本当に? じゃぁ……」
「嫌いになんてなってない。安心してくれ」
「よかったぁ……」
心底ホッとしたようにするミィを見て、俺は何とも言えない気分になる。
彼女は決してわがままを言っているのではない。見た目が幼い少女のシロが相手でも、距離を置きたくなってしまうようだ。
ミィは割とガチのコミュ障だ。人との距離の置き方が分からない。友達が作れないどころか、知り合いと普通に会話することすら難しい。
シャミやベルが協力しても、なかなか友達が作れないでいる。そんな彼女が他人と同じ部屋で生活するのは、あまりに難易度の高い試みなのだ。
彼女がシロを受け入れるには時間が必要。
ミィがシロを受け入れられれば、彼女にとって大きな一歩となるはずだ。いわばリハビリみたいなもんだ。
少しばかり時間がかかったとしても構わない。
ミィの心が変化するのを、俺は待つつもりだ。
「じゃぁ、俺はこれで……」
「え? もう行っちゃうの?」
「色々とやることがあってな。
君の力を借りることになるかもしれん」
「うん、いつでも言って。
私にできることなら、何でもするから」
なんでも……ね。
ハーデッドの問題がどうなるか分からないし、もっと面倒なことになるかもしれない。彼女にも手伝ってもらうことになるだろう。
「武装はちゃんと持ってるよな?」
「うん、ベッドの下に隠してる」
「もしもの時は、黒騎士になって助けに来てくれ。
君は魔王と同じくらい強いからな。
頼りにしてるぞ」
「うん……私を頼ってくれて嬉しい。
頑張って戦うね」
別に頑張らなくてもいいのだが、戦うのは苦にならないらしい。
どんな恐ろしい敵にでも立ち向かっていけるのに、シロと同じ部屋で暮らすのはダメ。彼女の心境がよく分からない。
「部屋に帰りたくなったらいつでも言ってくれ。
直ぐに迎えに来るから」
「うん……もう少し待ってて。
心の整理が付いたら……」
この様子だとまだ少し時間がかかりそうだな。
気持ちの整理がつくまで今しばらく待とう。
んで、魔王城の会議室。
ここにいるのは俺と魔王。
クロコドと牛とカエルの獣人の5人。
何気に、シロの騒動後から初めて開かれる会議である。
クロコドは後任を既に指名しているが、まだ正式な幹部としては認められていない。
「ここ数日、街で騒ぎになっていた誘拐事件ですが……」
俺は翼人族が引き起こした誘拐事件について正直に報告した。
クロコドから文句を言われたが素直に謝っておく。
翼人族を引き入れたのは俺なので何を言われても仕方ない。
仕方ないのだが……。
「あっはっは! ユージはおバカさんだな!
また同じことが起こったら、めって、しちゃうぞぉ!」
笑いながら言う魔王。
この人に言われるとなんか腹立つ。
「他に報告することはないかなぁ?」
「魔王様、わしからも……」
クロコドが発言するようだ。
俺に文句を言うくらいしか発言しないのに、珍しいことがあったもんだな。
何を言うのか黙って聞いてみよう。
「実は……わしの所へイスレイから使者が来まして。
ハーデッドが失踪したようです。
なんでもゼノへ逃れたとか……」
おおっ、もう話が来ていたか。
それなら話は早い。
さっさと連れ帰ってもらおう。
俺が発言を求めて手を上げようとすると、クロコドは続けてとんでもないことを言い出した。
「イスレイの上層部はハーデッドを謀殺するつもりのようです
彼女を見つけ次第、身柄を引き渡して欲しいとのこと」
「え? なんで⁉」
驚愕する魔王。
これには俺も驚いた。
「なんでも、先代の不死王は誰に相談することもなく、
今のハーデッドに血を受け継がせたそうです。
それを快く思っていない者たちが、
始祖の血を取り戻すつもりのようで……」
「でも、全員が賛成してるわけじゃないんでしょ?
反対してる人もいるんじゃないの?」
魔王らしくない冷静なツッコミ。
「ええ、わしの所へ来たのは、
反ハーデッド派の者たちが送った使者です。
イスレイの総意ではないと考えます」
「じゃぁ、安易に引き渡さない方が……」
「その通り。ここは考えどころですよ、魔王様。
どちらにつくにせよ、ハーデッドを確保すれば、
我々はイスレイに対して強い影響力を持ちます。
一刻も早く彼女の身柄を確保すべきでしょう。
まぁ……わしとしては……」
にやりと笑って俺を見るクロコド。
「断然、反対派に引き渡すことをお勧めしますがね。
次の不死王は我々に感謝することでしょう」




